121 / 419
ガルド城の秘密
第93話-問答-
しおりを挟む
「それは言えないな」
目の前の男は明確には答えなかった。
でもそれでも今は会話で時間を稼ぐしかない。時間が経てば解決することでもないのは分かっているが、手当をする時間だけでも稼がなければならない。
「そう言えば君は見たことあるな。テラスで見た子か。よく暗闇の中で見つけたよね。偶然?」
初日のパーティーの時に見たのはこいつだったのか。そしたら次なる疑問が湧いて来る。
「あんなとこで何をしてたんですか? わざわざ侵入者が人の集まるとこに近づく利点などないと思いますが」
「内緒。色々とね」
肝心の所は答えない。あくまで自分の語りたい所だけ語って来る。
「短剣を構えて立ってるのはいいけど、女の子が剣を扱えるの?」
「私も騎士を目指す者ですから」
「女の子で初めて聞いたよ。家で訓練してるの? だったら無駄な抵抗はやめときなよ」
「生憎ですが、騎士学校の生徒ですので」
「そうなんだ。時代は変わったね。僕がいた時は女の子が騎士を目指すなんて無かったよ」
「騎士を目指す学校出身者が魔法信者をやっているなんて。堕ちましたね」
「どう思うかは、君の自由だよ」
そこで会話は終わった。
これ以上時間は稼げない。そして今斬り込まれたら私は後ろにも引けない。だから会話をしながら少しずつ距離を詰めた。
そして私から斬り込んだ。
相手はまだ剣を抜いていない。余裕が、慢心がそこにはある。
だから先に武器を出している私から攻めた。先に一撃が入れば私の勝ち。そうでなくてもペースを握ってここから引き離す。
そう考えて自分を納得させた。そう考えないと身体が動かなかったから。
立ち振る舞いから分かる。圧倒的な力量の差を。
剣を抜かれたら真っ正面からの勝負では話にならない。
だから私は殺すつもりで、自分の全てを全力でぶつける。
「無理だよ」
私の一撃は当然かわされた。だけどその場から引き離すことは出来た。
そして距離を詰めたからこそ、短刀の有利な場面を作り出した。
だが有利な状況でもそれはすぐに一転した。
後方に避けるのと同時に腰に掛けた長剣を抜刀した。左手で鞘を抑え、右手で剣の柄を握り抜刀の勢いで剣を振う。
何より私が驚いたのは攻めへの転じ方でも、ましても身のこなしでもない。
引き抜かれた刀身が炎に包まれている。その事に驚きを隠せなかった。
「初めて見るだろ、僕以外でこんなの使ってる人見たことないしね」
「えぇ、そうですね。あなた達お得意の見せかけの魔法ですよね」
「うん、そうだよ」
さっきの奴ならここで琴線に触れて起こり散らしていた。だけどこの男は違う。私の言葉を肯定した。
「だから完全なものにするために、探しているんだ」
振り下ろされる燃える剣を短刀で防ぐ。
上空からの一撃を流すために斜めに受けたが、剣は私が受けた所で短刀とかち合っている。
右に逸らすのに対して、短刀の上で停止させるために鍔の方に力を入れられている。
そこに気付いてもそれを受け流すための行動に移せない。
こちらの方が剣への距離が近い、だから炎の熱気を一身に受けてしまう。熱で体力が奪われる。
特に手元の熱さが異常だ。
私は無我夢中で膠着状態から抜け出すために力一杯短剣受けながら反転させた。
鍔迫り合いから抜け出して、思わず距離を取ってしまう。
「見た目だけの物かと思いましたがそうでもないですね」
「ありがとう。火はいいよね。明かりの代わりにもなるし、寒い時には暖を取れる。所で、君は寒い中で放り出された事はある?」
この場面で理解し難い質問だった。
「ないですね」
「だろうね。この城に居るんだから良いとこの娘さんだろうに」
「それがどうかしましたか? 私は今の家が、家族が居て幸せだとは自負しています」
「そしたら火の大切さは知らないだろうな。僕は貧しい村の出身でね、だから暖を取るための火は神様のように見えたね。これが自在に操ることが出来たら……すごいと思わない?」
「それが、あなたが魔法信者になった理由ですか」
人のおい立ちには様々ある。それは当然だ。人それぞれに人生があるのだから。でもそれを言われても私は困る。おい立ちを聞いても私には何もする事はできないのだから。
