嘘と月

長谷川

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過去編

3話

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日も暮れた頃、16時くらいだろうか

「外、楽しかった?」そう赤髪の女の子は聞いてきた。
「た…たのしかった、よ?」

そう言って直ぐに僕は逃げた。嫌なんだよ女の子と話すのは、何を考えているかわからない

そういやギター、なんの為に買ったのだろうか
弾けやしない、魅せることもできない
今更就職してもな、って言う逃げの思考から
僕はバンドマンになりたいと思っていた。思っていただけだった。練習はしているけど弾けないしさ、頭の中ではスーパースターだった

何ひとつ出来たこと無かったな…こうしてどんどんクリアになって幽霊同然の生活を死ぬまで送るんだろうなあ。そう思うと悲しかった

悲しんでばかりだった。






その日の夜、僕はテレビを観にホールへ向かうと
鮮やかな赤色の髪をした例の女の子に、左腕を掴まれた。僕の左手薬指の指輪のタトゥーをみて

「やっぱり!イタ彫りしてる!」

イタズラ彫り…自分でタトゥーを入れることだ
急にそんなテンションで来られても困る僕は


「うん、それがどうしたの」
素っ気なく言った。そしたら彼女も左手薬指の指輪のタトゥーを見せてきた

「私もやってる」

いやいや、右腕にも派手な、首にも派手なタトゥーしといて僕のしょぼいタトゥー何かに反応するなよって思った。

「一緒だね」なんて言って部屋に帰ろうとしたが
彼女はやたら話しかけてくる。
僕もスイッチが入ってしまい、その日は就寝時間まで会話をした。

彼女にはパートナーがいるらしい、ただかなりのクズで離婚の手続きの最中だそうだ

何かな…本音のところで少し芽生えていた恋心が折れた感じがした。

次の日いつも通り煙草を吸いに外出し院内の廊下を歩いていると
手を繋いで歩く男女が前から歩いてきた

あの子だった。そういや、名前は何て言うんだろう。あの子が僕に手を振る
クソ野郎と思いながら笑顔で僕も手を振り
"旦那"さんに会釈をする

重く捉え過ぎかもしれないが、遊ばれた感じだった。離婚するんじゃなかったの?付き合ってすらない友達ですらない僕は、そんなことを思ってしまった…


いつも通り変わり映えのない日々だ。投薬治療を受けご飯を食べて寝るだけ。唯一の楽しみは
あの子と話すこと。

その日の夜も僕は赤髪の女の子と話した
会話が弾み、流れに任せて
「名前、なんて言うの?」と質問した

「ナオ」と答えてくれた。母親も似た名前だったな。そんなことを思いながら僕はそれから
呼び捨てで毎日話しかけた。あとあと聞くと
ちゃん付けしてないことに引いていたらしい

女の子の名前を呼ぶ時は、"ちゃん"をつけような俺。

毎日が楽しかった。2人で院外に出て公園に行った。僕のiPadで動画をみたり 公園の遊具で
子供みたいに遊んだ。シーソーをした

ガタンッと僕の体重が掛かった。ナオは変な声を出すので、ドキッとした
でも楽しかった。女の子と二人きりで歩いてるなんてキセキかよ、これで手を繋げる関係ならば…と考えていた。






僕は16歳のあの日、道の白線を歩きながら
バンドマンになる事を決意した。それから6年
何も無かった。でもこうしてナオと出会えて
生きていて良かったと思った。 
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