219 / 351
219 模擬戦 (3)
しおりを挟む#219 模擬戦 (3)
勝ちはしたが、実際のところ、勝った気がしない。
遠距離だけで倒したからだ。俺のステータスで負ける可能性なんて考えてなかった。<剣術>のスキルに表せられない部分で負けていた。接近戦だったら<体術>も使ってくるだろうし、本当に負けていたかもしれない。
俺は今まで驕っていたのかもしれない。高いレベルとステータスに頼って、技術を磨いてこなかった。もちろん魔物を倒す工夫はしたが、それはしっかりと体系的な訓練した人と比べれば些細なものだったのだろう。
俺が反省している間に、セルジュ様がセルゲイさんを治療していた。飛剣は防いだ様だが、魔法が防げなかった様で、身体中の防具がない部分から血が流れていた。
セルゲイさんは気を失っている様で、治療の後、担架で運ばれていった。
獣人の兵士たちは団長が負けるとは思ってなかったのか、静かだ。まさか襲ってこないよな?
そうすると、次第に歓声が上がりだした。
「すげーぞ!」
「団長を倒すとは!」
「強いな!」
「おー!」
俺への歓声だ。どうやら強いものを敬う文化はまだ根付いていた様だ。
兵士たちが俺に群がってきて、俺は胴上げされていた。いや、剣持ってるから危ないよ?
10回ほど放り上げられた後、一斉に全員が離れた。当然俺は背中から落ちる。痛い。
学生のノリでやる事があるのは知っていたが、まさかここでやられるとは。
兵士たちはその後も興奮状態で、戦いのどこがすごかっただの、あれはこうした方が良かったなどと、模擬戦の感想を言い合っていた。
すると、兵舎の方から樽が運ばれてきた。コップも一緒だ。
まさかとは思ったが、エールらしい。昼間から酒を飲むとは思ってなかった。君たち戦ってないよね?まあ宴会なんだろう。俺たちの模擬戦を肴に。
アキレスさんが俺のところに来て、話しかけてきた。
「強いと聞いていたが、これほどとは思わなかった。彼はわが国でも屈指の実力者だったんだが。良い勝負だった。
ところで、そなたの実力は人間の中ではどの位になるのかな?」
まあ、気になるだろうな。
「私はSランク冒険者ですので、冒険者の中では強い部類に入ります。各国に数人はいるんじゃないでしょうか?騎士団に関しては私は手合わせをした事がないのでわかりかねます」
「そうか。人間の国にも強者はいるのだな。大変参考になった。ご苦労だった。後で褒美をとらせよう」
褒美はこの国の通貨がいいです。言わないけど。
帰りにこの国の通貨で金貨10枚もらった。褒美らしい。模擬戦一回で1000万は美味しいね。
当然使節団からもお金はもらっている。ザパンニ王国の白金貨1枚とラグランジェ王国の金貨10枚。多いのは勝ったかららしい。1億円。Sランクの依頼も美味しいね。国の威信をかけた模擬戦なのでこのくらいは出せるそうだ。
今日はすごく勉強になったし、反省点も見えた。お金より貴重だったんじゃないだろうか?
セルジュ様と一緒に教会に帰ると、ジミーさんが迎えてくれた。
「お怪我はありませんでしたか?」
どうやら騎士団長と試合をするという事で心配してくれたらしい。
「大丈夫ですよ。それなりに鍛えてますから」
嘘です。実際はすごく危なかったです。ちょっと対応を間違えていたら死んでたかも。
今日はゆっくり寝よう。
翌日、ジミーさんが部屋に来て、風呂に誘われた。
「ジン様、風呂はどうですか?人間の国に風呂の風習があるかは知りませんが、体が休まりますよ?」
「え?風呂があるんですか?今まで聞きませんでしたが」
「ええ。毎日風呂を用意できないので、10日に一度入れる様にしています。教会の人間なら誰でも入れますので、ジン様もどうかと思いまして」
とてもありがたい。
メアリーとリリアが顔を輝かせている。これは入るしかない。
「ぜひ、お願いします。何か必要なものはありますか?」
「いえ、タオルや石鹸なども風呂場に用意してありますので、着替えだけお持ちください」
俺たちは勇んで風呂に向かった。
ジミーさんも一緒に入る様だ。
「ご一緒させていただいて申し訳ありません。ですが、貴人専用の風呂というものがありませんので、教皇様もこの風呂に入られます。女性用はもっと頻繁に入れる様にして欲しいという要望が多いのですが、これは経費の問題で今の様になっております」
女性の方が綺麗にしたいだろうしね。
「王宮にもないのですか?」
「この様な大きな風呂はありませんが、一人用の風呂はあると聞いた事があります。ここは直接薪で沸かしていますので、常時暖かいですが、王宮の風呂は、一回毎にお湯を持ってきては入れるので、入ることには温くなっているそうです」
「便利な様で不便ですね」
「はい。これは神官の特権ですね。ははは」
暖かい風呂は王族の風呂よりも贅沢らしい。
0
お気に入りに追加
757
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる