上 下
89 / 124
第4章 アレグスト帝国編

089 袖の下

しおりを挟む
#089 袖の下

「クレア、俺も袖の下渡したほうがいいんだろうか?」

「どうでしょうか?使者であれば潤滑な関係を築くために必要でしょうけど、ジン様はどちらかと言えば格上になります。なので渡さないほうが良いかと思いますよ」

 俺の方が格上なのか。いや、正確には俺の婚約者の王女がいるから格上なのか。でもこの国ではまだ婚約は発表されてないんだよね。

 ふむ、袖の下を渡してどの程度扱いが変わるのか見てみようか?

「クレア、そこそこお金持って来てたよね?」

「ええ、お嬢様から多めに預かってはいますが、もしかして袖の下を渡すつもりですか?」

「ああ、どの程度効果があるか知っておきたくて。多分だけど、俺に袖の下を渡してくる貴族や商人もいると思うんだ。受け取らない方向で考えてはいるけど、もし受け取らざるを得ない場合にどのくらい差をつければ良いのかを知っておきたい」

「なるほど。それなら確かにやってみるのも良いかもしれませんね。いくらくらい包みますか?」

「使者どのはどのくらい包んだと思う?」

「銀貨十枚位じゃないでしょうか。それ以上だと毎回払うのは難しいでしょうし」

「じゃあ金貨1枚包んでみようか。使者どのと俺の扱いがどうなるのか見てみたい」

 まあちょっとした使者どのへの嫌がらせも含む。もし子爵様が露骨に俺になびいたら面白いと思わない?




「ジン様でしたか、御用があるとの事でしたが、何か不備でもありましたかな?」

「いえ、渡すべきものを渡して無かったと思い出しまして。こちらになります」

 小袋だが、金貨が1枚入っている。

 子爵は中をチラッと確認してニンマリを笑った。

「これはこれはお気遣いいただきありがとうございます。ジン様とはこれからも仲良くしていただきたいものですな」

「ええ、私も子爵様とは仲良くしておきたいと思います。中身はその表れだと思っていただければ」

「ウンウン、異世界人だからこちらの文化を知らないのだと思っておりましたが、ちゃんとお分かりのようで重畳重畳。明日の朝食は楽しみにしていてくだされ」

「ありがとうございます。楽しみにしてますね」

 そう言って応接室から出たが、どのくらい態度が変わるだろうか。

 一晩接待しただけで100万R。かなり美味しいはずだが。




「おはようございます、ジン様。今日も元気そうで何よりですな」

 俺は使者どのと一緒に食堂に入ったのだが、使者殿よりも先に俺に挨拶してきた。露骨に態度が変わったね。使者殿が唖然としてるよ。

「使者どのも座ってくだされ、朝食をいただきましょう」

 そう言ってメイドに案内されたのは、俺が上座だった。もちろん最上位には子爵様がいるのだが、その隣だ。明白に使者殿よりも上だと言っている。
 これだけ明確に差をつけられると使者殿が可哀想になってくるな。一応使者殿が正式な使者なんだけど。

 ああ、使者どのとしか言ってないのは正式に名乗ってくれないからだ。ちゃんとそれまでの他の貴族との会話からアイザックさんだというのは分かっている。だけど名乗ってくれない以上、俺は使者殿と呼ぶことにしている。

 食事中も主に俺に対して話しかけてきて使者殿にはほとんど話題を振らなかった。金貨の力って偉大だな。

 でもこれって俺が何らかの形で袖の下的なものをもらったらこう言った掌返しも必要だという事だろうか?なんか嫌だな。一晩でこうまで待遇が変わるとかえって怖い。

 それに貴族によっては袖の下を嫌がる人もいるだろうから相手を見ないとね。俺も嫌がれば持ってくる人はいなくなるだろうか?渡してきたら馬鹿にするな、とか言って叩き返したら2度と持ってこないかな?

 でも相手によっては受け取らざるを得ない場合もあると思うんだよね。もらっておかないと失礼に当たるとか。異世界人だからそういうのはいらないと最初から決めておけば良いんだけど。なんか皇帝陛下とかからもなんだかんだでお金を貰いそうな気がする。

 うん?結納金って俺が払うべきなのか?何となく向こうが払ってきそうな雰囲気だったけど。俺は結婚しなかったから詳しくないけど、男から払ったような気がする。この世界ではどうなんだろう?

「男性側から払われる場合が多いですが、婿入りの場合は女性側から払われまから、男女の違いではなく、迎える側が払うという感じでしょうか」

 なるほど。ならやっぱり俺が払わないといけないのか。でも俺って対してお金持ってない・・・(いらないですよ)・・・よね。

「ジン様は気にされる必要はありませんわ。向こうの方から言ってきた縁談ですし。ジン様にはこの縁談で得られる利益は全くありません。向こうだけが一方的に利益を得るんですから向こうから払ってくるのが当然です」

 そういう考え方もあるか。まあ俺は別に婚約者はいらないからね。国のメンツに関わるから貰ってくれって言われてる立場だし。この件に関しては俺のほうに決定権がある。ハンバルニ王国側が受け入れて欲しいっていうから従ってるだけで。生活の面倒見てもらっている以上、断れないんだよね。
しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...