上 下
402 / 680

おでん!

しおりを挟む
「え~っと後はっと。」
 千春が自室の厨房で猪肉とマンドラゴラを煮込みつつ横の大鍋に具を入れて行く。

「あとは落とし蓋して煮込むんですね。」
「そ、ルプ達が狩って来た猪も、煮込めば柔らかくなるからね。」
 角煮大根ならぬ角煮マンドラゴラを煮込みながらマンドラゴラの輪切りを面取りする。

「なんで角を取るんですか?」
「煮崩れしないようにするのと味をしみ込ませる為だよ。」
「へぇ~~~・・・煮崩れ?」
 一緒に面取りをするモリアンがコテンと首を傾げる。

「煮ると角が削れたりするんだよ、こうすると崩れにくくなるの。」
 面取りしたマンドラゴラを大鍋に並べて行く。

「チハル、すじ肉はこんな感じで良い?」
「うん、アキレス腱は串に刺しておいてね。」
 サフィーナとサリナは高級肉のブラックホーンブルを解体した時に出た筋や腱を鍋に入れている。

「チハル様!玉子出来ましたニャー!」
「はーい、マクリゆで卵は少しヒビを入れて冷たい水に入れて殻剥いてくれる?」
「了解しましたニャ!」
 マクリは元気よく返事をするとボウルに水を張り茹で玉子を冷やす。

「あとはっと・・・お、帰って来たね。」
 スマホを見ながら千春は扉を通り日本に戻ると玄関を開ける。

「おかえりー。」
「ただいまー、これでいい?」
「うん、さんきゅ!これは流石にあっちには無いからねー。」
 買い物袋に入ったコンニャクを手に取りながら言うと、2人はまた異世界に移動する。

「おぉー、だいぶ出来たねー。」
「でしょぉー、それじゃコンニャクを切りまっしょい。」
「あ、それ私がするわ。」
「おっけーヨリよろしくー。」
 袋に入った他の材料を取り出し、袋を開け切っていく千春。

「はんぺんと、ちくわ、この巾着はなに?」
「餅~♪」
「厚揚げと・・・ヨリ買いすぎじゃない?」
「いや、絶対足んないって。」
「でもコレ入らないよ?」
「もう一個鍋出せば良いじゃん。」
「・・・せやな。」
「おでんの素は多めに買って来たから。」
「うぃーっす。」
 サフィーナがさらに大きな鍋を別のコンロに置くと魔法で水を出しそのままお湯にする。

「魔法便利だねぇ。」
「うん、この量の水沸騰させるだけでどんだけ時間掛かる事やら。」
 手を動かしつつ千春と頼子はサフィーナがサクサクと準備をするのを見る。

「・・・ヨリ、このソーセージと餃子は何?」
「ん?おでんの材料だよ。」
「うっそん。」
「いや、美味しいから。」
「マジで?まぁいいや。」
 そう言いつつ千春は大きなタコ足のブツ切りを串に刺し入れる。

「え?タコ?」
「そだよ、タコ串。」
「タコ美味しそうだね。」
「って言うかおでんって何入れても良い感無い?」
「練り物は何でも入れて良い気はするね。」
 次々と材料を切り、串を指し入れて行くと、二つ目の大鍋も大量の具で埋まった。

「よし、あとは煮るだけだね。」
 グツグツと煮るおでんを見ながら千春は満足そうに言う。

「他に何か作らないの?」
「他?例えば?」
「大根料理ならブリ大根!」
「角煮作ってるよ?」
「ちっちっち、ちゃうねん。」
「まぁブリっぽい魚は有るけど、コンロがなぁ。」
 大鍋と角煮に占領されたコンロを見る2人。

