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328 炊き出し
しおりを挟む#328 炊き出し
思うところがあって始めた炊き出しだが、盛況だった。
盛況すぎてあちこちで順番待ちの争いが起きている。順番を抜かすな。押すな押すな押すな押せ?
いやまあ、何が言いたいかというと、思ったよりも人が集まっているという事だ。まだ残ってるだけで数百人はいるんじゃないだろうか。
大鍋で5杯はいけると思ってたんだけど、それじゃ足りないかもしれない。
スラムの人と思しき人たちは列から弾かれて遠くから見ているだけだ。一番炊き出しが必要な人たちだというのに。
「お、肉が入ってるぞ!」
「何!俺にもよこせ!」
「ちょっと、ずるいわよ。私にも入れてよ!」
俺の在庫からオーク肉を少し入れたんだが、失敗だったかもしれない。芋だけでよかったかも。
「さあ、まだ後ろに並んでる方がいらっしゃいます。受け取った方は横に避けてください」
セルジュ様は流石に慣れてるな。それに生き生きとしている。多分だが、政治家としての聖女よりもこう言った現場の方があってるのだろう。
「セルジュ様、そろそろ麦がなくなった来たのですが。。。」
「あら、じゃあ芋汁にしましょう。さっき食料品店の方に芋の在庫が余ってると聞きましたの。持って来てくれるように頼んでおきました。
葉野菜もあるという事でしたので、食べ甲斐はあるでしょう」
あら、既に手配済みですか。それにしてもあの食料品店の親父、商魂たくましいな。余っててどうしようもない芋を売りつけるなんて。
でも余ってるほどある芋を炊き出しにして不満は出ないだろうか?麦がゆだと思って来たら食べ飽きた芋汁だったら、、、いや考えても仕方ないか。ちょっと塩を多く入れておけば大丈夫だろう。幸い塩は大量にある。
「さあさあ、聖女様の炊き出しだよ!麦がゆか芋汁か!早いもんがちだよ!」
オーク肉一塊りで雇った呼び込みだ。
今日の炊き出しは別に慈善事業ではない。
目的はセルジュ様の知名度アップだ。
普通なら聖女の知名度は普通に高いのでこんなパフォーマンスは必要ない。
だけど、今は必要だと考えている。
魔族だ。
魔族は的確に聖遺物などのある場所を狙っている。聖遺物は確かに魔力が大きいが、遠くから場所を見つけられるようなものではない。
つまり、どこにあるかを人間社会の中で調べているのだ。
そこで聖女の噂が立ったらどうするだろう?
聖女を取るに足らないと放置するなら良いが、そうでない場合、聖遺物と同様に襲ってくるだろう。
魔王の障害となるかは分からないが、可能性はあると思う。
そしてこれから一年は俺と一緒にイングリッド教国で過ごすのだ。セルジュ様を狙って来てくれるならその方が魔族退治には好都合だ。
俺はこの依頼を1年もかける気はない。
セルジュ様を狙って来た魔族を倒し、情報を得る。得られなくても魔族の戦力は削れる。
最終的には魔王の情報が得られればベストだ。
そのための釣り餌が聖女であるセルジュ様だ。
正直狙われるリスクと対価で悩んだが、これはセルジュ様からの依頼だ。リスクは負ってもらおうと思う。
俺が守れば良いだけだと思ってるのも事実だ。俺の奢りではないと思いたい。
「さあさあ、聖女様の炊き出しだ!他の人も呼んで良いよ!どんどん食べておくれ!」
いや、もう材料がなくなって来たんだけど。もう呼び込みは良いんでないかい?
あ、芋汁にはオーク肉を多めに入れておこう。それで不満は多少はマシになるだろう。聖女の人気取りなのに不満が出たら逆効果だからな。
「ジン様、領主様が視察にいらっしゃいました」
「うん?そうか、俺が対応しよう」
「うむ、炊き出しは順調なようだな。ご苦労である。塩は助かったぞ。衛兵は置いていくから安全は保たれるだろう」
本当に慰労だけのようだ。
セルジュ様と話したいという事なので、少し時間を作って来てもらう。
「初めまして。聖女を務めておりますセルジュと申します。今回は警備の方を手配していただきありがとうございます」
「どういたしまして。聖女様のお役に立てたならこれほどの喜びはありません」
「これは些少ですが、、、」
セルジュ様がオーク肉の塊を渡す。芋汁に入れようとしていた肉だ。
「おお、貴重な肉をありがとうございます。おい、お前たち、今日は肉料理だ!」
「おぉぉ!」
すいません、周りには肉を食べれない人がたくさんいますので、そういう話は小さい声でお願いします。不満はセルジュ様の支持率に影響しますので。
炊き出しは無事に終わった。最後にはただの塩水みたいなのだったが、その頃にはスラムの人たちだったので文句は出なかった。
これからも旅の途中で日程に余裕があればやってみよう。広い地域で浅く広くが人気取りには有効だからな。
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