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太陽系
第三の宙域
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海上都市ムーから、宇宙へ上がる。
海上に2万平方キロメートルの浮島、それが、
二つある。
一つの浮島から、2本のケーブルが、宇宙へ
伸びている。ケーブルの地上側の端にある
プラットフォーム周囲には、安全地帯が
設けられており、その広さは3千平方キロ。
2本のケーブルの幅は、10キロメートル。
その間に、昇降モジュールを移動させる設備や
倉庫などがある。
ケーブルは、片方が昇り専用、もう片方が
下り専用だ。宇宙開発が最も盛んだったころは、
5組、計10本のケーブルが宇宙へ伸びていた。
宇宙で資源が入手できるようになるにつれ、
海上都市と宇宙エレベーターの利用も減って
きて、4本というのは、メンテナンスを
考慮すると最低の本数だ。
今では、インド洋の海上都市レムリア、
大西洋の海上都市アトランティスも、
この2組4本のケーブル数で運用されている。
移動住居を宇宙へ上げるサービスには
2種類あり、マウントポイントだけを提供する
ものと、住居から降りて食事や買い物ができる
タイプのものがある。
ディサは、いつも安いマウントポイントだけの
ものを利用する。都市に接近すると、
プラットフォームまでの交通トークンが取得
できるので、それに自動運転で乗り込む。
家がトレインにマウントされ、発車する。
このトレインは、ケーブル非接触型の
リニアモーターカーだ。
反重力エンジンや電磁波エンジンも併用して
いるが、常温超電導のリニアモーター、
金属水素バッテリーなども利用し、軽量化
され、静止軌道までを4時間弱で結ぶ。
静止軌道から、家ごと大型の宇宙船に乗り
かえる。そして、約2時間。地球から見て
月の裏側にある、ラグランジュ点第3
エリアと呼ばれる宙域。
そこに、直径約300キロ、厚さ200キロの
円筒形の宇宙構造都市がある。その中央部分
は静止し、外周部は回転しているはずだが、
その回転速度が遅すぎるのか、回転して
いることが肉眼ではわからない。
円筒形の外周部は4分割されており、
その内部は階層化されていた。その最下層に、
ディサの実家がある。
移動住居ラウニは無重力港のマウントポイント
に置いていく。必要な荷物を持って外周行き
シャトルに乗る。ペットはアンドロイド
任せだ。
シャトルが外周と同期し、重力が生まれる。
船を降りて、エレベーターで上がると、
すぐに最下層のサウス駅だ。
そこから鉄道で、10駅ほど行ったところの
駅が最寄り駅だ。10分ほど歩いて、
戸建ての住宅に着く。周囲はほぼ田んぼ
と畑だ。
「ただいまー」
平日の昼間に帰ってきたので、誰もいない。
父と母は仕事、ひとつ上の兄は学校と部活、
残りの兄4人は大学の寮だ。
全員がこの実家にいたころは、かなり手狭な
状況だったが、今は帰って来た者用に
ひと部屋空いている。
月のラグランジュ点第3エリアの人口は、
1000億人である。宙域の広さ的には、
ほぼ適正の人口とされていた。
太陽系の人口は10兆人前後である。
半獣半人座経路付近の資源情報が伝わった時
は、かなりの人口減少があったが、その後
資源が太陽系にも届くにつれ、減少も
ストップしてきた。
半獣半人座出発当初は、太陽系内のかなりの
資源を必要としたが、現在はそれらすべてを
取り返すかたちとなっている。
他の恒星系への旅立ちは、本格的なものに
ついては半獣半人座以来途絶えていたが、
各国の国力が潤うにつれて、再びその
機運が高まってきた。
次の恒星系、バーナード星系を目ざす計画が
出てきたのだ。土星圏では、いまや急ピッチで
移動都市の建設が進んでいる。
ディサの一家は、進化した人類である、
ポレクティオ・サピエンスだ。現在、この
進化した人類は、太陽系内に約5兆人存在
すると推測されている。
推測というのは、すべての人が遺伝子検査を
やっているわけではなく、その義務もないこと、
が原因としてあるが、外見的にも見分けが
つかないことが多く、能力的にもほとんど
変わらないか、むしろ劣る場合もある。
ディサが通っていた学校にも、それらしき
生徒がいたが、それでも旧人類でも可能な
レベルで見分けがつかない。
研究者によると、今後、新人類の特徴が
強化され、能力的にも外見的にもかなり異なる
人々が生まれてくる予測だ。太陽系よりも、
半獣半人座星系にその傾向が強いという情報も
届いている。
ディサは、いつものごとく両親とひとつ
うえの兄と夕食をとる。自分が進化した
人間であることは、両親から遺伝子検査の
結果を聞いて知っていたが、
こうして4人で食事をしていると、進化した、
という実感はまるでない。自分は皆と比較
すると少し変わっている、という自覚は
あるが、人間を超えているとは思えない。
実際この進化した人類をあらわす、
ポレクティオ・サピエンスには、進化した、
とか、超えた、という意味ではなく、
拡張された、という意味が込められている。
