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第四章 過去を抱いて、未来を掴む

帰る場所は

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 どやどやと、森の奥からクリスティアの鉱山夫たちが出てきた。
 朝焼けの空に舞い上がる光の中、竜と戯れる少女の姿に、誰も彼も言葉も失くして立ち尽くす。その中で一人の男が、転ぶように人垣から飛び出し、声を上げた。

「神女様! ああっ、エメラダ様!」

 跪き、祈る顔は、身代わり初日にエファリューの手を握って、鉱山送りになった信者だ。アルクェスが背中に神女を庇うが、さすがの男も反省したか、膝を折った場所から動こうとしなかった。
 彼に倣い、すべての鉱山夫たちが跪いて祈りを捧げた。

 ここには祭壇も、神官たちの目もないが、静かに微笑むだけで、エファリューは無言だった。魔人の姫から掛けられる言葉はない。

『『帰りましょう』』

 思念石で互いの言葉が重なって、見合わせた顔に微苦笑が浮かんだ。

 羽ばたきひとつで巻き起こる風が、信者たちの頬を撫でる。凍てつく風は不思議と優しく、感嘆の息を吐いて見上げれば、故郷では聖竜と呼ばれるようになった竜が飛び立つところだ。
 緋色あけいろの雲間を、晴れ渡った空の青が切り裂いて、遠く朝陽の彼方へと神女を連れて飛び去った。



 遠くに見える、冬枯れの木立に降りた霜が、まるで雪のようだ。風に揺れ、朝陽を弾いた金剛石の煌めきを、野山に降らせている。
 闇に微睡んでいるのがお好みのエファリューは、今日ほど朝陽を美しいと感じたことはない。光も敵ではないと、教えられた温もりを噛み締めて、朝陽の眩しさに目を擦った。

「見て、あの山の麓がフューリの家よ」

 きゅいきゅい、と頷くようにフューリが頭をもたげる。

「そうだわ。ファン・ネルに寄りましょう。アルの手当てもしなくちゃいけないし、お腹もぺこぺこよ」
「何を言うのです。自分がファン・ネルの住民に、どれほど迷惑を掛けたかお分かりですか」
「アルのおかげで借金はないんだし、いいじゃない。顔を合わせたら、ちゃんと謝るくらいするわよ」
「なりません。フューリも目立ちすぎます。万が一、この身代わりを知られたらどうするのです」
「じゃあ、こっそり。わたしだと気づかれないようにならいいわね? フューリ、あなたのねぐらに降ろしてちょうだい」

 さ、行って──と指笛を鳴らせば、フューリは大喜びの全速力で生まれ育った洞穴を目指した。


 ◇ ◇ ◇


「いい子に待っていてね」

 首筋を撫でて、エファリューはフューリを洞穴の奥に向かわせる。寂しがって追い縋るかと思いきや、懐かしいにおいのする寝床に身を収めると、フューリは満足そうに丸まった。

 そこから街まで、濡れた膝下の冷たさに弱音をまじえつつ歩き、昼前にはファン・ネルの城壁に辿り着いた。
 十年住んでいたエファリューには見慣れた石積みの壁だったが、離れて半年も経っていないせいか、懐かしい感じはしなかった。
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