上 下
268 / 420
嵐の来訪者

第236話-嵐の後に-

しおりを挟む
「やったー!」

 私の突然の喜びの声に周りの三人が奇異の目を向けてくる。

「夢だった四人がついに近衛騎士よ! 上がるわ! 最高に調子いい!」
「そ、そうか。そりゃ良かったな」

 ヤンはどこか引いた様子で声をかけてくれた、ユリは苦笑い、オーランは無言だった。

「先輩。この人はいつもこんな感じなのか?」
「いや、俺にもよく分からねえ」

 なんとでも言うがいいわ。今の私はテンション爆上がりよ。だってこの世界に来てやりたかった事が叶ったんだから。
 痛い思いもしたし、大変な目にもあった。それでもここまで来れた。その事に喜ばずにはいられない。

「アルが帰ってきたら四人で顔合わせしましょう! 今から楽しみで仕方ないわね」
「フランソワ様があんなに楽しそうにしてる所は久々に見ましたね」
「そうね! ユリを近衛騎士に出来た以来かも!」

 ユリの時も一悶着あった。魔法探し、城の地下での戦い。
 バレルさんとも出会った。あの人にもいつか教えてあげないと。私の近衛騎士が増えましたって。
 その時の勲章は今でも首から身につけている。ガルド公からもらった首飾り。

「俺とアルの時はそんなに喜んで無かった様な気もするな」
「そんな事ないわよ。でもあの時はびっくりしてたから。そっちの方が大きかったからかな」

 雨の降る夜の冒険と戦いもあった。
 ヤンとアルの二人でも勝てなかったあの戦い。私がヤケクソで投げた石が戦況を変えたかは分からないけど、その結果が今にある。
 今は手元にないけど、ヤンのお父さんから貰った短剣は今でも部屋に飾ってある。
 あの短剣がユリの助けにもなったんだから全ては繋がっている様にも思える。

「早くアルにも教えてあげたいなぁ」
「そうですね。なんせ私達の隊長ですし」
「そういや、そうだったな」

 ヤンが笑いながら言った。

「噂は聞いた事ありますけど、直接会って話した事はないんで早めにしておきたいですね、その隊長には」

 そして遂にオーランが近衛騎士になった。
 今日は興奮して寝られるかしら。

「まぁでも、そろそろお開きにしませんか。そろそろ遅くなってきましたし、フランソワ様を早く送らないと」

 夢中になっていたけど私は下校中だった。テンションが上がり過ぎてすっかり忘れていた。

「確かに! ホリナに心配されちゃう」
「そしたら俺が送っていくって事でいいか」

 ヤンの申し出に誰も首は横に振る事はなかった。
 結局その場で解散になってユリとオーランは乗ってきた馬で学校の方へと戻っていった。
 一応オーランは復学という形をとるらしい。
 そして私は家までヤンの後ろに乗せてもらった。
 短い距離だったけど少しお尻が痛い。馬に直接乗る事はないから慣れてないからだろう。明日まで響かなければいいけど。

「ヤンはどうするの?」
「あぁ、俺は街に帰るさ。結局親父に顔出せてないし」
「そうなんだ」
「遅いし、うちに泊まってく?」
「いんや遠慮しとくよお嬢。そんな離れてるわけでもないしな」
「そう、夜道には気をつけてね」
「そうだな。前のこともあるしな」
「明日学校に私からヤンが停学になった本当の原因話そうか? ウェルズにも話させるし」
「別にいいさ。停学食らった所でもう近衛騎士にはなってるしな、影響ねぇ。なんだったらゆっくりさせてもらうさ」
「そっか。ヤンがそう言うなら」

 そしてヤンも帰って行った。
 さっきまでの出来事が嘘かのように静かな時間がやってきてしまった。
 祭りの後は寂しいって言うけどその通りだ。
 また明日にはいつもの毎日がやってくる。アリスとアンとユリィと授業を受けたり、お昼に楽しく話したりするんだ。
 それを楽しみにして私は家の扉を開いて中に入った。



