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第四章 過去を抱いて、未来を掴む
汚部屋の姫2
しおりを挟む窓の外が夕焼けに染まる頃、下で足音がした。
「……ただいま戻りました。エメラダ様、物音がすごいけど……どうかしたんですか」
ぼそぼそとした声が、階下からかかる。フェイだと察せられた。気安い仲であれば様子を見にも来るだろうが、本当に一線を引いているようで、彼が階段を上ってくることはない。
「おかえりなさい、フェイ。ちょっと上がってきていただけますか?」
「はい……失礼、します」
静かな足音を鳴らして、フェイがのっそりと姿を現した。緑青色の短く刈り込んだ髪に、穏やかと言えば聞こえはいいが、往々にして凡庸な顔つきの青年だ。
「フェイ。もっとこちらにいらして。驚いて階段から落ちたら大変ですわ」
言われるままフェイが移動したのを見てから、エメラダは奥に控えていたアルクェスを手招いた。
青年の茶鼠色の瞳が大きく見開かれ、アルクェスが目の前に立つより早く、額を打ち付けんばかりの勢いで床に平伏した。
「……姫様から、すべて伺いました」
「も、申し訳、ございません……。お、俺が……姫をちゃんと、城に帰さなくちゃ、い、いけないのに……」
「その通りです。罰せられる覚悟はありますね?」
「ど、どんな罰でも、受ける覚悟はできていました」
「……ならば、よろしい。覚悟の上で、投げずに姫様を見守ってくれたこと、感謝します」
震える青年の肩を一つ叩いて、アルクェスは掃除に戻った。
「フェイ。わたくしからも、ありがとう」
「いいえ」
「どうか、もうお顔を上げて」
深々と頭を下げたまま微動だにしなかったフェイは、エメラダに促されようやく顔を上げた。するとそこには驚いたことに装いの異なる姫が二人、同じ顔を並べていた。
「こちら、本物のエファリュー様です。本当にそっくりで、驚いたでしょう?」
「初めまして、フェイ。お仕事帰りで疲れてるところ悪いんだけど、ちょっと買い出しに行ってきてくれない? これとこれはヘイソンの店でね。こっちはタタンの店がいいわ、他より値は張るけど質がいいの。お願いね?」
言葉を失くして戸惑うフェイは頷く他なく、おつかいのメモを握りしめて、困惑したまま買い出しに出かけた。
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