「卓上コンロならありますよ?」
 モリアンはそう言うと棚から魔導コンロを取り出す。

「んじゃブリ大根・・・いやブリマンドラゴラも作りますか。」
 千春は鰤に似た大きな魚を取り出すと包丁を入れる。

「凄いよね、魚捌ける女子高生。」
「やってたらヨリも出来るよ。」
「いや、そもそもやらないからさ。」
「覚えたらー?アリンに料理作ってあげるんでしょ?」
「・・・まぁねぇ。」
 魚を捌く千春を見ながらマンドラゴラの皮をピーラーで落とす頼子、そしてあとは煮込むだけになり、皆は火の番をモリアンとサリナに任せ応接間で寛ぐ。

「良い匂いね。」
 千春の所へマルグリットが顔を出す。

「はい、ちょっと変わった材料採って来たので料理してました。」
「マンドラゴラでしょ?」
「はい。」
「叫び声凄かったでしょ。」
「うるさかったです。」
「それにしても良い匂いね。」
「はい、今日の料理は全部マンドラゴラ使ってますから、お母様も食べます?」
「良いの?」
「はい、すっごい沢山採って来たので!」
「そう、それじゃ今日はここで夕食頂こうかしら。」
 マルグリットは千春に微笑みかけるとエリーナに伝言する。

「ユラは今何してます?」
「フィンレーと勉強してたと思うわよ?」
「ラルカ、ユラとフィンレー呼んできてくれる?」
「了解しました!」
 ラルカは兎耳をピコンと立て返事をするとあっという間に消えて行った。

「あとは今日頑張ってくれたルプ達に。」
 先ほど届いた酒をテーブルに置く。

「ほい、今日は日本酒と焼酎ね。」
「ほぉ、おでんに日本酒と焼酎か。」
「うん、お店の人におでんに合うお酒頼んだから合うと思うよ。」
 そう言うとルプ達は酒を取り自分達のテーブルに並べる、暫くするとユラが第三王子のフィンレーと一緒に訪れる。

「チハルおねえちゃん来たー!」
「チハルお姉さまお呼びですか?」
「いらっしゃい、あっちの料理を作ったから一緒に食べない?」
「たべる!」
「頂きます!」
 2人は微笑み合い嬉しそうに答える、そしてエンハルト、第二王子のライリー、アリンハンドも呼ばれ、呼んでいないエイダンが寂しそうに訪れる。

「チハル、儂の事忘れておらんか?」
「・・・いえ!忘れてません!」
「そうか?」
「お父様忙しくないんですか?」
「・・・忙しいんじゃが、飯くらい食えるぞ?」
「デスヨネー、あ、美味しいお酒も有りますから!」
 決して忘れていたと言わない千春は機嫌を取るように席に促し酒を置く。

「チハル様マンドラゴラも良い感じに煮込まれたようですよ。」
 サリナが声を掛けて来ると千春は厨房に行き味見をする。

「・・・んっまい!」
「私が火の番しましたから!」
「うん、そうだね、ありがとモリー。」
「これどうやって運びます?」
「重いよねコレ。」
「あと熱いです。」
 千春とモリアンが話をしているとロイロがひょっこりと現れる。

「チハル、知り合い連れて来たぞ・・・何しておるんじゃ?」
「あ、ロイロお帰り、これどうやって運ぼうかって話してたの。」
「儂が運んでやるわ。」
 熱い鍋でも気にせず素手でひょいと持ち上げると応接間のテーブルに運ぶロイロ、千春は一緒に部屋を移動すると2人のお客が立っていた。

「あれ?ユーリン、シャルル、どうしたの?」
「やほーチハルちゃん、今日マンドラゴラ採りまくったでしょー、街で噂になってたよー。」
「商人達がすっごい話してました。」
「あははは、よく私ってわかったね。」
「そりゃぁこんなに噂になる事、チハルちゃんに決まってるもん。」
「うんうん、うちの男連中も速攻で言ってたよね。」
「失礼な・・・まぁ当たりなんだけど、2人もご飯食べてく?」
「う~ん、そうしたいけど・・・。」
 チラリと周りを見渡すユーリン、そこには王族が勢揃いしている。

