214 / 422
嵐の来訪者
第184話-ウェルズの挑発-
しおりを挟む
「ユリ!!」
勝負の終わりが告げられる前に私は倒れ込んだユリへと駆け出していた。
素人の私が見ても分かる。今の攻防でユリの負けだ。
「大丈夫!?」
彼女を抱き上げて声をかけてみても返事はない。反応もない。ただ静かに呼吸だけはしていた。
「俺が医務室まで連れて行く、こっちに」
ヤンも駆け寄って来てくれてユリを担ぎ上げてくれた。意識のない人間の重みは予想よりもはるかに大きかったからありがたい申し出だった。
「私も一緒に行く、片側から私が肩を貸すからそっちお願い」
ヤンと片方ずつから担いで医務室のある校舎の方へと向かおうとすると私達の周りに教師らしき人物がやってきた。
教師陣二人は「自分達が連れて行く」と言ったから私達はユリを預けた。多分私達が担いで行くよりも教師陣の方が早いと判断したから。
そして連れて行く前に試合の終了と解散だけ言い残して医務室へと向かっていった。
残されたのは参加者と周りの生徒たちだけになった。
「やりすぎてしまった事を謝りますよ」
そう言ってきたのはウェルズだった。
背後からの声に振り向くと頭を下げた姿でそこに居た。
「手加減できる程の実力差がなかったもので」
表情が見えないから真意は分からない。だけど、私の勘が言っている、これは本意じゃないって。
「だからってやり過ぎよ! 相手は女の子なのよ。それなのに」
「それは違いますよ」
「何がよ」
ウェルズは頭を上げた。そこにある表情は冷たい無表情だった。
「彼女は近衛騎士なのでしょう。なら貴方を守ることになった時に相手は女性だからって手は抜きませんよ」
「そんなの実戦でしょ! これはあくまで訓練の一環の試合じゃない」
「試合とは本番を見据えて行うものです。あの子では貴方を守りきれていませんでしたね」
どこか話が合わない。歯車があっていない。私の言葉がウェルズまで届いていない様に感じる。
「お嬢、やめとけ。あいつの言う事も間違いじゃねぇ。言い合いするだけ立場が悪くなる」
「ヤン……貴方も……」
ヤンにまで私の言葉はズレて聞こえていたらしい。この場に私の味方は居なかった。
「あんたもそこまでだ。それと言っといてやるよ、実戦だったとしても俺たちはお嬢を守れてるぜ」
ウェルズは何も言わない。ただ、その言葉を聞いて笑いを堪えている様に見えた。
「お嬢の近衛騎士はここにも居るし、まだ他にも居るからな」
「ほう。それは興味深いですね。一度手合わせして見たいですね……。本当に守りきれているのか」
挑発……ウェルズはヤンと戦える勝負の場に引き摺り出そうとしている。
勝負の終わりが告げられる前に私は倒れ込んだユリへと駆け出していた。
素人の私が見ても分かる。今の攻防でユリの負けだ。
「大丈夫!?」
彼女を抱き上げて声をかけてみても返事はない。反応もない。ただ静かに呼吸だけはしていた。
「俺が医務室まで連れて行く、こっちに」
ヤンも駆け寄って来てくれてユリを担ぎ上げてくれた。意識のない人間の重みは予想よりもはるかに大きかったからありがたい申し出だった。
「私も一緒に行く、片側から私が肩を貸すからそっちお願い」
ヤンと片方ずつから担いで医務室のある校舎の方へと向かおうとすると私達の周りに教師らしき人物がやってきた。
教師陣二人は「自分達が連れて行く」と言ったから私達はユリを預けた。多分私達が担いで行くよりも教師陣の方が早いと判断したから。
そして連れて行く前に試合の終了と解散だけ言い残して医務室へと向かっていった。
残されたのは参加者と周りの生徒たちだけになった。
「やりすぎてしまった事を謝りますよ」
そう言ってきたのはウェルズだった。
背後からの声に振り向くと頭を下げた姿でそこに居た。
「手加減できる程の実力差がなかったもので」
表情が見えないから真意は分からない。だけど、私の勘が言っている、これは本意じゃないって。
「だからってやり過ぎよ! 相手は女の子なのよ。それなのに」
「それは違いますよ」
「何がよ」
ウェルズは頭を上げた。そこにある表情は冷たい無表情だった。
「彼女は近衛騎士なのでしょう。なら貴方を守ることになった時に相手は女性だからって手は抜きませんよ」
「そんなの実戦でしょ! これはあくまで訓練の一環の試合じゃない」
「試合とは本番を見据えて行うものです。あの子では貴方を守りきれていませんでしたね」
どこか話が合わない。歯車があっていない。私の言葉がウェルズまで届いていない様に感じる。
「お嬢、やめとけ。あいつの言う事も間違いじゃねぇ。言い合いするだけ立場が悪くなる」
「ヤン……貴方も……」
ヤンにまで私の言葉はズレて聞こえていたらしい。この場に私の味方は居なかった。
「あんたもそこまでだ。それと言っといてやるよ、実戦だったとしても俺たちはお嬢を守れてるぜ」
ウェルズは何も言わない。ただ、その言葉を聞いて笑いを堪えている様に見えた。
「お嬢の近衛騎士はここにも居るし、まだ他にも居るからな」
「ほう。それは興味深いですね。一度手合わせして見たいですね……。本当に守りきれているのか」
挑発……ウェルズはヤンと戦える勝負の場に引き摺り出そうとしている。
0
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端家族が溺愛してくるのはなぜですか??~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
すべてをなくした、その先で。 ~嫌われ者の俺に優しくしてくれるのがヤベー奴らしかいないってどういうこと!?~
F.ニコラス
ファンタジー
なぜか人という人に嫌われまくる16歳の少年・フウツ。
親に捨てられ村では虐げられ無いものだらけの彼だったが、ついに長年の憧れであった冒険者になる。しかしパーティーの仲間は、なんとヤンデレ令嬢のみ!?
旅の途中で出会う新たな仲間も、病的なまでの人嫌い、戦闘狂の竜人娘、毒物大好き少年に、ナチュラル物騒な芸術家、極めつけは天災エセ少女や人間を愛玩する厄介精霊!
問題児たちに振り回されたりトラブルに巻き込まれたりしながらも、フウツはそんな日常をどこか楽しみながら過ごしていく。しかし――
時おり脳裏に現れる謎の光景、知らない記憶。垣間見えるフウツの”異常性”。1000年の歳月を経て魔王が再び動き出すとき、数奇な運命もまた加速し事態はとんでもない方向に転がっていくのだが……まだ彼らは知る由も無い。
というわけで、ヤベー奴らにばかり好かれるフウツのめちゃくちゃな冒険が始まるのであった。
* * *
――すべてをなくした、その先で。少年はエゴと対峙する。
* * *
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる