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第2章 ロザリア王国編

068 デート

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#068 デート

 俺が婚約を受け入れた事で、ロザリア王国内でも公式に婚約が発表された。まあ貴族の間ではすでに既定路線なんだけどね。なんせ晩餐会で陛下が発表しちゃったらね。今回のは国民にも発表されたという意味だ。前から噂はたってたんだけどさ。


「私の領地では麦の生産が盛んで・・・」

「私の領地では鉱石が取れるので比較的裕福な・・・」

「私の商会は各国に支店がありまして・・・」

 俺となんとか知り合いになりたいと訪れてくる人たちだ。もちろん俺は王宮の別棟に住んでるので訪ねてくるのはそれなりの地位にいる人ばかりなんだけど、自慢とアピール合戦には飽きた。
 俺が37だからか、この世界では行き遅れと言われる女性まで紹介される。まあ俺的にはその位の年齢の方が安心できるんだけど、裏が透けて見えてうんざりだ。
 公式には俺はなんの手柄もあげてない事になっている。だけど、王女を婚約者に持つというだけでも俺に娘を嫁がせるのは意味があるらしい。俺にはわからんけど。



「ジン様、随分とお疲れの様子ですが」

 ハルフェ殿下が訪ねてきてくれたんだけど、彼女がいる間は面会しなくて良いからちょっと楽だ。

「面会ですか。断ってしまえばよろしいのでは?」

「え?良いんですか?」

「もちろんです。彼らは図々しいですからあちこちで同じようなことを言ってますよ。数打てば当たると思ってるのです。一々付き合ってたらこっちが持ちませんよ」

 なんだ、面会断っても良かったのか。
 俺ってまだ日本人なんだね。ある意味アイデンティティーが残ってて良かったよ。

「じゃあ気晴らしに街に出ませんか?王都内でしたら安全ですし。お父様の許可も降りると思いますわ」

 そうか、王族は街に出るのにも王様の許可がいるのか。

「いえ、私だけですわよ?男性は許可は必要ありませんし、女性で婚約してないのは私だけですので。成人したのだから過保護だと言ってはいるんですけど、いつまでも許可が必要だと言われてて」

 ああ、可愛いんだろうな。
 って、そんな姫を俺になんか与えちゃダメだろう!
 いややめよう。また思考の渦に巻き込まれるだけだ。



 許可は簡単に降りた。デートしてこいとの事だ。なんか騎士が10人ほど周りを固めてるけど気にしない。気にしたら負けだ。

「ジン様、このネックレス素敵ですわ」

「ジン様、このぬいぐるみ可愛いですわ」

「ジン様、この服なんかどうでしょう?ジン様の意見も聞いてみたいですわ」

 まあ女性の買い物なんてこんなもんだろう。俺は似合ってるマシーンと化して居た。他に褒め言葉なんて知らん。貶すわけにもいかないし。
 それに値段が怖い。どの店も大きな店構えでいかにも高級品を扱ってます、という感じなのだ。多分王族の装備品としてはその位の格が必要なんだろうけど、俺の財布感覚とは全然違う。

「あちらの公園で少し休みましょうか」

 ああ、正直休憩は助かる。

 殿下が買おうとするのを止めるのに疲れた。俺のこっちでの収入は国からの金貨10枚のみ。あんなアクセサリーをポンポン買うような生活はさせられない。今のうちから言っておかないと。

「ハルフェ、俺の年間の収入は知ってますか?」

「えっと、金貨100枚くらいですか?」

「いいえ、10枚です」

「え、そんなに少ないんですの?」

「ええ、俺は一般人ですからね。国から異世界人だからという理由で10枚もらってます」

 実際には100枚とかいう話も出てたけど、あれってウィスキーの価格込みだよね?

「つまり、あんな宝石やアクセサリーは買えません。もし本気で俺に嫁ぐつもりがあるなら今からでも慣れてください」

「申し訳ありません。つい普段通りの感覚でいたので。そうでしたわね。ジン様は貴族でもなかったですものね」

「ええ、領地を持ってる貴族ならそれなりにお金はあるんでしょうけどね。ああ、俺は爵位はもらいませんよ?先に言っておきます」

「残念ですわね。ジン様なら子爵くらいまでならなれそうですのに」

「功績もなく貴族になんてなれるわけないでしょう。それに俺は数年でいなくなるんです。爵位なんてあってもなくても一緒ですよ」

「あら、帰るつもりでしたの?私との婚約を受けていただいたので帰らないのだと思ってたのですけど」

「帰りますよ。向こうでは辛い仕事も多かったですけど、愛着は・・・ないですけど、両親はおりますし」

「向こうではご結婚はされてたのですか?」

「いいえ、独り身でした。あまり女性とは縁がなくて。この歳まで独身だと色々と諦めるものですよ」

「もう大丈夫ですわ!私がついて居ます!寂しい思いはさせませんわ!」

 いやだから帰るんだってば。だから結婚はしないよ?婚約までは了承したけど。
 婚約は結婚の約束だけど、ここは詭弁で乗り切らせてもらう。あんなはめるようなやり方されたんだ。こっちも詭弁で躱させてもらおう。

「そうですか。それでは一つお願いがありますの」

 嫌な予感がする。

「ジン様との間に子供が欲しいですわ」

 やっぱり。結婚はしないし、子供も作らない。というか手を出すつもりはない。

「それは難しいですね。俺は元の世界に戻ったらこの世界で責任は持てません。なので子供を作るつもりはありませんよ」

 ある意味結婚はしないと言ったんだけど伝わったかな?

「そ、そうですか・・・」

 悲しそうな顔をしてるけど、これは絶対!バツイチの同年代ならお金を残してやれば済むだろうけど、16歳の将来は奪いたくない。ただでさえ俺との数年で若い時間を奪ってしまうだ。国の政治的配慮で失うには重すぎる。
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