47 / 419
白と黒の騎士
第29.5話幕間-ヤンとフロスト-
しおりを挟む
湿気の籠った独特の匂いを久々に嗅いだ。外の雨も原因だろうが、元々この場所は湿気の匂いがいつも籠っていた。
街を出て約1年ちょっと、たまにこの街に帰ってきた時でもここに寄ることはなかった。
元々は集合住宅だったここも俺たちが子どもの頃にはだれも住んでいることもなく放置されていた。だからここは隠れ家にはぴったりの場所だった。
「お前は……やっぱりヤンか」
「フロストは上にいるか?」
入口の入ったところでさっきからずっとこちらを見張っていた男に尋ねた。顔は見た覚えがある。だけど名前までは覚えてない。
「あぁ。行くなら勝手にしろ。ただ武器は……お前ならいいだろう」
「別に喧嘩しに来たわけじゃねぇ。安心しろ」
そのまま奥に入って階段を上る。足が石の階段を叩く音が響く。石の建物だから外の雨の音はあまり気にならない程度しか聞こえてこない。
上ると小さく明かりがついている部屋が見えた。吸い込まれるようにそこに一直線に向かっていく。
「久しぶりだな。手酷くやられてんじゃねーか」
部屋の奥のベッドには一人の男が寝そべっている。フロストだ。短髪に目つきが悪いのは昔から変わらない。ベッドの横に座っているもう1人の男はフロストの側近のヴァリだ。小さな火元の明かりがフロストとヴァリを照らし出している。
ただいつものフロストと違うのは怪我を負ってベッドに横たわっているという所だ。利き腕の右手には包帯が巻かれている。襟元からも包帯が覗いていて、ここから見えない各所にも怪我をしていることが分かる。
ヴァリもフロストほどではないにしても、顔や腕に切り傷が刻まれている。
「嫌味言いに来ただけならさっさと帰りやがれ」
「そう拗ねるなよフロスト」
ヴァリは何も言わない。こっちを一目だけ見て椅子をベッドから離してそのまま座った。
「最近の下層の状況は今日聞いた。このままにしとくつもりか?」
「そんなつもりは毛頭ない。準備をして反撃に出るつもりだ。それでお前はいつ動くんだ?」
「逆だ。お前らがいつ動くんだ?」
俺の返答にフロストは鼻で笑った。
「明後日の夜だ。だが、たった今変更する。今日の深夜だ」
「急に変更しても大丈夫なのかよ?」
「問題はない。もうほとんど終わっている。それにこの雨だ。決行するなら雨に紛れての方がいい。何よりお前が帰ってきている。その情報は時間が経てば経つほど伝わる可能性が高くなる」
「俺はお前らと協力するなんて言ってねーぞ」
「俺たちも協力してくれなんて言ってない。お前は勝手に動いてろ。俺たちは正面から行くそれだけだ」
「分かったよ。それじゃあな」
「場所とかは知ってるのか?」
「協力してるわけじゃねーだろ。それに俺は自分で見た情報を信じる」
聞きたいことをだけを聞いて部屋を後にした。
街を出て約1年ちょっと、たまにこの街に帰ってきた時でもここに寄ることはなかった。
元々は集合住宅だったここも俺たちが子どもの頃にはだれも住んでいることもなく放置されていた。だからここは隠れ家にはぴったりの場所だった。
「お前は……やっぱりヤンか」
「フロストは上にいるか?」
入口の入ったところでさっきからずっとこちらを見張っていた男に尋ねた。顔は見た覚えがある。だけど名前までは覚えてない。
「あぁ。行くなら勝手にしろ。ただ武器は……お前ならいいだろう」
「別に喧嘩しに来たわけじゃねぇ。安心しろ」
そのまま奥に入って階段を上る。足が石の階段を叩く音が響く。石の建物だから外の雨の音はあまり気にならない程度しか聞こえてこない。
上ると小さく明かりがついている部屋が見えた。吸い込まれるようにそこに一直線に向かっていく。
「久しぶりだな。手酷くやられてんじゃねーか」
部屋の奥のベッドには一人の男が寝そべっている。フロストだ。短髪に目つきが悪いのは昔から変わらない。ベッドの横に座っているもう1人の男はフロストの側近のヴァリだ。小さな火元の明かりがフロストとヴァリを照らし出している。
ただいつものフロストと違うのは怪我を負ってベッドに横たわっているという所だ。利き腕の右手には包帯が巻かれている。襟元からも包帯が覗いていて、ここから見えない各所にも怪我をしていることが分かる。
ヴァリもフロストほどではないにしても、顔や腕に切り傷が刻まれている。
「嫌味言いに来ただけならさっさと帰りやがれ」
「そう拗ねるなよフロスト」
ヴァリは何も言わない。こっちを一目だけ見て椅子をベッドから離してそのまま座った。
「最近の下層の状況は今日聞いた。このままにしとくつもりか?」
「そんなつもりは毛頭ない。準備をして反撃に出るつもりだ。それでお前はいつ動くんだ?」
「逆だ。お前らがいつ動くんだ?」
俺の返答にフロストは鼻で笑った。
「明後日の夜だ。だが、たった今変更する。今日の深夜だ」
「急に変更しても大丈夫なのかよ?」
「問題はない。もうほとんど終わっている。それにこの雨だ。決行するなら雨に紛れての方がいい。何よりお前が帰ってきている。その情報は時間が経てば経つほど伝わる可能性が高くなる」
「俺はお前らと協力するなんて言ってねーぞ」
「俺たちも協力してくれなんて言ってない。お前は勝手に動いてろ。俺たちは正面から行くそれだけだ」
「分かったよ。それじゃあな」
「場所とかは知ってるのか?」
「協力してるわけじゃねーだろ。それに俺は自分で見た情報を信じる」
聞きたいことをだけを聞いて部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
煩悩まみれなのが推しに駄々漏れで聖女失格です?
カギカッコ「」
恋愛
【第一章完結】ですがまだ続きます。小説のキャラである青年セオドアを生涯推して孫までこさえた人生を終えたあたし。しかし何のご褒美か推しのセオドア――セオ様が実在する世界に転生した。アリエルという女として。前世を思い出したのは十代半ば。しかも聖なる力までが開花して聖女になった。聖女として国王陛下でもあるセオ様と接しながら彼への脳内妄想を募らせていたある日、あたしの煩悩が彼に筒抜けだと彼本人から告げられて絶望した。そんなところから始まる聖女ライフ。
編集して途中までを第一章にしました。非公開にした後の部分も編集してそのうち第二章としてまとめようと思います。
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
殿下、そんなつもりではなかったんです!
橋本彩里(Ayari)
恋愛
常に金欠である侯爵家長女のリリエンに舞い込んできた仕事は、女性に興味を示さない第五皇子であるエルドレッドに興味を持たせること。
今まで送り込まれてきた女性もことごとく追い払ってきた難攻不落を相手にしたリリエンの秘策は思わぬ方向に転び……。
その気にさせた責任? そんなものは知りません!
イラストは友人絵師kouma.に描いてもらいました。
5話の短いお話です。
転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください
木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。
水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。
と、思っていたらなんか可笑しいぞ?
なんか視線の先には、男性ばかり。
そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。
人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。
料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。
お、美味しいご飯が食べたい…!
え、そんなことより、恋でもして子ども産め?
うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる