上 下
159 / 163
G.F. - 大逆転編 -

page.636

しおりを挟む
僕と詩織はトレーニングルームから廊下へと出て、エレベーターで上の階…5階の社長室へ。

エレベーターの扉が開くと…そこはもう社長室。

室内には冴嶋美智子社長と、大槻和将専務取締役…それと、マネージャーの南野夕紀さんも待っていた。

ドキドキドキ…。


『来てくれてありがとうね。じゃあそこに座って』


冴嶋社長は、僕らにソファーに座るよう指示した。
ソファーに座ると、僕の隣に夕紀さんが座った。

そして目の前のソファーに、冴嶋社長と大槻専務取締役も座る。


『さて…今回は大変なことになったわね』


大変なこと…それはもちろん《僕の女装姿である金魚の存在とその詳細を、裏取り情報誌にて広く世間に報道された》ことだ。


冴嶋社長に続いて、今度は大槻専務取締役が僕に話し掛けてきた。


『岩塚くん…それで、君はどうしようと思っている?』


…どうしようと思っている…。


『君のもう一人の女装姿…池川金魚…だったっけ?』


…。

僕は返答に迷ってしまっていた…。


『君は僕と約束をしてくれた。もう少し時間は欲しいけど、いずれかは女装男子タレントとしてデビューしてくれる…と』


…!


『それとね…芸能界デビューはタイミングが大事だと、慎重に決めなければならない、ってことも話し合ったはずだ』

『…はい…』


詩織も、心配そうに僕の横顔を見てる…。


『…失礼します』


冴嶋社長の秘書の津田朱莉さんが、温かいコーヒーをれてきてくれた。それでこの会話は一旦遮られた。


『どうぞ。二人とも遠慮なく、コーヒーを飲みながら話を聞いて』


冴嶋社長がそう優しく誘ってくれた。
詩織は一口、コーヒーを口に含んだけど、僕はまだコーヒーには触れなかった。

大槻専務取締役が、一度息を払った。


『話を戻すけど…岩塚くん。どうかな。君には覚悟して決めてほしい…』


…!!


『僕の…女装タレントとしての…デビュー…ですよね…?』


僕が恐る恐る、大槻専務取締役に訊くと…。


『…うん。そうだ』


大槻専務取締役は、大きくゆっくりと頷いた…。


『今、芸能報道関係者のあいだでは、天才女装家という君の隠れた存在が、かなり強く注目されている。話題性もこれ以上ないぐらいに十分だ』


言いたいことは解ってる。
だから今が《そのタイミングなんだ》と…。

この好機チャンスを絶対に逃せないんだ…って言いたいことも。


『だがよく考えてほしい。この話は、君たちにとっても悪くないはずだ』


…何故?


大槻専務取締役はその理由を、事細かに僕らに話してくれた。

はっきり言って詩織は芸能界デビュー以来、たくさんの給与なんて貰ったことがない。
僕が思うにコンビニアルバイトぐらいか、もしかしたらそれよりも少なかったかもしれない。

もし君が天才女装タレントとして《今》デビューすれば、その注目度にあやかって、各種テレビやラジオの番組、芸能雑誌などから出演依頼や取材依頼が殺到し、間違いなく君の女装姿《池川金魚》は《人気タレント》となり《時の人》になる…と。

何度も言うが君の女装姿は、本当に奇跡なんだと。

そして冴嶋プロダクションには巨額の利益収入が見込める。それは巡り巡って、僕への《多額のご褒美給与》へと繋がる…と。
そうなるには…それを望むなら《今》しかないんだ…って…。


『…その給与で、岡本くんを少しでも支えてあげたらどうかな?岩塚くん』

『…。』


そして未だに、はっきりと返答できない僕に、更に追い討つように大槻専務取締役は言った。


『岩塚くん。君は岡本詩織くんを早く《有名女優》にしたいとは思わないか?』

『…えっ』


そりゃ…思います。
僕は心から、本当に詩織のことを応援してるんだから。


『君の芸能界デビューと併せて、岡本詩織くんが君のパートナー…君と岡本くんはいつも一緒。切っても切れないコンビなんだと、同時発表すればいい』

『!』

『そうすれば君が有名になることにあやかって、女優デビューを目指している岡本くんも有名になるだろう。もしかしたら早いうちに、ドラマや映画出演のオファーも舞い込む可能性も考えられる…岡本くんの存在も、世間からの注目や今話題の一人となるんだ』


