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第6章 マルモス王国編

113 同行者

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#113 同行者

「私も連れて行ってもらおう」

 婚約者候補だ。最初に勝負を挑んで来たのでちゃんと挨拶もしていないので名前は知らない。

 本来はハンバルニ王国から連れてきた騎士たちが付いてくる予定だったが、マルモス王国からも護衛を付けられた。まあ自国内で死なれたら困るだろうしね。
 問題はそれに婚約者候補が付いてきたのだ。何でも直接実力が分からないのならばダンジョンでの俺を見て結論を出すそうだ。諦めてくれても良いんだよ?

 ああ婚約者候補の名前はエリスと言うらしい。本人が名乗らないので仕方なく騎士の方に聞いたのだ。国では有名人らしく、国民の人気も高いらしい。多分皆んなが自分を知っているのが当たり前なので名乗りなれていないのだろう。

 付いてくるのは良いけど俺のことを見張るかのようにじっと見てくるのはやめて欲しい。馬車は別にしてもらったので移動中は良いのだが、休憩中はずっと俺を見ている。
 胸は薄いが美人だしスタイルもいいしなにより健康的だ。最初の残念な出会いさえなければ普通に婚約者として連れて帰ったのにね。


 そんな旅の途中に魔物に襲われた。

 まあどこにでも居るゴブリンだ。ただその数が尋常ではなかった。街道脇の森から出てきたのは数百匹も居るだろうか。あっという間に囲まれてしまった。
 騎士たちが周りを囲むようにして戦っているのだが、数に押されて徐々に疲労が溜まっていく。

 それを見かねたのか、俺の側で護衛していたエリスさんが護衛の囲みを抜け出して何か偉そうなゴブリンに突撃した。

 所詮はゴブリン、実力者と戦うと一太刀で薙ぎ払われていく。別に騎士たちが弱いわけではない。あくまで俺を守る必要がある為に取れる選択肢が少ないのだ。多分俺がいなかったら一点突破するなりして体制を整えたんだと思う。まあ、俺が足手纏いだったと言うだけの話なんだが。

 そしてエリスさんが偉そうなゴブリン(ゴブリンエリートと言うらしい)を倒すと、残ったゴブリン達は一斉に森に逃げ出した。

 上位のゴブリンには下位のゴブリンを率いる特殊な能力があると言われており、今回は率いているゴブリンエリートが死んだ為に戦いたくもなかったゴブリン達はこれ幸いと逃げ出したようだ。
 上位の魔物が必ず下位のものを従えれるわけではないらしいが、少なくともゴブリンはそうらしい。命令は絶対のようで、無謀な突撃をすることもあるとか。

 まあゴブリンの生態はどうでも良いが、戦闘の後始末をしている騎士の中をエリスさんが近寄ってきた。ゴブリンエリートの死体を担いで。

 俺の前に死体を投げ出すとない胸を張ってドヤ顔を決めて見せた。
 多分自分の実力を誇示したいんだろうけどわざわざ俺の前に死体を持ってくることといい、あざとい。

 何か言いたげな顔をしているのでじっと目を見返してやると、途端に目を泳がせ落ち着きがなくなる。ゴブリンエリートを倒したことを自慢したのが恥ずかしかったのだろうか。
 因みにゴブリンエリートの強さは騎士が10人も居れば倒せる程度らしいので、雑魚ゴブリンを無視すれば他の騎士よりも強いと言う程度の感想だ。誇示されるほどではない。
 本人はボスを倒して興奮して自慢しにきたけど、実際には誇るような相手ではなかった事に気付いて恥ずかしくなった感じだろうか。

「護衛有りがとうございました」

 一応声をかけておく。死体まで持ってきて見せてきたのだ、何も言わないわけにもいかないだろう。

「あ、いや、この程度の魔物くらいは楽勝というか、ジン殿でも問題なく倒せたのであろうが、つい突っ走ってしまったと言うか。直衛をはずれて申し訳なかった」

 いや、俺は通常のゴブリンと一対一でなんとか勝てるレベルなので上位種にはかてませんよ?

 彼女は俺に模擬戦を挑んで来たことといい、俺が強いとでも思っているのだろうか?

「いえ、俺だけなら瞬殺されてたでしょうから助かりました」

「ジン殿は謙虚なのだな。陛下が決して敵に回してはいけない相手だと仰っていた程の武勇を持っているのに誇らないとは。私もそう在りたいものだ。こんな魔物を倒した程度で自慢した自分が恥ずかしい」

 はて、陛下が「敵に回してはいけない相手」と言ったのは女神様との関係を指しているのだろうが、彼女は決して勝てない相手だと受け取ったようだ。
 もしかしたらグリッドさんに頼めば魔物くらい倒してくれるのかもしれないが、最近は何故か「ちょっと思っただけの願いも叶えていた」のが無くなっている。正直先回りしてお金を出したりしなくなったので助かっているが、もしかして常時俺を見ているのを辞めたのかもしれない。
 この間もリリアーナさんに追加の化粧品をあげようと頭の中でお願いしたのに反応が無かったし。流石に化粧品をもらう為に奥殿を使うのも躊躇われたので結局リリアーナさんにはあげれなかったと言うことがあったばかりだ。
 今回も願っても魔物を倒してくれた保証はない。

「いえ助かったのは事実ですよ。騎士達にも被害はなかったようですし良かったです」

 数が多いとはいえ所詮ゴブリン。もっと戦闘が長引けばどうなっていたかは分からないが、幸いにも怪我人すらいなかった。

 エリスさんはしきりに俺の武勇伝を聞き出そうとしてきたが、俺の戦闘経験は一度だけだ。それも通常ゴブリンと一対一で。正直にそれを伝えて強くないと言っても良かったのだが、彼女の憧れるような視線の前ではいい出せなかった。



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