いい方向にも悪い方向にも、拡張されて
いるという意味であった。
海上に2万平方キロメートルの浮島、それが、
二つある。
一つの浮島から、2本のケーブルが、宇宙へ
伸びている。ケーブルの地上側の端にある
プラットフォーム周囲には、安全地帯が
設けられており、その広さは3千平方キロ。
2本のケーブルの幅は、10キロメートル。
その間に、昇降モジュールを移動させる設備や
倉庫などがある。
ケーブルは、片方が昇り専用、もう片方が
下り専用だ。宇宙開発が最も盛んだったころは、
5組、計10本のケーブルが宇宙へ伸びていた。
宇宙で資源が入手できるようになるにつれ、
海上都市と宇宙エレベーターの利用も減って
きて、4本というのは、メンテナンスを
考慮すると最低の本数だ。
今では、インド洋の海上都市レムリア、
大西洋の海上都市アトランティスも、
この2組4本のケーブル数で運用されている。
移動住居を宇宙へ上げるサービスには
2種類あり、マウントポイントだけを提供する
ものと、住居から降りて食事や買い物ができる
タイプのものがある。
ディサは、いつも安いマウントポイントだけの
ものを利用する。都市に接近すると、
プラットフォームまでの交通トークンが取得
できるので、それに自動運転で乗り込む。
家がトレインにマウントされ、発車する。
このトレインは、ケーブル非接触型の
リニアモーターカーだ。
反重力エンジンや電磁波エンジンも併用して
いるが、常温超電導のリニアモーター、
金属水素バッテリーなども利用し、軽量化
され、静止軌道までを4時間弱で結ぶ。
静止軌道から、家ごと大型の宇宙船に乗り
かえる。そして、約2時間。地球から見て
月の裏側にある、ラグランジュ点第3
エリアと呼ばれる宙域。
そこに、直径約300キロ、厚さ200キロの
円筒形の宇宙構造都市がある。その中央部分
は静止し、外周部は回転しているはずだが、
その回転速度が遅すぎるのか、回転して
いることが肉眼ではわからない。
円筒形の外周部は4分割されており、
その内部は階層化されていた。その最下層に、
ディサの実家がある。
移動住居ラウニは無重力港のマウントポイント
に置いていく。必要な荷物を持って外周行き
シャトルに乗る。ペットはアンドロイド
任せだ。
シャトルが外周と同期し、重力が生まれる。
船を降りて、エレベーターで上がると、
すぐに最下層のサウス駅だ。
そこから鉄道で、10駅ほど行ったところの
駅が最寄り駅だ。10分ほど歩いて、
戸建ての住宅に着く。周囲はほぼ田んぼ
と畑だ。
「ただいまー」
平日の昼間に帰ってきたので、誰もいない。
父と母は仕事、ひとつ上の兄は学校と部活、
残りの兄4人は大学の寮だ。
全員がこの実家にいたころは、かなり手狭な
状況だったが、今は帰って来た者用に
ひと部屋空いている。
月のラグランジュ点第3エリアの人口は、
1000億人である。宙域の広さ的には、
ほぼ適正の人口とされていた。
太陽系の人口は10兆人前後である。
半獣半人座経路付近の資源情報が伝わった時
は、かなりの人口減少があったが、その後
資源が太陽系にも届くにつれ、減少も
ストップしてきた。
半獣半人座出発当初は、太陽系内のかなりの
資源を必要としたが、現在はそれらすべてを
取り返すかたちとなっている。
他の恒星系への旅立ちは、本格的なものに
ついては半獣半人座以来途絶えていたが、
各国の国力が潤うにつれて、再びその
機運が高まってきた。
次の恒星系、バーナード星系を目ざす計画が
出てきたのだ。土星圏では、いまや急ピッチで
移動都市の建設が進んでいる。
ディサの一家は、進化した人類である、
ポレクティオ・サピエンスだ。現在、この
進化した人類は、太陽系内に約5兆人存在
すると推測されている。
推測というのは、すべての人が遺伝子検査を
やっているわけではなく、その義務もないこと、
が原因としてあるが、外見的にも見分けが
つかないことが多く、能力的にもほとんど
変わらないか、むしろ劣る場合もある。
ディサが通っていた学校にも、それらしき
生徒がいたが、それでも旧人類でも可能な
レベルで見分けがつかない。
研究者によると、今後、新人類の特徴が
強化され、能力的にも外見的にもかなり異なる
人々が生まれてくる予測だ。太陽系よりも、
半獣半人座星系にその傾向が強いという情報も
届いている。
ディサは、いつものごとく両親とひとつ
うえの兄と夕食をとる。自分が進化した
人間であることは、両親から遺伝子検査の
結果を聞いて知っていたが、
こうして4人で食事をしていると、進化した、
という実感はまるでない。自分は皆と比較
すると少し変わっている、という自覚は
あるが、人間を超えているとは思えない。
実際この進化した人類をあらわす、
ポレクティオ・サピエンスには、進化した、
とか、超えた、という意味ではなく、
拡張された、という意味が込められている。
いい方向にも悪い方向にも、拡張されて
いるという意味であった。
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