「あ、お父様達は気にしなくていいよ、一緒に食べよう。」
「そ、そう?それじゃ・・・頂きます~♪」
 ユーリンとシャルルはそう言うと王族とは別のテーブルにこっそり座る。

「チハル、並べたぞ。」
「ありがと、それじゃサフィー、エリーナさん、お父様達にお願いしていい?」
「了解しました。」
「お任せください。」
 配膳を任せた千春は頼子とユーリン達のテーブルに座る。

「さ、頂きましょうかねぇ~♪」
「美味しそうだねー。」
「チハルちゃんこれ何て料理なの?」
「初めて見る料理ね。」
「これはおでんだよ。」
「おでん?」
「おでん・・・意味は?」
「知らない、美味けりゃ良いのよ、さ、食べるよ!」
 小分けにした鍋にいくつかの具を入れテーブルに置くと皆がそれぞれ具を取る。

「やっぱ最初はマンドラゴラだね。」
「そりゃそうでしょ。」
「マンドラゴラが沢山だわ。」
「贅沢な料理ね。」
「それじゃいただきまーす!」
「いただきまーす!」
「「いただきます。」」
 他のテーブルでもいただきますと声が飛び交い食事が始まる。

「うっま!身が詰まった大根って感じだね。」
「うん、でも瑞々しさあるし味が凄い詰まってる感あるね。」
「ん~美味しい!」
「この汁が美味しいわ。」
 マンドラゴラを食べると次は厚揚げやコンニャクと次々に食べられていく。

「サフィー、侍女達の分取り分けてる?(ボソッ)」
「大丈夫です、別の鍋に人数分確保してます。(ボソッ)」
 千春が言うと勿論ですと言わんばかりの笑みを浮かべサフィーナが答える。

((・・・・・・・・・・・・・。))
「やべ。」
「ん?どした?千春」
「いや、ちょっと気配を感じまして。」
「あー・・・アイトネ様?」
『よんだーーーー!?!??!?』
「やっぱヨリ聖女じゃん?」
「呼んでないし!」
『呼んでよ!』
「はいはい、食べる?」
『勿論!』
 そしてアイトネも同じテーブルに座り角煮やおでんを味わった。

「うん、やっぱ寒い時はおでんだね。」
「だねぇ、あったまるわぁ。」
「チハルちゃん、このスープの作り方わかる?」
「うんうん、知りたい!教えて欲しいわ!」
「わかるよー、後でメモあげるね。」
 調味料を聞き出したユーリンとシャルルは千春と頼子からさらに聞き出した『移動式おでん屋台』と言う物を、某ギルドの者を使いジブラロール王国に普及させるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

魔法の盟約~深愛なるつがいに愛されて~

南方まいこ
BL
西の大陸は魔法使いだけが住むことを許された魔法大陸であり、王国ベルヴィルを中心とした五属性によって成り立っていた。 風魔法の使い手であるイリラノス家では、男でも子が宿せる受巣(じゅそう)持ちが稀に生まれることがあり、その場合、王家との長きに渡る盟約で国王陛下の側妻として王宮入りが義務付けられていた。 ただ、子が生める体とはいえ、滅多に受胎すことはなく、歴代の祖先の中でも片手で数える程度しか記録が無かった。 しかも、受巣持ちは体内に魔力が封印されており、子を生まない限り魔法を唱えても発動せず、当人にしてみれば厄介な物だった。 数百年ぶりに生まれた受巣持ちのリュシアは、陛下への贈り物として大切に育てられ、ようやく側妻として宮入りをする時がやって来たが、宮入前に王妃の専属侍女に『懐妊』、つまり妊娠することだけは避けて欲しいと念を押されてしまう。 元々、滅多なことがない限り妊娠は難しいと聞かされているだけに、リュシアも大丈夫だと安心していた。けれど――。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...