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嵐の来訪者

第232話-逆転劇-

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「ねぇ、斬らないの?」
「そうだな。お嬢を狙ったんだ、やっぱそれぐらい当然だよな」

 お嬢らしくない言葉に意図を感じた。
 いつからいたかは分からないが、お嬢なりの考えがあるみたいだし乗ってやるか。

「一撃で終わらせるより長く続ける方が罰らしいよな。まずは腕からな。その後は足、ついでに耳とかもやっちまうか」
「それいいかも」

 こっちの物騒極まりない言葉にウェルズは泣きそうな顔をしている。
 相手のお付きが来るかと思ったが、やってこない。ただ、こっちを心配そうにしている。
 心配はしているみたいだから、来れないってのが正しいのかも知れない。

「おい、何逃げようとしてんだ」

 一瞬身体全体を動かそうとしたから言葉で釘を刺す。
 息が荒くなってきているのは恐怖のせいか。
 どっちにしても精神的に辛そうなのは伝わってくる。

「次動きそうになったら、問答無用に刺す」
「ヒッ!!」

 口をパクパクとさせているのが魚を思い出す。

「貴方が悪いのよ。貴方が私にちょっかい出したから」
「だ、だから……それは……」
「何よ。貴方が首謀者でしょ。首謀者なら貴方が斬られても文句言えないわよ。なんなら面倒くさいからあっちの二人も斬るわよ」

 「お嬢ノリノリでやってないか?」と思わず心の中でツッコんでしまった。表情がイキイキしていると言うかなんと言うか……。いや、まぁ散々な目に遭わされてるし、俺も頭ぶたれてるし、気持ちは分かるけどよ……。

「と言う事だからまずは手から行きましょう。手の甲をそのまま刺しちゃえば槍もしばらくの間握れないでしょ、私に手を出そうとした人の手だしね。刺しちゃえ」

 ウェルズを上から見下す様に視線を送っている。顔に怒りは感じないけど、してやったりと言う雰囲気は伝わってくる。

「了解」

 剣を一度上げて勢いをつけるための距離を取る。とは言っても本当の所は猶予を与えるためだ。

「ま、待て! 待ってくれ!」

 久々にしっかりとした言葉を発した気がする。それでも言葉自体は震えていたが。

「わ、私じゃない、本当なんだ」
「それじゃ、誰なの? わざわざ私に目をつけて、貴方をけしかけてきた来た人は? 教えてくれたら刺すの辞めてあげるかも」

 やっぱ楽しんでないかお嬢。しかも、ここまで来て『あげるかも』と来た。確約じゃないらしい。鬼か。

「それは……」
「それは?」

 鬼の化身の様に思えたお嬢の冷めた笑顔を前にウェルズは言葉に詰まる。そこまでして言いたくない相手なのか。

「それで?」

 もはや余計な言葉は言わなくなって単語だけで問い詰める。さっきとは違う意味で泣きそうなウェルズがまた可哀想になってきた。悪いのはこいつなんだろうけど、「面倒くさいのを相手にしたな」と主人を馬鹿にするわけじゃないが内心同情した。
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