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episode5:二度目の再開
しおりを挟む「あー!ようやく会えた」
そんな言葉に振り向くとそこにいたのは三ヶ月ほど前に見た黒渕眼鏡の彼だった。
席に誘導された彼の前に立つ。
すると彼は嬉しそうな笑顔を見せながら口を開いた。
「俺のこと覚えてる?」
「……ラビットさん。ですよね?」
「正解。良かったー。覚えててくれて。実は俺、あのあと何回か来てるんだけどいつも杏ちゃんに会えなかったんだよ」
その言葉に私は驚くことしかできなかった。
だってこのお店にはもう来ないと思っていた上に、今日来たのもたまたまだと思っていたからだ。
それが私に会いに通っていただなんて信じられるわけもなく、私はにこりと笑うと茶化すように口を開く。
「嘘でしょー!ラビットさん口上手いんだから!だって杏、週三か週四くらいでちゃんとお給仕はいってたよー?」
「嘘じゃないよ?このカード!ほら見てみて」
そういってラビットさんが差し出してきたのは、私が去り際に渡したここのポイントカード。
ポイントカードには千円で一ポイントのスタンプを押し、その日の日付を書くようにしている為、いつ来店したのかが一目でわかるものだった。
そこにはラビットさんの言う通り、この三ヶ月間、週一回ほど通ってくれている記録がキチンと残されていた。
「えー!本当じゃん。なんかめっちゃ嬉しいんだけど!」
この言葉は嘘ではなかった。
メイド喫茶ではラビットさんの他にも、推しのメイドさんに向けて、今日は○○ちゃんのために来たんだよ!なんて口にする人は沢山いる。
現に半年ほど働いて、ある程度の推しが増えてきた私にもそのような声をかける人はいたが、たいていはザ、オタク!といった気持ち悪い方ばかりで、そう言われて本心から嬉しい!なんて口にする、お客さんは正直なところいなかった。
ただ、推してくれているからこそ仕事はやり易かったし、悪い気はしないからにこりと笑って営業トークとして嬉しいと口にする。
けれど、ラビットさんのこの言葉には自然と笑みが零れ、どこかワクワクするような、もっと楽しんでもらいたいと不思議と力が湧くようなそんな感覚に陥った。
そしてこの日私は思わず口にしてしまった。
「杏ね、大体月曜、水曜日、金曜日、それと土日のどちらかにいることが多いんだよ?」
これはご法度。
分かっていた。
でも、ラビットさんともっと話したい。
何故かそう思った私はこそっとラビットさんにそんなことを伝えてしまった。
駄目だと分かっていても動き出した運命の歯車を止める術なんか私は持ち合わせていなかったんだ?
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