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096 <転移>の暴露
しおりを挟む#096 <転移>の暴露
俺たちは、最初の方で街道から逸れたこともあり、追っ手には見つからずに北へと逃げていた。
しかし、北に逃げても徒歩では限界がある。
捜索範囲を広げた騎士に見つかるだろう。
俺は休憩している間、非常に悩んでいた。
能力の一端を見せるかどうかだ。
別に能力値が多少高い程度のことではない。
それは<転移>に関してだ。
以前失敗してから、何度もイメージを重ねてきた。
高速で戦闘するようになって、何となくイメージが固まってきていた。
先ほど、目視した場所への<転移>を成功させた。
これなら、魔力さえあれば、遠距離も可能だろう。
<神聖魔法>もそうではあるが、こちらは神官が使えることもあり、それほど問題ではない。最悪バラされてもなんとかなる。
しかし、<転移>は遺失技術。数十年前の大賢者が使えたと伝えられているだけなのだ。使えると分かれば、国がなんとしてでも囲い込もうとするだろう。
いざという時に王族を逃がしたり、戦争で相手の背後に兵士を送り込んだり。使い道はいくらでもある。
3人ともバラさないと約束はしてもらえるだろうが、誘導尋問に口を滑らせたりする可能性もあるし、移動時間など、誤魔化せなくなる可能性もある。
そう行った、リスクを考えて、悩んでいるのだ。
俺一人なら検問ごと突破すればいい。突破すれば、馬より速く走る自信がある。
しかし、それは3人を捨てる行為だ。残されたら、いずれ発見され、確実に政治利用されるだろう。人質として。女としての尊厳を踏みにじられる可能性もある。
旅が始まる前だったら、じゃぁさようならと出来たかもしれないが、今は情も湧いてしまっている。
悩んでいると、殿下が近寄ってきた。
「ジン様、これを」
「ん?これはなんですか?」
「正式な条約の書類になります」
「なぜ私に?」
「私たちに何かあった場合、最優先で国に届けてください。
ジン様だけなら切り抜けられるでしょう?」
殿下は自分よりも条約を優先することにしたらしい。
「私が生きている必要があったのは、条約を確実に交渉するためです。
すでに条約にサインを書かせた以上、私の命よりも、この書類の方が価値があるのです」
殿下らしいというか、なんというか。
まあ、情を抜かして考えれば正しい。しかしそれだけで決められないのが人間だ。
「殿下、流石にそれは。。。」
「私も簡単に死ぬつもりはありません。
ですが、ジン様が持っているのが一番安全だと判断しました」
「ふぅ、とりあえずお預かりしますが、死なせませんよ?」
「ええ、ぜひ生きて国に戻らせてくださいね」
考えるまでもなかった。俺は悩んでる時点で3人を殺されたくないのだ。
ならば、考えるべきは<転移>を使うかどうかではなく、どうやって秘匿するかだ。
「殿下、少し相談があるのですが、良いですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「秘密の話なんですが、絶対に誰にも話さないと約束してもらえますか?」
「ジン様ですから、何か理由があるのでしょう。王女の名において誰にも話さないことを約束します」
「では、話しますが、、、私は<転移>の魔法が使えます」
「え?!あれは伝説では?」
「いえ、先ほど短距離で使えることは確認しました」
「えっと、すいません、ちょっと待っていただけますか?」
殿下は流石に混乱しているようだ。
それはそうだ。大賢者しか使えなかった、伝説の魔法が使えると言っているのだから。
別に信用してもらう必要はないのだが、秘匿の協力者になってもらうには信じてもらわないと。
「その<転移>魔法を使えば、4人ともザパンニに帰れるのですね?」
「そうですね。その可能性は高いです。一人で短距離の検証しかしてませんので、確実とは言えませんが」
「なるほど、<転移>魔法となれば、秘密の話というのも頷けます。
それで悩んでいるのは、秘匿方法ですか?」
「ええ、バレたら、流石にザパンニ王国といえども囲い込むでしょう?」
「そうですね、間違いなく」
「3人なら話さないと信じたいところですが、うっかり漏れてしまうかもしれません。
脱出の際の話とかでつじつまが合わないとかで、疑問を持たれるかもしれませんし」
「ならば最初から<転移>魔法が使えることを公開してしまえば良いではありませんか。
一人しか運べないとか、何キロ以下だとか、軍事的に使えないようであれば、それほど危険はないのでは?」
「そうなんですか?
国がどういう条件の者を囲い込みたがるのかが分からないので、何とも言えないのですが」
「そうですね、国が囲い込む条件の一つは、軍事利用です。敵の後背に部隊を送りこめれば、戦争は非常に有利になります。
他には、要人の緊急避難でしょうか。敵に攻め込まれた時に、陛下を脱出させるなどです。
利用方法としてはいくらでもありますが、運べる量を1日1人までとか条件をつければ、軍事利用はまずなくなるでしょう。
要人の緊急避難に関しては、王城には秘密の抜け道などもありますし、常にそばに置いておくわけにも行きませんので、それほど重要視されないと思います。
それに、他にも<転移>魔法に制限はありますよね?」
「そうですね。まず、魔法陣が必要です。
また、距離や移動人数によって、必要な魔力が比較級数的に上がると思われます。
今回の件に関しても、3人連れて行くのと、距離が遠いので、魔力が足りるかわかりません」
嘘だ。魔法陣は必要ない。明確にイメージできればどこでも構わない。
「ならば余計に1日1人の条件はおかしくありません。魔力が足りないと言えば良いのですから。
現状、人の残りの魔力量を測る魔法具やスキルは存在しません。なので、本人が足りないと言えば足りないのです」
なるほど、人物鑑定でスキルlvが見れないのと同様にMPも見れないのか。
「なるほど、では、基本的には秘匿すると言うことで、他の2名にも1日1人だけだと伝え、バレても制限が大きいので使い物にならない、としましょうか。
そして、実際に1日1人で運びましょう」
「ありがとうございます。それで、どこなら<転移>可能でしょうか?」
「ロービスの私の購入した家ですね。ロービスの家には魔法陣が書いてあります。」
嘘だ。魔法陣は書いてない。
「なるほど、魔法陣がないとダメなんですね。これも制限になりますね。
それでは、ロービスまでお願いできますか?」
「わかりました。では、とりあえず、二人に話しましょうか」
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