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嵐の来訪者

第216話-見えない敵-

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「ウェルズ様にお伝えしなければ……」

 ウェルズ様の影の仕事を務めている者として見過ごせない情景だった。
 監禁している筈の男が馬に乗って走っていた。
 ウェルズ様の行く先を常に確認しているからこそ見つけられたこの異常事態は間違いなく、これからの障害になる。
 このままではウェルズ様の計画が潰れかねない。
 そう思い来た道を戻る。戻ると言っても馬を走らせるわけではなく、自分の足で姿を見られない様に木々を伝って行く。小柄な自分にはこの手法が隠密の仕事を行うに当たって最適だ。
 情報は最新の物を、そして連携をとる。そのために自分がミスをしては許されない。重圧かも知れないが、ウェルズ様の側にてその露払いのギウスに比べると重圧はまだマシな方だ。

「何だ!?」

 慣れた足取りで木々の上と間をすり抜ける中で足を踏み外した。こんな事は初めてだ。慌てて体勢を立て直して大事には至らないようにした。
 何故踏み外したのかは簡単だ。目の前から足元目がけてナイフが投げられていたからだ。気付くのがもう少し遅ければ足の甲に刺さっていただろう。

「誰だ?」

 ここまで的確な攻撃は初めて向けられた。
 今まで一方的に攻撃を仕掛けて来た、だが初めて一方的に攻撃を向けられる立場へと逆転した。
 こちらの呼びかけに応じない。
 こうなるとナイフが飛んできた方向には居ないと思った方がいい。自分ならすぐに場所を変えるからだ。
 静まり返った森の中、木の間を抜けていく風が枝同士を擦り付け合わせて大きな音の波として響く。相手はこちらの隙を見ているどこかで。下手に動けないが、今は先を急ぐ時だ。

「(こんなタイミングで厄介な……)」

 いや、違う。このタイミングだからこそだ。
 監禁していた筈の男が外にいる。つまり助けた人物がいる。対象の周りの繋がりは全て確認していた筈だ。同じ近衛騎士、友人……それらが動けるはずがない、動けても場所の特定など出来ない筈……。
 ただ、間違いないのはこちらが相手側の作戦に嵌っているという事。

「(相手も俺と同じ影の人間が側にいたという事か、ここまで隠していたとは策士だな)」

 姿の見えない敵に関心し、賞賛を送りながら自分の役割を果たすために覚悟を決めて前に進みだす。
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