千里眼の魔法使い

夜乃すてら

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千里眼の魔法使い4 --囚われの小鳥と盗賊団--

4-2 生き残りの彼ら

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「生き残り……なんですか?」

 イスルの声は震えそうになった。
 イスルは運が良かったのだとよく分かっている。
 死の風が吹き荒れる中で生き残っただけでも、亡くなった人達への罪悪感が付き纏うのに、同じ境遇ですら運の良し悪しの違いがあった。

「ああ、そうだ。泥水をすするような思いをして、生き延びてきた。お前は幸運だったな、イスル・ブランカ」

 フェザーの茶色の目は冷めている。

「居場所がなければ奪えばいい。そう思わないか?」

 フェザーの問いかけに、イスルは黙り込むしかない。
 もしエイダの助けがなかったら、イスルはどうしていただろう。幼い子ども達だけでも生かす為に、彼らのように犯罪に手を染めたかもしれない。あの辛さを知っているから、イスルにはフェザーを否定できない。

「それでも、あんな、お金持ちの一家を皆殺しにするような必要があるんですか?」
「ああでもしないと、上の奴らは、俺達の存在を都合良く忘れるだろう。自分達にも関係があるのだと、よく知らしめてやらないとな。いつまで経っても何も変わらねえ」

 フェザーは問う。

「やり方が乱暴だと言いたいのか? だが、自分達の命を優先して、生き残りを見殺しにしようとするのはどうだ。むごいとは思わんか」

 言葉を失くすイスルに、フェザーはふっと笑った。

「お前のことは調べたが、なかなか良い奴だな。生き残りの子どもの世話をしていたとか。俺も仲間を食わすためにやって来たからな、お前の苦労はよく分かる。――俺に従うなら、手荒な真似はしないと約束しよう」

 よく分からないが、フェザーはイスルに親近感を抱いているようだ。まるでねぎらうようにそう言った。
 イスルが反応に困っていると、その時、扉が開いた。
 赤の魔女ブラッドが、ラナを連れて入ってくる。

「ラナ!?」

 驚くイスルのもとに、ラナは駆け寄ってくる。

「師匠!」

 そして飛びついてきたので、イスルは慌てて受け止める。

「どうして? 白の団にいたはずじゃ……。何故、ここに」
「アレットおじ様を探していたら、外に出ちゃってて……ごめんなさい」

 ふるふると震えるラナは、怯えているようだ。

(ああ、そうか。ラナの両親を殺したのは、この二人……)

 イスルはぎゅっとラナを抱きしめる。
 ブラッドはにこやかにフェザーに声をかけた。

「ちょうどうろついているのを見つけたの。白の団を見張らせていたから、簡単だったわ」
「そうか、よくやった。良いタイミングだ。こういう奴は、人質がいると断れない」

 フェザーは思惑ありげにイスルを横目に見た。

「その子どもはここに置いておいてやるが、妙な真似をするなよ。しわ寄せは全てその子どもにいくと思え」

 イスルはラナを見下ろし、結局、何も返事を出来ずに口を引き結ぶ。フェザーは口端で笑う。

「今日は休むといい。明日から働いてもらうからな」
「あら、フェザー。珍しく優しいわね」
「こいつ、ネズミみたいで可愛いだろ」
「ネズミを可愛いと思ったことはないわ」

 フェザーとブラッドは軽口を叩きながら部屋を出て行った。ガチャンと重たい音がして、鍵が閉まる。

「ラナ、大丈夫? 怪我は?」
「無いよ、大丈夫」

 目でも確認したが、何も無さそうだ。
 ひとまずほっとしたイスルは、ラナに問いかける。

「それで、アレット様を探してたって言ってたけど……アレット様に何かあったの?」
「うん、噂なんだけど……」

 その後、ラナから聞いた話に、イスルは眩暈を覚える。

「僕のせいだ。僕があの方を追いやった」

 頭を抱えるイスルの腕を、ラナはやんわりと握る。

「ねえ、おじさまは優しいから怒らないよ。ここを出たら、帰ろう。私、おじさまにも会いたい」

 ラナを見つめ、イスルは目を潤ませる。ラナの左手を優しく両手で包み込んだ。

「君がいて良かった。ありがとう、ラナ。そうだね、ここを出られるように頑張ろう」
「うん。まずは休まなきゃ、だね!」

 ラナは疲れていたようで、ベッドの壁際に寝転がると、すぐに眠りについた。
 イスルも隣で雑魚寝しつつ、ほっと息を吐く。
 子ども達は宝物だ。イスルが辛い時、いつも傍で助けてくれる。
 彼らの笑顔を見ていると、イスルの中に出来た氷が溶けていく。

(妹みたいだ)

 魔法の光を消すと、イスルも身を休めた。
 在りし日のリリーの笑顔がふわりと浮かび、闇へと消えた。
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