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外伝その1・成美編

043・わたしのニューゲーム

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そう...わたしは百パーセント確信する。

いつの日にか、この二人の間にはきっと大きな溝が出来るだろうと。

あのクソ恵美はお兄ちゃんのクラスでも学校内でも、カーストのランクが
ナンバーワンだった女だ。

そんなクソ恵美を、転校して行った先の学校のカースト野郎共が放って
おく訳もない。

そしてあの女はそいつらに言い寄られて、ちやほやされ、いつかきっと
落城していくだろう。

だってこっちにいた時もあの女、カースト野郎共に八方美人を発動し
まくっていたからね。

その中には、あいつに告白をしていた連中もいた。

だけどお兄ちゃんが側にいたから、流石にそいつらには色目を使っては
いなかったけど。

でも今はそんなクソ恵美の近くに、お兄ちゃんはいないのだ。

だからあの女、いつかそんな連中の告白を受けて捲った挙げ句、きっと
お兄ちゃんの事をコロッと裏切るだろうね。

人とは自分の手が届く範囲に相手がいないと、気持ちも思いも虚ろいやすく
脆いもの、


―――遠くの恋より、近くの好意。


―――慣れたモノより、見慣れぬ新しきモノ。


―――側にいないあなたが悪い。


こんな言い訳がましい言葉を理由とし、新しき出逢いに心と気持ちを
移し、前の気持ちなど消し去っていく。


―――だからわたしは断言できる。


あいつは絶っ対に、お兄ちゃんを裏切る!

...と。


―――そしてあいつが転校してから、数ヶ月の月日が流れた。



「あのやろう、本物に裏切りやがったぁぁぁああぁっ!!」



―――わたしの直感と予感が見事に的中した。


「おのれぇぇええ!あのクソ浮気女がぁぁぁぁぁああっ!!」

わたしは予感通り、クソ恵美がお兄ちゃんを裏切り浮気しやがった事に
憤怒で腸が煮えくり返りそうにながら咆哮を荒らげた。

でもその反面、

「お兄ちゃんを裏切ってくれて、ありがとぉぉぉおぉおうっ!!」

という、歓喜な咆哮も荒らげた。

消沈しているお兄ちゃん、ホントごめんね。

お兄ちゃんに心ないお詫びをしながらも、わたしは顔はにやける。

だって嬉しいものは、嬉しいのだから!

......クックックッ。

さぁて、あのクソ恵美に無惨に振られ、弱りに弱ったお兄ちゃんの心を
思いっきり諌め慰め、わたしがいないと駄目駄目人間に変えてくれるわ。


―――人の良い奴らはこう言うかもしれない。


―――心の弱りに付け入るなんて、恥ずかしくはないのかと。


―――然れど、わたしはこう返す。


「なにそれ、美味しいの?」


―――とねっ!


「さぁ!わたしのニューゲームの始まりだぁぁぁああっ!!」

わたしはそう意気込むと、早速、お兄ちゃんの部屋へと突撃を開始する。

するとそこには誰が見てて分かるくらいに、ドヨドヨと落ち込んで体育座りを
しているお兄ちゃんがいた。

「......お兄ちゃん、お母さんから...その聞いた...よ。あの女に...う、浮気を
されちゃったんだって......ね?」

「なっ!?そ、それは違...う......わ...ない.......うん」

わたしの問いを否定したかったのだろうけど、お母さん達の集い...母友の
井戸端ネットワークは嘘偽りがない情報で有名。

それを知っているからお兄ちゃんはわたしの問いに否定が出来ず、言葉を
詰まらながら静かに頭をこくりと下げる。

あ、因みに何でこの母友達はお兄ちゃんとあのクソ女が付き合ってた事、
それをお母さんに告げなかったのか?

それは自分達の子供の恋愛関係の情報はいっさい流さない、そういう
決まりになっているからだ。

なのでお母さん、母友の間でめっちゃ同情されているんだろうな。

でも多少疑問も残る。

この噂が出た当時、クソ女のやろうは一応であるけれども、まだ
お兄ちゃんの彼女というの立ち位置だった。

なのに、何であいつの情報を母友は流したのだろうか?

......まぁ、推測は尽きないけど、


正直どうでもいい。


そんな事より、わたしはわたしのやるべき行動を実行するだけだっ!


「そっか...ではお兄ちゃん。こっちゃ来いやっ!」

わたしは屈託ない笑顔を浮かべると、両手を大きくバッと拡げる。

「へ!?こ、来いって、どういう事?」

「わたしが慰めの『ハグ』をしてあげるから来いって言ってんのっ!」

わたしは少しテレつつそう言うと、再び手をバッと拡げてお兄ちゃんに
来っちゃこいと手招きをする。

「い、いや、俺はそんな気分には......」

「ハァ~しょうがないなぁ。んじゃ、わたしからやってあげるよ♪」

「え!ちょっと、な、成美―――うぷっ!?」

今まで経っても体育座りをやめないお兄ちゃんに対し、やれやれと軽く
嘆息を吐くと、わたしからお兄ちゃんの側に近寄り、そして力強くギュッと
ハグをする。

「ち、ちょっと、成美さん!?こ、これはハグとは言わないので―――」

「はいはい、お兄ちゃんは黙ってハグされていようねぇ~♪」

「―――うぷっ!??」

慈母なる微笑みを浮かべた後、わたしはお兄ちゃんの後頭部に手を置き、
そしてわたしの胸にギュッと顔を押し込むようにして再びハグ?をした。

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