詩織の…女優デビュー…。


『…信吾。私のことは心配してくれなくてもいいから。ちゃんと自分で判断して、どうするか考えて』


詩織も僕に気を遣って、そう言ってくれた。

…けど、僕は…うん。


『僕が女装タレントとしてデビューすれば…詩織の女優への道は、本当に拓いていけますか…?』

『そう私たちは考えている。少なくとも、今よりは女優デビューは早く目指せることだろう』

『信吾…本当にいいの?大丈夫?』


心配そうに僕を見る詩織と、僕は視線を交わした。

ちょっと考えさせてください…そう言うことも脳裏で考えていたのに…僕は…。


『…わかりました。冴嶋社長と大槻専務取締役が、そう考えているのなら…』


…近いうちに女装タレントデビューする?ことを、僕は改めて決心し約束してしまった…。


『ありがとう。岩塚くん。君は必ず、我が芸能事務所を代表するタレントの一人になることだろう』


大槻専務取締役は、立ち上がって僕に手を差し伸べてくれた。
僕も立ち上がり、大槻専務取締役の手を取って、固く握手した。



…これでいいんだ。
確かに、女装姿を全国に晒すのは恥ずかしい…そう思った時期もあった。
けど今は…もうそういう考え方には慣れた。別に恥ずかしくはないかもと。

それに…大槻専務取締役の言うとおりだ。
僕が芸能界デビューして、本当に有名に成れたら、たくさんお金が貰えるかもしれない。
それを、詩織と分け合って、詩織を経済面からも支えてあげられる。

そして…詩織の女優デビューについても…。



《冴嶋社長!》

ん?どこからか女性社員の声?放送?
この社長室のどこかに、スピーカーなんて付いてたっけ?

《また芸能関係記者の方々が、たくさん来所してます!》

その声を聞くと、冴嶋社長は急いで備え付けられた電話の受話器を手に取った。


『取材記者は全員追い返して。それと私はそろそろ出掛けるから』


冴嶋社長は受話器を戻すと、僕らに言った。


『取材記者が帰ったら、あなた達は今日は帰宅していいわ。これからのことは、また改めて話し合って決めましょう』






…あれから約1週間後。
そろそろ冴嶋プロダクションに芸能記者が来なくなって、僕も詩織もようやくまた事務所へ行けることになった。

その間に、大槻専務取締役から来た連絡は…4月の9日、火曜日。午後1時から《女装タレント、岩塚信吾の記者会見》を、都内某所のホテルで行うんだとか。

それについても、各出版社やテレビ局に冴嶋プロダクションから発表済みだとか…。

ひぇ…今からもう緊張してる…。


更にこの1週間のうちにアイドルグループ《ピプレ》のリーダー、浅倉海音さんからも連絡があった。

》って。
《去年末のライブステージで出会った早坂美雪さんのこと》って。

そして早坂さんが《来年の春にラジオ出演に呼ばれてるの。そうね…あなた達を呼んでいいか訊いてみるわ》って言ってくれたこと。
更に、本当にこの春にピプレのメンバーと詩織が、ラジオに出演することが決定したこと…!

そのラジオ出演の収録も、もうすぐらしい。

あ…。
あと、久しぶりにYOSHIKAさんからも電話があった。

YOSHIKAさんって、永野公貴くんのお姉さんのことなんだけど。
《今あっちこっちで凄い話題と注目されてる!信吾くんの女装のこと!本当に大丈夫なの!?》って。
そして、また近々一緒に夜ご飯でも行こうって。

それと…事務所で木橋みかなちゃんとも、久しぶりに出会った。
あと…鈴ちゃんとか…それと…。




































しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き

星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】 煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。 宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。 令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。 見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー

ジャン・幸田
キャラ文芸
 いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?  徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...