 だけどこの時は思いもしていなかった。私の想像していた明日が来ないなんて……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~

月城 亜希人
ファンタジー
やりたいことを我慢して質素に暮らしてきたアラフォー地味女ミタラシ・アンコが、理不尽な理由で神に命を奪われ地球から追放される。新たに受けた生は惑星エルモアにある小国ガーランディアの第二子となるハーフエルフの王女ノイン・ガーランディア。アンコは死産する予定だった王女に乗り移る形で転生を果たす。またその際、惑星エルモアのクピドから魔物との意思疎通が可能になるなどの幾つかのギフトを授かる。ところが、死産する予定であった為に魔力を持たず、第一子である腹違いの兄ルイン・ガーランディアが魔族の先祖返りとして第一王妃共々追放されていたことで、自身もまた不吉な忌み子として扱われていた。それでも献身的に世話をしてくれる使用人のロディとアリーシャがいた為、三歳までは平穏に過ごしてきたのだが、その二人も実はノインがギフトを用いたら始末するようにと王妃ルリアナから命じられていた暗殺者だった。ノインはエルモアの導きでその事実を知り、またエルモアの力添えで静寂の森へと転移し危機を脱する。その森で帝国の第一皇子ドルモアに命を狙われている第七皇子ルシウスと出会い、その危機を救う。ノインとルシウスはしばらく森で過ごし、魔物を仲間にしながら平穏に過ごすも、買い物に出た町でロディとアリーシャに遭遇する。死を覚悟するノインだったが、二人は既に非情なルリアナを見限っており、ノインの父であるノルギス王に忠誠を誓っていたことを明かす。誤解が解けたノイン一行はガーランディア王国に帰還することとなる。その同時期に帝国では第一皇子ドルモアが離反、また第六皇子ゲオルグが皇帝を弑逆、皇位を簒奪する。ドルモアはルリアナと共に新たな国を興し、ゲオルグと結託。二帝国同盟を作り戦争を起こす。これに対しノルギスは隣国と結び二王国同盟を作り対抗する。ドルモアは幼少期に拾った星の欠片に宿る外界の徒の導きに従い惑星エルモアを乗っ取ろうと目論んでいた。十数年の戦いを経て、成長したノイン一行は二帝国同盟を倒すことに成功するも、空から外界の徒の本体である星を食らう星プラネットイーターが降ってくる。惑星エルモアの危機に、ノインがこれまで仲間にした魔物たちが自らを犠牲にプラネットイーターに立ち向かい、惑星エルモアは守られ世界に平和が訪れる。 ※直接的な表現は避けていますが、残酷、暴力、性犯罪描写が含まれます。 それらを推奨するものではありません。 この作品はカクヨム、なろうでも掲載しています。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜

藤*鳳
ファンタジー
 人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。 なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。 しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。 しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。 人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。 色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【第1部完結】暫定聖女とダメ王子

ねこたま本店
ファンタジー
 東京在住の佐倉雲雀(さくらひばり)は、学生の頃ちょっとやんちゃだった過去を持つアラフォーオタク女。  そんな彼女はある日、都内某所で弟夫婦からの出産報告を待っている間に、不可思議な現象に襲われて命を落とし、異世界にて、双子の妹を持つ田舎の村の少女・アルエットに転生していた。やがてアルエットは、クズ叔父の暴力がきっかけになって前世の記憶を取り戻す。  それから1年。クズ叔父をサラッと撃退し、11歳になったアルエットは、なぜかいきなり聖女に認定され、双子の妹・オルテンシアと共に王都へ招かれる。そして双子の姉妹は、女王の第一子、性悪ダメ王子のエドガーと、嬉しくも何ともない邂逅を果たす事になるのだった。  ギャグとシリアス、所によりほのぼの?そして時々、思い出したように挟まってくるざまぁっぽい展開と、突然出てくる戦闘シーン。でも恋愛描写はほぼありません。  口が悪くて強気で図太い、物理特化型チート聖女・アルエットの奮闘を、生温い気持ちでご覧頂ければ幸いです。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

処理中です...