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4章・昇級試験

037・試合に負けて勝負に勝った

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「ち、ちち、ち、ちょっと!?な、な、何ですか、今のは!?一体何が
今起きたんですか!?気付いたら新人冒険者が吹っ飛んで壁にぶつかって
いるんですけどっ!?」

試合の審判をしていた望月さんが、秒数にして0.05秒の世界で行われていた
動きだったせいか、どういう事と呆気に取られて軽くパニクってしまう。

が、直ぐ気持ちを持ち直し、

「コ、コホン!と、取り敢えず、『試合』は佐々木さんの勝利...です...っ!」

試合の判定を困惑した表情で言い渡す。


「キャァァァア―――ッ!見ましたか、みなさん!流石は佐々木様です!
何て素敵で軽やかな剣捌きでしょうか~っ!」

「ハァ~ホント、見事な一撃でしたわねぇ♪」

「何が素敵で軽やかな剣裁きだっ!何が見事な一撃だっ!あの野郎め、
攻撃はしねぇとか言っていた癖に反撃しやがってよっ!」

「そうだ、そうだ!なのに、あんな風に派手にぶっ飛ばしやがってさ!」

「まったくだぜ!あの卑怯者がぁあ~っ!」

「何を言いますか。勝負はキレイも汚いもないんですよ~だぁっ!」

「要は勝てばいいんですよ、勝ちさえすれはねぇっ!」

「戦いは常に非常なんです。あなた達はそれが分からないから佐々木様に
身の程知らずな嫉妬が出来るんですよ!」

「そうそう。花にもなれない憐れな雑草どもはこれだからねぇ~♪」


「「「「だ、誰が雑草だっ!ふざけんなぁぁぁぁああっ!!!」」」」


応援席で佐々木の行動にうっとりする女性達と、それに愚痴と不満を
こぼす男性達とで、バチバチと火花を迸らせて言い争う。

「ハイハイ~熱くなるのもいいですけど、そろそろ言い争いはそこまでに
して下さいねぇ~。じゃないと試合会場から追い出しちゃいますよ~?」

小鳥が圧を込めた微笑みで、応援席で言い争う男女達に軽くそう注意をすると、
争っていた男女の荒声が一斉にピタリと止まった。



「イタタタ......この負け方は負け方で目立ってしまうけど、でもまぁ勝って
しまうよりかは幾分か増しだろう......」

俺が観客席にいる見学人の声や、周囲に散らばった壁の残骸を見つつ、
落とした腰を持ち上げて立ち上がる。

そして、

「ごめん...成美。お兄ちゃん、お前の応援に答えるべく勝ちたかったけど、
力が一歩及ばず負けちゃったよ......」

俺はヨタヨタした足取りで成美の下に帰っていくと、わざとらしい
演技で無念を表す。

「そだね、負けちゃったね......」

その無念の演技を見て、成美もガッカリした表情でシュンとする。

がしかし、

「......負けはしちゃった。けどお兄ちゃん、多分昇級試験には合格
していると思うよ!」

「――――へ!?」

「うふふ、おめでとう~お兄ちゃん!試合には負けちゃったけど、
勝負には勝ったねっ♪」

成美が訳の分からない事を言った後、ガッカリした表情をニコリと変え、
俺に向けてビシッとサムズアップを突き出す。

「いやいやいやいや!な、なんで合格になるんだよ!?だって俺試合に
負けたじゃん!?し、しかもこんなに派手な負け方でさぁ!だから合格に
なんてなる訳がな――――」

「―――いいえ、そちらのお嬢様の言う通り、合格ですよ45番さん♪」

俺が成美の言葉を必死に否定していると、試合の審判をしていたお姉さんが
拍手を混じえながら、こちらにやって来た。

「ハァアッ!マ、マジで合格だとっ!?な、なんですか!?俺、思いっきり
負けましたよねぇっ!?」

「思いっきり負けたからですよ、45番さん」

「え!?」

「覚えていませんか?佐々木はあの試合中、あなたに攻撃しないと
断言したのを?」

「......あ」

そういえば、あいつそんな事を言っていたな?

「...にも関わらず、あなたを攻撃した。しかも壁がこんなになるまで」

望月がそう言うと、壊れている壁をトントンと軽く叩く。

「た、確かに反撃は食らいましたよ!で、でもだからといってそれが
一体なんだって言うんですか!?ま、負けは負けでしょう!?」

俺が未だに意味が分からないと、抗議していると、

「説明会で聞いてなかったのか、坊主?昇級試験は試合の勝ち負けで
合格を判断するんじゃねぇ。その内容で判断するんだぜ!」

「あ、佐々木さん!」

「そしてお前は攻撃しないと宣言した俺に反撃をさせた。それもこんなに
派手にな!」

試合場から佐々木がこっちにやってきて、俺の疑問に答えてくれる。

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