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232 馬車の旅
しおりを挟む#232 馬車の旅
翌日、俺たちはさっさと屋敷を後にした。他に泊まっていた貴族令嬢の目が気になったからだ。もちろんメイドもやばい。職業意識がなければ夜中に襲われてもおかしくなかっただろう。
さて、馬車での移動だ。移動中は問題ない。馬車には俺たちしかいないからね。
だが、休憩中のフェリス様付きのメイドの目は熱を帯びている。
こんなに発情して日常生活に影響はないのだろうか。
最も、これは人族に対してのみ起きる事だそうだ。今までは人族と接触がなかったので表面化しなかったが、そういうものらしい。詳細は研究者が解析してくれるだろうが、俺に興味はない。
しかも、使節団の男性よりも俺の匂いはやばいらしく、当社比数倍らしい。
俺の匂いが発情条件って終わってるだろう。俺がこの大陸に入れるのは発情期を外した期間だけとか。俺はこの大陸でも観光がしたかったんだが。。。
山や海、森などがあれば風景を楽しむ余裕も出来たが、ひたすら平原を走るだけの馬車に娯楽はない。
俺はひたすら魔法の練習をしていた。馬車で出来ることなんて他に思いつかなかったのだ。
おかげで魔力操作はレベルが上がった。
肉体強化や魔闘術での光の漏れもなくなった。これで安心して使える。
馬車の中ではほのかに光る俺は怪しく映っただろうが、見ていたのはパーティメンバーだけなので問題ないだろう。
「ジン様、馬車から魔力を感じたんですが、何かありましたか?」
「大したことないですよ。暇だったので、魔法の練習をしていただけです」
「そうですか。魔物でも見つけたのかと思いました。魔法の練習は馬車の中でも出来るものですか?普通は人形に向かって魔法を放つものだと思ってましたが?」
「それは攻撃魔法の場合ですね。身体強化や補助魔法は別に馬車の中でも出来ますよ」
「なるほど、身体強化ですか。私たち獣人は気が昂ると自然と身体強化を使うので、練習をした事がないんですよね。やったほうがいいでしょうか?」
「そりゃやらないよりはいいと思いますが、自然と出来ているのであれば、十分じゃないですか?」
「そうなんでしょうか」
フェリス様は魔法=攻撃魔法くらいにしか考えてないらしい。魔法って結構いろんなこと出来るのにね。
「武器に魔力を纏わせれば強力な武器になりますし」
「私たちは武器よりも爪などで闘いますので、身体強化で爪も強化されるので十分なんですよ。武器を使用するのは戦闘力の低い種族くらいでしょうか。私も一応武器を携帯してはいますが滅多に使いません」
「それは羨ましいですね。武器が壊れたら終わりの戦士職から怒られますよ?」
冗談で言ったつもりなんだが、反応は大きかった。
「ええ?それだけでですか?
鉄の剣なんてすぐに折れるでしょう?私も身体強化すれば爪で切れますし。そんな柔いものなんだから、予備は持ちますよね?」
どうやら鉄の剣は柔いもの扱いらしい。冒険者はその柔い武器に命をかけてるんだけど。
先日王都で模擬戦を行ったが、剣に魔力を流して強化していたので気づかなかったようだ。獣人の爪すげえ。
それに問題も判明した。重要人物と会う上で獣人が武器を持ってないからと言って安心できないことだ。獣人の体全部が凶器、そう考えておいたほうがよさそうだ。
移動の途中は出来るだけ村などによらなくて良いようにしているが、全くよらないわけにもいかない。フェリス様の公務として村などの視察もあるからだ。
俺の馬車は村の外れに置かれて、馬車からも出れない生活だが、襲われるよりも良い。「俺が」襲うのならありだが、襲われるのは遠慮したい。
ある時、村のはずれで馬車で一人で暇していると、馬車の中が急に明るくなった。周りを見ても誰もいない。パーティメンバーは皆村長の家で食事を取っているはずだ。
ことっ。
後ろから音が聞こえた。
一人の少女が座っている。フリルのついた緑のワンピースを着ている。
どこかで見たことがある。ああ、そうだ、図書館で見かけた子だ。ファウって名前をつけたっけ。
「、、、げん、、、き?」
「君か。前はいきなり消えたからどうしたのかと思ってたよ」
「、、、ごめ、、、んなさ、、、い」
「いや、良いんだよ。それにしてもいきなり現れたね。どこにいたの?」
「、、、」
彼女はふわふわっと映像が乱れるようにブレると、ふっと消えた。
何しにきたんだろう?と言うか誰?
いきなり現れたり消えたりするのは普通じゃない、はずだ。獣人大陸だと普通だとかないよね。
彼女が消えたからか、馬車の中が急に暗くなったがよく考えれば元の明るさだ。
光の魔法を使って、彼女がいた場所を調べるが何も見つからない。魔力で感知しようともしたが、何も感じない。ふっと現れたり消えたりしたから魔法的な何かかと思ったんだけど違うんだろうか。
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