1 / 35
プロローグ
しおりを挟む
地に這いつくばる自分の姿は、どれほど無様だろうか。目の前の男が錬成した岩は、容赦なく俺を痛めつけた。口の中は衝撃で歯や岩の破片によって裂傷を負い、血だらけになっている。
身体も無数の青黒い痣だらけに包まれているだろう。
皮膚感覚はとうの昔に失われ、残された底力と本能のままに身体を動かす。打たれた箇所は熱を放ち、その熱がまだ自分が倒れていないことを示すものとなっていた。
男も先ほどまでの余裕の無い様子とは打って変わって落ち着きを見せ、今度は致命傷を与えないように長く苦しみが続くような戦法を取っている。
それが今は逆に有り難かった。例え苦しみが長く続こうと関係ない。斃れるわけにはいかないのだ。
……あれ、俺何のために戦っているんだっけ。
朦朧とする視界の中で、ふと冷静な思考が舞い降りる。
そもそも、人間と吸血鬼という勝ち目のない戦いに参加するのを決意したのはなぜだ?
ああ、そうだ。あいつから参加するよう脅されたんだった。
ならばもうこいつは満足しているはずだ。俺のことを完膚なきまでにたたきのめし、これほど圧倒的な戦力差を周囲にアピールできたのだから、当初の目的は達成されただろう。
もしかしたら、降参するのを待っているのかもしれない。
ならば尚更放棄するべきだろう。これ以上一方的な暴力を見るのを観客も望んでいないはずだ。
そういえば戦いの前、この戦いは自分のためだと話していた記憶がある。
何かを背負って戦うのでなければ、ここで降参したって誰も責めないだろう。
俺だってこんな苦しい思いをしてまで、目の前の男を打倒したいわけではないのだ。
もういいだろう? 俺はよく足掻いたよ。これ以上戦ったって、何も意味はない。ただ恥を晒すだけなのだ。そうだ。もう諦めよう。
そんな風に意識を手放そうとしたその時だった。
「貴方はよくやりましたわ! もうおやめなさい!」
聞き慣れた心地よい声が耳を広がる。今の今まで、その存在を記憶から消し去っていた。途端に意識が覚醒していくのがわかる。この俺がよくやったって?
こんな無様な姿を晒して、どこがよくやったんだ。今の俺は、身の程知らずにも吸血鬼に挑んで返り討ちにされただけの弱い人間だ。
ああ、そうか。
単純な話じゃないか。
自分のためなんてカッコつけていたのが、そもそもの間違いだったんだ。
自分で自分を鼓舞しても、それは虚勢にしかならず、真の力を発揮するための燃料にはなり得ない。
きっと俺は、大切な人のためなら戦える。
右も左も分からない俺に、この世界のことや常識、戦い方を叩き込んでくれた少女に。理不尽な現実の中で生きていても、決して弱みを見せなかった少女に。
だから俺は戦わないといけない。俺は力を振り絞り、立ち上がった。
身体も無数の青黒い痣だらけに包まれているだろう。
皮膚感覚はとうの昔に失われ、残された底力と本能のままに身体を動かす。打たれた箇所は熱を放ち、その熱がまだ自分が倒れていないことを示すものとなっていた。
男も先ほどまでの余裕の無い様子とは打って変わって落ち着きを見せ、今度は致命傷を与えないように長く苦しみが続くような戦法を取っている。
それが今は逆に有り難かった。例え苦しみが長く続こうと関係ない。斃れるわけにはいかないのだ。
……あれ、俺何のために戦っているんだっけ。
朦朧とする視界の中で、ふと冷静な思考が舞い降りる。
そもそも、人間と吸血鬼という勝ち目のない戦いに参加するのを決意したのはなぜだ?
ああ、そうだ。あいつから参加するよう脅されたんだった。
ならばもうこいつは満足しているはずだ。俺のことを完膚なきまでにたたきのめし、これほど圧倒的な戦力差を周囲にアピールできたのだから、当初の目的は達成されただろう。
もしかしたら、降参するのを待っているのかもしれない。
ならば尚更放棄するべきだろう。これ以上一方的な暴力を見るのを観客も望んでいないはずだ。
そういえば戦いの前、この戦いは自分のためだと話していた記憶がある。
何かを背負って戦うのでなければ、ここで降参したって誰も責めないだろう。
俺だってこんな苦しい思いをしてまで、目の前の男を打倒したいわけではないのだ。
もういいだろう? 俺はよく足掻いたよ。これ以上戦ったって、何も意味はない。ただ恥を晒すだけなのだ。そうだ。もう諦めよう。
そんな風に意識を手放そうとしたその時だった。
「貴方はよくやりましたわ! もうおやめなさい!」
聞き慣れた心地よい声が耳を広がる。今の今まで、その存在を記憶から消し去っていた。途端に意識が覚醒していくのがわかる。この俺がよくやったって?
こんな無様な姿を晒して、どこがよくやったんだ。今の俺は、身の程知らずにも吸血鬼に挑んで返り討ちにされただけの弱い人間だ。
ああ、そうか。
単純な話じゃないか。
自分のためなんてカッコつけていたのが、そもそもの間違いだったんだ。
自分で自分を鼓舞しても、それは虚勢にしかならず、真の力を発揮するための燃料にはなり得ない。
きっと俺は、大切な人のためなら戦える。
右も左も分からない俺に、この世界のことや常識、戦い方を叩き込んでくれた少女に。理不尽な現実の中で生きていても、決して弱みを見せなかった少女に。
だから俺は戦わないといけない。俺は力を振り絞り、立ち上がった。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
夜霧の騎士と聖なる銀月
羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。
※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます
※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる