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G.F. - 大逆転編 -

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【岡本詩織】


…はーぁ。
私、緊張してます…。

初めてのドラマ撮影現場…初めてのドラマ出演です…。
エキストラですけど。


『詩織、頑張って』
『詩織ちゃんの演技力で、あの監督に見返してやりましょう!』


信吾も夕紀ちゃんも、そう言ってくれたんだけど…やっぱり緊張しちゃう…。


『…で、ユッカちゃんがここのセリフを言う時に、カメラはこっちからこう!舐めるようにね…こっちから、こーう!』


監督さんが、高校生ぐらいだろう女の子の女優と、もう少し歳上の若い俳優さん、それにカメラ担当さんも交えて演技の確認?指導?をしているところを、私はじーっと観ていました。

凄いなぁ…本当にドラマ撮影の現場だぁ、って感じで…もうドキドキです。


『エキストラの皆さんは、こちらにお集まり下さーい』


ADさんだろう男性の方に呼ばれ、私は一人そちらに向かいました。

集まったエキストラさん…いっぱい。
中学生くらいの2人子連れのご夫婦や若い男女のカップル、普段着の女子高生だろう女の子たちや男の子たち、おじさん達…それはそれは、本当にいっぱい。


『…いつもの説明と同じですが、あまり目立つ派手な動きは控えてください。普段どおりの感じで。それと…』


初めてなので、ADさんのお話に聞き入っていました。そしたら…。


『こんにちわ』


えっ?
振り返ると…綺麗な女性。
年齢は、私のお母さんと変わらない?ぐらいに見えます。


『こ、こんにちわ…』

『ねぇ、私とエキストラしない?』

『…?』

『私と母娘おやこのイメージで。一緒に歩くの…ってどうかしら?』

『…。』


私は、その女性をじーっと見ていました。
すると、その女性は私に言いました。


『あなたと一緒にエキストラしてあげてくれ、って。監督がね』

『監督が…ですか?』

『そうよ。それと私は《赤橋智恵》よ。智恵さんって気軽に呼んで』

『智恵さん…』


私は、その智恵さんが提案した《一緒に歩く》ことに同意することにしました。


『はい!一緒に歩くの…エキストラ、宜しくお願いします!』

『うん。じゃあ宜しくね』






『エキストラの皆さん、準備をお願いします。まずは撮影リハからです』


私は…本当はカメラの近くを歩きたかった。
けど智恵さんの誘いで、カメラよりずっと離れた奥から手前の方へと歩くことになりました。

リハーサルだけじゃない。撮影本番もそうでした。


『皆さん、オッケーです。休憩に入ります』


…休憩。
エキストラの皆さんが、好きなところに移動して立ったり座ったり。休んでいました。

私は、見守ってくれていた信吾や夕紀ちゃんとは少し離れて、智恵さんと2人で休んでいました。


『あなた、お名前は?』

『あ、私…岡本詩織と言います』


私が名前を伝えると、智恵さんはにこりと笑いました。


『あなたは素人さんじゃなくて、事務所所属のタレントさんなのよね』

『はい。冴嶋プロダクションという芸能事務所に』


なんで?私のことを知ってるの?
そんな思いで、それを智恵さんに訊くと…。


『もちろん、監督から聞いたのよ』


ですよね。うん。

今度は私が知りたくなりました。
智恵さんのことを。


『冴嶋プロって言えば、笠原恭一さんの息子さ』
『あの!智恵さんって』


あっ、お互いの言葉がぶつかってしまいました。


『…うん。何?』

『あ、はい。智恵さんも、何処かの芸能事務所に所属とかしてるんですか?』

『ううん。私は所属してないわ』

『そうなんですね…』


そんなことを言いながら、ちらっと信吾と夕紀ちゃんを見ました。
私を少し心配そうに見てる…ように見えました。


『私は監督の妻なの』

『ぇ、えっ!?』


慌てて、私はまた智恵さんを見ました。
智恵さんは、またにこりと笑います。


『あの監督。赤橋好実は私の夫よ』

『そうなんですか!?』

『うん。そうよ』


…そういえば、思い出しました。
公貴くんが、あの有名監督《赤橋敏夫》さんのところに、私の女優デビューについて何度か、相談に行ってくれていたことを…。
赤橋敏夫監督は、もういいご年齢で、今は監督業から離れているんだとか。


『夫は、あの有名大監督の赤橋敏夫の息子なの』

『そうなんですね…』


私は、ふと気付きました。
エキストラの何人かが、ぞろぞろと帰りはじめてる…?