「それであれば、貴方の探す『魔法』を見つけるために協力すれば良いのでは? こんな力を振るうのではなく」
「それもあったかも知れない。だけど、君たちは違うだろ、魔法信者を異常者の様に扱う。だから協力する事が出来なくなった」
燃える剣を納刀しながら言った。
最初より火の勢いが弱まっていた。燃える時間制限の様なものがあるらしい。
「そして、今、顔も知らない同志を君達は傷付けた、だから僕はそのために力を振るうのさ」
この男も同じだ。こちらが反撃したのは向こうから襲って来たからだ。それでも、頭の中では私達が悪いと言う事になる。
私が倒れたら後ろの2人にも危害が及ぶ。私が立っている間に後ろの2人だけでも逃さなければならない。それか、私が何がなんでもこの目の前の男を排除する、そしてこの危機を脱するしかない。
それが騎士を目指す者としての矜持だ。
目の前の男は明確には答えなかった。
でもそれでも今は会話で時間を稼ぐしかない。時間が経てば解決することでもないのは分かっているが、手当をする時間だけでも稼がなければならない。
「そう言えば君は見たことあるな。テラスで見た子か。よく暗闇の中で見つけたよね。偶然?」
初日のパーティーの時に見たのはこいつだったのか。そしたら次なる疑問が湧いて来る。
「あんなとこで何をしてたんですか? わざわざ侵入者が人の集まるとこに近づく利点などないと思いますが」
「内緒。色々とね」
肝心の所は答えない。あくまで自分の語りたい所だけ語って来る。
「短剣を構えて立ってるのはいいけど、女の子が剣を扱えるの?」
「私も騎士を目指す者ですから」
「女の子で初めて聞いたよ。家で訓練してるの? だったら無駄な抵抗はやめときなよ」
「生憎ですが、騎士学校の生徒ですので」
「そうなんだ。時代は変わったね。僕がいた時は女の子が騎士を目指すなんて無かったよ」
「騎士を目指す学校出身者が魔法信者をやっているなんて。堕ちましたね」
「どう思うかは、君の自由だよ」
そこで会話は終わった。
これ以上時間は稼げない。そして今斬り込まれたら私は後ろにも引けない。だから会話をしながら少しずつ距離を詰めた。
そして私から斬り込んだ。
相手はまだ剣を抜いていない。余裕が、慢心がそこにはある。
だから先に武器を出している私から攻めた。先に一撃が入れば私の勝ち。そうでなくてもペースを握ってここから引き離す。
そう考えて自分を納得させた。そう考えないと身体が動かなかったから。
立ち振る舞いから分かる。圧倒的な力量の差を。
剣を抜かれたら真っ正面からの勝負では話にならない。
だから私は殺すつもりで、自分の全てを全力でぶつける。
「無理だよ」
私の一撃は当然かわされた。だけどその場から引き離すことは出来た。
そして距離を詰めたからこそ、短刀の有利な場面を作り出した。
だが有利な状況でもそれはすぐに一転した。
後方に避けるのと同時に腰に掛けた長剣を抜刀した。左手で鞘を抑え、右手で剣の柄を握り抜刀の勢いで剣を振う。
何より私が驚いたのは攻めへの転じ方でも、ましても身のこなしでもない。
引き抜かれた刀身が炎に包まれている。その事に驚きを隠せなかった。
「初めて見るだろ、僕以外でこんなの使ってる人見たことないしね」
「えぇ、そうですね。あなた達お得意の見せかけの魔法ですよね」
「うん、そうだよ」
さっきの奴ならここで琴線に触れて起こり散らしていた。だけどこの男は違う。私の言葉を肯定した。
「だから完全なものにするために、探しているんだ」
振り下ろされる燃える剣を短刀で防ぐ。
上空からの一撃を流すために斜めに受けたが、剣は私が受けた所で短刀とかち合っている。
右に逸らすのに対して、短刀の上で停止させるために鍔の方に力を入れられている。
そこに気付いてもそれを受け流すための行動に移せない。
こちらの方が剣への距離が近い、だから炎の熱気を一身に受けてしまう。熱で体力が奪われる。
特に手元の熱さが異常だ。
私は無我夢中で膠着状態から抜け出すために力一杯短剣受けながら反転させた。
鍔迫り合いから抜け出して、思わず距離を取ってしまう。
「見た目だけの物かと思いましたがそうでもないですね」
「ありがとう。火はいいよね。明かりの代わりにもなるし、寒い時には暖を取れる。所で、君は寒い中で放り出された事はある?」
