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第二章 神女の憂鬱

初めてのお仕事3

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「腰が痛くて敵いません」
(あら、それならわたしの作った貼り薬をあげましょうか? 特別価格で提供するわ)

「来月結婚するのに、婚約者の浮気が発覚しました。あの屑に天罰を」
(あら、結婚前に気付いてよかったじゃない。そんな奴忘れてしまいなさい)

「経営不振で、借金ばかり膨らんでしまってもうどうしたらいいのか」
(あら、そんなの簡単。夜逃げしたらいいのよ、わたしみたいにね)

 人々の訴えに、偽神女はありがたいお言葉を返す。口には出さず、ただ優美な微笑みをたたえ心で語りかけるのみだ。
 その椅子はまさに神の座であった。崇められ、祈りを聞いているうちに、エファリューはすっかり悦に入って、人々がとてもか弱く、小さなものに見え始めていた。

(エメラダもきっと、こうして微笑んでいたんでしょ?)

 の笑みで、人々を憐れむエヴァの子の心など露知らず、アルクェスは歓喜に震えている。

『素晴らしい……まさに神女様の、エメラダ様の微笑みです』

 人々には傅かれ、麗しのスパルタ教育係にも褒められて、エファリューは過去最高にいい気分だ。
 礼拝を終えて帰っていく人々の背中さえ、愛おしく思え、温かい眼差しで見送る。……それもファン・ネルの住民が見たら卒倒ものの、らしくない顔だ。

(……あら? あら、あら、あらぁ?)

 信者たちを見守る八人の神官らの、息の合った動きを見ているうちに、エファリューはあることに気がついた。彼らが振り翳した錫杖に呼応するように、水面に浮かぶ花灯りがぽうっと光を大きくするのだ。ゆらゆら揺れる光は、橋の下から信者たちの足元を照らし、上から注ぐ光とともに彼らを神女の加護で抱くようだ。
 腰の痛みを訴えていた老婆も、婚約者の裏切りに腹を立てていたお嬢さんも、借金に頭を抱えていた商人も、明るく希望に満ちた顔で礼拝堂を後にする。
 エファリューには何が起きたのかはっきり見えていた。斜向かいに並んだ神官らが、光の魔法を使っているのだ。体の痛みを和らげるもの、心を鎮め幸福感を促すもの。彼らと花灯りを媒介に、橋の上を神聖な魔力が包んでいる状態だ。

(なるほど、ねぇ。これが、苦労してでも授かりたいと思わせる、神女の加護のからくり……か)

 お告げや奇跡を起こさなくていいのかと尋ねた時に、アルクェスが「それは神女様の仕事ではない」と答えたのは、こういうことかと合点がいった。
 そしてますますエメラダに感謝した。こんなに楽な仕事を放ってくれてありがとう、と──。




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