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第七章 ダンジョン探索テスト開始

6話・ザックの攻撃スタイル

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「でもザック君の攻撃スタイルって、突撃タイプだったんだねぇ!
お姉さん的には慎重タイプだと思っていたから、ちょっとばかし
ビックリしちゃったよ!」

ザックのケガを魔法で治しながら、アンネがそう問うと、

「はは…俺がこの攻撃スタイルになったのは、あいつらに追い付こうと
必死に頑張ってた弊害かもしれませんね……」

ザックが苦笑をこぼし、アンネの問いにそう答える。

「頑張ってた弊害?」

「……はい。あいつらって、ホント信じられないくらいのチート能力の
持ち主でしてね。それに追い付くには、攻撃に不必要で邪魔な行程は
全て捨て去り、そして尚且つ、相手を速攻で叩きのめすという戦闘を
心掛ける。ただそれだけを重点にした修行をしていましたから......」

ザックは己に科した修行の内容を振り返り、それをアンネに語っていく。

「ふん。言わば諸刃の特攻って所ですわね。闇雲に突っ込むだけで
美しさも華麗さの欠片もない...でもまぁ普通人の平凡三下には、お似合いの
泥臭い攻撃方法か、おほほほ♪」

サーシュが口角を上げてニヤニヤすると、悪びれない口調でザックの攻撃
方法を小馬鹿にしてくる。

「ちょっと、サーシュちゃん!それは言い過ぎ!」

口の過ぎるサーシュに対し、アンネが怒り口調で注意する。

「別に良いんですよ、アンネ先輩。本当にサーシュ先輩の言う通りですから。
それでも…例え美しさも華麗さもない攻撃と言われようとも、俺はあいつらに
追い付きたかったんだ!だから……」

「ザック君……」

何を思うところがある様な表情を浮かべているザックに、アンネの喉から
何も言葉が出てこなかった。

そして、

「……サーシュちゃん」

この状況を作り出した原因、サーシュをアンネがジロリと睨む。

「え、えっと...そ、そのですね。貴女方は、か、勘違いなさっているよう
ですから言っておきますけど、わたくしは別にそれを嫌いとはひと言も言って
おりませんからねっ!ど、どちらかというと、寧ろ好きな部類ですからねっ!
そ、そこを履き違えて勘違いをしないで下さいよねぇっ!」

アンネの目に堪えきれなったサーシュが、目を泳がせながら懸命な言い訳を
繕っている。

「うふふ。ホントサーシュちゃんは天の邪鬼ですね♪」

「ああ、アンネ!貴女またわたくしを天の邪鬼と言いましたねぇ!わたくしは
天の邪鬼じゃありませぇええぇんわぁあっ!」

「う~ん、じゃあツンデレさん?」

「だ、誰がツンデレですかっ!わたくしは自分が正しいと思っている事を、
常に口にしているだけですわっ!」

アンネとミカリの言葉に、サーシュは自信満々な表情で、自分の志しと
信念を語る。

そして、

「......コホンッ!さ、いつまでもこんな下らない喧談はここまでとして
おいて、さっさと次に行きますわよ、平凡三下っ!」

サーシュが場の空気感を切り替えるように深い咳払いをすると、脱線した
流れをザックのテストの方に戻す。

「おっと、そうでした!あ、残り時間が30分を切っている?」

サーシュに言われてザックが腕時計に目を移すと、テストの残り時間が
少ない事に気付く。

「あんた、ただでさえマイナスポイントから未だ脱していないんですから、
もっと気張って頑張りなさいっ!」

「あはは…はいです、サーシュ先輩」

でもそのマイナスポイントの殆どが、全く意味も分からずにマイナスと
されたやつばっかなんですけどね。

いくらなんでも幼馴染の事を口にしだけで、マイナスを食らうのは
流石にいかがなものかと思うんですよ?

いや、確かに言っている事は正論だったので、文句は言いませんけどね。

俺はそう思いつつも、取り敢えずマイナスをプラスに変えるべく、
ダンジョンを突き進んで行く。





「そっちに追い込みましたわ!さぁ、とどめを刺しなさい平凡三下っ!」

「ありがとうございます、サーシュ先輩!うりゃぁぁあああっ!」

「グシャァアア!!」

「よっしゃ!ゴブリン撃破っ♪」

サーシュ先輩の攻撃魔法でHPを削られたゴブリンに止めを刺す。

「うう。しかしいつ見ても、人型の魔物を殺すのは馴れませんね......」

「ア、アンネさんもですか?じ、実はわたしもなんですよ......うう」

ゴブリンの亡骸を見たアンネとミカリは、顔色を悪くして餌付いている。

「......やれやれ、二人とも二年生なんだから、もういい加減慣れなさいな!」

そんな二人を見て、サーシュが呆れ顔で嘆息を吐いて呆れてしまう。

「うぐ、そ、そうは言いますけど、わたし達は後方支援で、魔物に直接止めを
刺す訳じゃないので、中々馴れないんですよ~~うぇっぷっ!」

「はは、そうですよねぇ。直接と後方で見ているだけとじゃ、慣れの感覚が
違いますもんね?俺も昔、あいつらとパーティを組んだ時には、後方支援が
多かったせいで慣れるまでに時間が掛かりましたからねぇ。なのでお二人の
気持ちは良く分かりますよ♪」

だから俺はそれに慣れる為、あいつらが人型の敵に止めを刺すシーンで、
なるべく目を横に反らさない様にと、いつも心掛けていた。

そしてその結果、

何とか顔色と具合を悪くしないで済む耐性、そいつを身に付ける事に
成功したんだよなぁ。

俺はあいつらとパーティを組んでいた頃、そんな苦労もあったよなぁと、
苦笑をこぼしつつ、その思い出を懐かしがる。

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