この場面で理解し難い質問だった。
「ないですね」
「だろうね。この城に居るんだから良いとこの娘さんだろうに」
「それがどうかしましたか? 私は今の家が、家族が居て幸せだとは自負しています」
「そしたら火の大切さは知らないだろうな。僕は貧しい村の出身でね、だから暖を取るための火は神様のように見えたね。これが自在に操ることが出来たら……すごいと思わない?」
「それが、あなたが魔法信者になった理由ですか」
人のおい立ちには様々ある。それは当然だ。人それぞれに人生があるのだから。でもそれを言われても私は困る。おい立ちを聞いても私には何もする事はできないのだから。
「それであれば、貴方の探す『魔法』を見つけるために協力すれば良いのでは? こんな力を振るうのではなく」
「それもあったかも知れない。だけど、君たちは違うだろ、魔法信者を異常者の様に扱う。だから協力する事が出来なくなった」
燃える剣を納刀しながら言った。
最初より火の勢いが弱まっていた。燃える時間制限の様なものがあるらしい。
「そして、今、顔も知らない同志を君達は傷付けた、だから僕はそのために力を振るうのさ」
この男も同じだ。こちらが反撃したのは向こうから襲って来たからだ。それでも、頭の中では私達が悪いと言う事になる。
私が倒れたら後ろの2人にも危害が及ぶ。私が立っている間に後ろの2人だけでも逃さなければならない。それか、私が何がなんでもこの目の前の男を排除する、そしてこの危機を脱するしかない。
それが騎士を目指す者としての矜持だ。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
煩悩まみれなのが推しに駄々漏れで聖女失格です?
カギカッコ「」
恋愛
【第一章完結】ですがまだ続きます。小説のキャラである青年セオドアを生涯推して孫までこさえた人生を終えたあたし。しかし何のご褒美か推しのセオドア――セオ様が実在する世界に転生した。アリエルという女として。前世を思い出したのは十代半ば。しかも聖なる力までが開花して聖女になった。聖女として国王陛下でもあるセオ様と接しながら彼への脳内妄想を募らせていたある日、あたしの煩悩が彼に筒抜けだと彼本人から告げられて絶望した。そんなところから始まる聖女ライフ。
編集して途中までを第一章にしました。非公開にした後の部分も編集してそのうち第二章としてまとめようと思います。
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
殿下、そんなつもりではなかったんです!
橋本彩里(Ayari)
恋愛
常に金欠である侯爵家長女のリリエンに舞い込んできた仕事は、女性に興味を示さない第五皇子であるエルドレッドに興味を持たせること。
今まで送り込まれてきた女性もことごとく追い払ってきた難攻不落を相手にしたリリエンの秘策は思わぬ方向に転び……。
その気にさせた責任? そんなものは知りません!
イラストは友人絵師kouma.に描いてもらいました。
5話の短いお話です。
転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください
木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。
水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。
と、思っていたらなんか可笑しいぞ?
なんか視線の先には、男性ばかり。
そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。
人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。
料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。
お、美味しいご飯が食べたい…!
え、そんなことより、恋でもして子ども産め?
うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる