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騎士と派閥と学園生活と

第164話-逆転劇-

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 フロー先輩の言動に私もリオル総長も動きが止まった。お互い何もアクションを取る事も出来ず、フロー先輩の方を見ることしか出来なかった。

「話は総長の派閥への勧誘でしょう。なので、私はフランソワさんの派閥に入らせて頂きます。なければ私が勝手に作りますわ」

 無茶苦茶な言動とも聞こえる宣言。だけど、今は心強い。

「フロー君か。いきなり何を言い出すんだ。確かに君は俺の名前を使って彼女に迫ったけど、そこまでする事はないだろ。俺も派閥を出て行けなんて言わないさ」
「いえ、これは私の意思です。私がそうしたいと思って言いました」
「君はあれだけ慕ってくれていたじゃないか。アーネスの事も応援してくれるんだろ」
「はい、そのつもりでした。貴方に憧れて、貴方に見て欲しくて。でも、それは辞めました」

 リオル総長が唇を噛み締めるのが見えた。

「何故だ? 理解できないな」
「私自身が恥ずかしかったからです。構って欲しくて、彼女に嫌がらせをして、運がいいだけだからと妬んで。それを私は貴方に見て欲しくてやっていました。総長を言い訳にして……。だけど、彼女と話していたらそれもスッキリしました」

 何かを決めた様な表情は前を向いて、下を向かず、真っ直ぐとフロー先輩の本音を告げている。

「だから、私は彼女を応援したいと思うようになりました。彼女が派閥への勧誘を拒んでいるなら、私はそれを少しでも手助けしてあげたい」
「嫌がらせか……」
「違いますわ。それに私程度が抜けても問題ないでしょう。私は総長に目をかけてもらっていないんですから」

 いつの間にかやりとりは私とリオル総長ではなく、リオル総長とフロー先輩になっていた。
 フロー先輩の申し出に周りの人達の目が一層と集まってきている。それは学院、学校両方の生徒達全員の。

「フランソワ様、こちらへ」

 背後に立っていたアンが私をその場から後方へ下がる様に呟いた。
 アンの手に引かれる様に後方に下がる。

「あの方のお陰でフランソワ様に有利になりました」
「どう言う事!?」
「衆目の前で派閥を抜ける宣言は裏切り行為に近い事ですの」
「それじゃあ、フロー先輩は悪者じゃない」
「いえ、この場合、あの方は総長をかなり慕っていたはず、それが裏切ると言うのは派閥の信頼問題です。あの方が普段から属しているだけなら問題ありませんが、あの方の今までの行動の結果が派閥抜けの宣言に意味を持たせていますわ」

 アンの見立てでは風はこちらに向き始めているらしい。
 フロー先輩の言葉にリオル総長は言葉に詰まっている。具体的な返答はせずに曖昧な言葉でフロー先輩を抜けさせない様に説得している。

「総長があの方をそのまま手放して、こちらにつく事になれば、総長側の信頼は多少なり落ちるでしょう、そして派閥の人間を大事にしないと言う印象もつきます。このまま説得して、あの方が離れない事を選択しない限り総長側にはマイナスでしかありません」

 フロー先輩の登場で場面は一変した。
 先輩がいなければ私は押され切っていたかもしれない。この場はどうにかしても、この先が分からなかった。

「総長。ありがとうございました」

 リオル総長の言葉を遮っての一言は短い別れの挨拶だった。

「分かった。分かったよ。諦めるよ」

 さっきまでと違って、前にあった時の様な余裕のある話し方に戻っている。

「それじゃあ俺はこれで失礼するよ」

 踵を返してお供の二人もリオル総長の後を追っていく。

「皆さん驚かせてしまってすまないね。せっかくの交流会だ。それぞれの近衛騎士をじっくり選んでくれ。選ぶのは大切だ。何せ自分の選択だからね」

 周りを囲んでいた人に向けてのメッセージを大きな声で投げながらその場を立ち去っていく。
 それは誰に向かって言っているのか。私には見当もつかなかった。
 
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