嘘と月

長谷川

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過去編

1話

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春の夕方、僕は1万円を握りしめて楽器屋に向かっていた
エレキギターを買うのだ。ただ、この1万円は僕が働いた給料でもなく 僕が生まれてすぐに母と別れた父親から
もらったお金だった。無職で趣味もなかった22歳の春…
年甲斐もなく
「ギター買って~お願い!」と頼み込んだ…我ながら情けない。

楽器屋に着くとすぐに赤色の安いストラトキャスターを購入し、テンションMAXで頭の中で色んな妄想をしていた。
僕には友達も彼女もいない。生活保護を受け、一人でワンルームマンションに住んでいる。毎日が休日だ
生きていたって何もないし、人と会話だってすることがない。

でもこれからはギターがある。感情があるのか分からないけれど友達が出来た感じだった…
家に帰ってさっそくギターの練習を始めたが
全く弾けなかった。最初は誰だってそうだ

気付けば夜になり、今日も何も無かったな、いやギターをやっと手にしたんだった…無味なことしか浮かんでこなかった。

気付かないフリしていたことが真夜中になるに連れ
心から溢れ出てきた。孤独だった。
誰とも会話をしない数年を過ごし声も出なくなっていたし、出ても小さすぎて
「え?」
と言われるばかりだ。

午前4時になった頃、僕の周りにたくさんの幽霊が表れた
誰も信じないから、否、言える人が周りにいないから
僕だけがしっている霊感だった…

それが嬉しかったよ、一人きりの毎日に寄り添ってくれるのは幽霊だけだし…
でも本当は人と話したかった、見ないふりをした
抑えきれない孤独感が僕をおかしくさせているだなんて絶対に思いたくない。

どんどん自分が消えていく周りの幽霊たちが僕の心を攫っていく…僕は外に出た

朝になり、何故か精神病院の保護室にいた…
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