上 下
1 / 59
1章・彼女にフられた俺

001・彼女と俺

しおりを挟む
―――俺...光野溯夜こうのやくやには大好きだった彼女がいた。


―――が、今はもういない。


―――別に亡くなったとかではない。


―――ただ単に振られただけだ。


「......何も言われずに、一方的に...だけどね」

彼女との出逢いは、中学三年生の時だった。

学年が変わり、三年生になった俺は、緊張いっぱいで新しい教室に入り、
自分の席にトスンと座る。

そしてカバンを机の横に掛け、教室をキョロキョロと見渡していると、
誰かの視線が俺を見ている事に気づく。

その視線が気になった俺は、その視線に向けてチラリと目線を移す。

すると、そこにはあいつ...海川恵美うみかわめぐみがこっちを見ていた。


―――彼女の視線と俺の目線が合う。


その瞬間、俺は海川恵美に恋をしてしまった。

陰キャラの俺だったけど、でもだからといって、この気持ちを諦めたく
なんてなかった。

だから俺は彼女を好きだ、恋人にしたい、そんな燃える様な熱き情熱を
糧とし、内気な心を強引に奮い起たせてブーストさせて後押しする。

それからというもの、俺は不器用ながらも懸命と頑張って、あいつに嫌わない
程度に好きだ大好きだという、さりげないアピールを続けていく。

勇往邁進で挑んだそんなアピールアタックが、かれこれ百回を越えた頃、

もうこれ以上、彼女と恋仲になりたいという沸き上がる衝動を抑える事の
出来なくなった俺は、


「今日こそは海川さんに告白するぞっ!」


と、いう決意を固めた。

そう思ったが吉日だといわんばかりに、俺はドキドキの緊張の中、
あいつを...恵美を屋上へと呼び出した。

そして「キミと恋人関係になりたいっ!」ただそれだけの純粋な気持ちと
情熱なる思いの乗った告白を、ブルブル震える口で拙いながらも何とか
あいつに伝えていく。

すると恵美は静かに顔を下に傾かせると、しばらくの間沈黙を続ける。

その数十後、顔をゆっくりと上げてニコッと俺に微笑みを浮かべると
同時に右手を目の前にスッと差し出してきた。

俺は信じられないとばかりに「これってOKの印......だよね?」と恐る恐る
確認すると、彼女が頬を赤く染め、頭を小さくコクンと下げた。

それを見た瞬間、俺は歓喜のあまり、声が渇れてしまう程の咆哮を上げる。

そして差し出された彼女の右手を力強くギュッと握ると、その場を思いっきり
ジャンプして、彼女の周りを喜びの舞でクルクルと回っていく。


―――こうして俺の恋は見事成就し、あいつと...海川恵美と付き合う事となった。


それから俺とあいつは、色んな場所へデートにいった。

映画にカラオケ、ゲーセンにボーリング。

そうそう、あいつのショッピング...服選びにも良く付き合わされた。

あれはホント辛かったな。

だってその服選び、何時間も掛けるんだぞ。

俺は内心で勘弁して下さいよといつも嘆いていたっけ。

まぁそうは思っても、服を選んでいる彼女の姿も好きだったので、
結局イヤと言う事もなく、あいつのショッピングには付き合うんだけどね。

「.........本当、楽しかったなぁ」


―――だが、そんな楽しいひとときにも終わりがくる。


そう、あれは恵美と付き合い初めてから、約半年くらいの月日が経った
頃の放課後の帰り道だったっけ。

「実はね、溯夜くん。わたし......三週間後の火曜日に転校する事に
なっちゃったんだ......」

「―――え!?」


―――彼女にから突如そう告げられたのだ。


それから三週間後、

彼女は宣言通り、親の都合という理由のせいで遠くの県へと転校して
行った。

離ればなれになってしまった俺と彼女だったが、しかしそれでも俺達の
関係は消える事なく続いた。

簡素通信アプリ『リンレス』でのたわいのないやり取りや、彼女の声が
聞きたくなった時は、直接電話をして彼女との会話を楽しんだ。

俺達はそんな関係を毎日続けていた。

「うんうん、そうだね!いつかまたデートしたいよねぇ♪」

「だよね。でもその願いを叶える為にはさ、バイトをもっと頑張って
運賃や旅行費を稼がなきゃいけないよな。でもバイト料少ないから
資金を貯めるのは大変だなぁ......」

「あはは♪わたし達のデートの為にも、そこはしっかり頑張って
稼いでよね、溯夜くん♪」

「応!頑張るよ、俺♪」

俺達はいつか絶対に再開してデートをしようなと、彼女と約束を交わした後、
夜も遅くなってきたので惜しみながらも電話を切り、俺は彼女との楽しい
デートの日を夢見つつ、布団を被って眠りへとつく。


―――そんな日など永遠に来ないとも知らずに。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

処理中です...