『エキストラは、もう出番は終わりなんでしょうか?』

『うん。一部の人たちはね』


…一部?
私は?私たちは…?


『詩織ちゃんは私と、次の撮影場所でエキストラよ』

『次…ですか?』


次の撮影現場…というのは、この渋谷のなにある《小洒落たカフェショップ》での撮影らしいのです。


『残ったエキストラの皆さん、移動します』


智恵さんは、私の背中に優しく触れました。


『じゃあ、行きましょう』

『はい』






『詩織ちゃん!今度こそ、頑張りましょう!』


到着したカフェショップの前で、夕紀ちゃんが私にそう言ってくれました。
信吾も、私を応援するような眼差しで、私を見守ってくれています。


『あの…こちらの女性は?』


私にそう訊いた智恵さん。
あーごめんなさい。

私は《マネージャーの夕紀ちゃん》と《メイク担当の信吾》を、智恵さんに紹介しました。


『そうなのね。私は赤橋監督の妻の智恵です』






『…では、お二人は撮影が始まったら、お店に入ってきてください。そして…』


お店の外で、ADさんからそう指示されて…次はお店の中へ。


『…ここです。この席にお二人で座ってください』


お店の中の一つのテーブル席を指定されました。
ここに座って、って。

そして、私たちは一旦表へと出て…。
お店の中では、またリハーサルざ行われてて…。


「よーい…スタート!」


聞こえてきた男性スタッフさんの声。



…そうそう。
ADさんから、こんなアドバイスを頂いていました。

《母娘らしい会話をしながら店内へ。ただし、マイクに拾われないよう声は出さず、身振りの演技だけで宜しくお願いします》


声は出さず、だけど母娘らしい身振りだけので。宜しくお願いします…って。

…ここは、今度こそちょっと演技力が要るようです。
頑張らなきゃ。

私、頑張ります…。



お店に入ると…聞こえてきたあの俳優と女優の声。


『ユッカ、どういうことなんだ?』

『おっ、お兄ちゃん…』

『ほら。早く。説明してくれよ』

『うん。けど…』


目の前には撮影カメラと収音マイクのスタッフさん…ダメダメ。見ちゃ。


…でも、どんな場面の撮影なんだろう。
主演の2人の声を聞きながら、私はできるだけ自然な感じで…。

智恵さんと、ふと見合って…『あ、あったよ空いてる席!あそこに座ろう!』なんて感じに、言葉を出さず黙って…そして私が席をちょんと指差して、口を話してるように動かして…智恵さんと歩いて…その席に座りました。

この席…カメラがあそこでしょ?だから、あの角度で撮ってるから…本当に映っちゃうよぉ!私!
カメラに映っちゃってる!!

ダメダメ!意識しちゃ!


智恵さんが《メニュー、取って》の身振り。
私はメニューを取り、テーブルの上で開いて、智恵さんと覗き込みました…。






『はいカット!』


スタッフの皆さんが…俳優さん達が…モニターへと集まって確認しています…。
…どうやら撮影は一発オッケーだったようです。

私は、智恵さんと揃って一旦お店から出ました。
お店の外では、変わりなく信吾と夕紀ちゃんが待ってくれていました。


『詩織ちゃん、自然な感じで、初めてとは思えないぐらい上手だったわよ。エキストラの


智恵さんが、私を褒めてくれました。
…これで、エキストラとしての私の出番は終わり。
智恵さん。ありがとうございました。





私と夕紀ちゃんと信吾が、事務所への帰路につこうとしたときです。


『あの…!』


…?
私たちは振り向きました。

あの男性のADさんでした。


『監督からの言伝ことずてです』

『…はい』

『また今度、エキストラをお願いしたいので、その時は事務所を通じて、またご連絡します…とのことです』


…えっ?

そう一言言い残し、男性のADさんは足早に戻って行きました…。

これは、良かった…ってことでいいのかな?
わからないけど…。



































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