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G.F. - 大逆転編 -

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雫ちゃんに《相手の言ったことを否定しない。肯定する》とは言ったものの…本当は《肯定してはいけない言葉》も実はある。

それは…例えば《HoneyMaids》リーダー、藤川舞莉さんの口癖『ナメてんの?』という言葉。

これを肯定すれば『うん。あなたのことナメてるよ』ということになって、もしそんな事を言ったら、これも彼女の煽りを煽りで返すことになって、余計に面倒なことになってしまう。

だから、そこは肯定しない。
『ナメてなんかないよ』と言うか、または完全に無視…スルーするのが一番だと僕は思う。

他にも気を付けなければならない言葉は色々あるけど。
そしてこのことはもちろん、雫ちゃんにも話して教えてあげた。




…そんなこんなで、二つ目は《相手は主となる論点で敵わないと気付くと、論点をすり替え始める》ということ。

今回は《どちらが可愛いか勝負》。

もし主となる論点《可愛い》で、相手が勝てないと気付いた場合、『あなたどこ出身なの?田舎?えー。それダサいじゃーん!』とか『うちのお父さんは〇〇株式会社の社長なんだけど、あなたのお父さんは?』とか…。

《可愛い勝負》とは程遠いところで論争しようとし始める。

そんな場合はどうすればいいか?
それは元々である《主となる論点》に、論争の軸を戻すこと。

『あの…この勝負って何の勝負だったっけ?』『《どっちが可愛いか勝負》じゃなかった?』『だとしたら、どこ出身とかお父さんの事とか、関係ないないよね…?』そう言って、論点を修正する。

主となる論点から絶対に逃さない…。




…なんて話をしていたら《ピプレ》のメンバーがステージパフォーマンスの出番を終えて、控え室へと戻ってきた。


『はーぁ。ただいまぁ!』
『頑張ってきました!私たちの出番』


優羽ちゃんと千景ちゃんが、まず控え室に入ってきて、二人揃ってパイプ椅子にちょこんと座った。


『おかえりー。お疲れ様』
『優羽ちゃん、千景ちゃん。お疲れ様です!』


僕と雫ちゃんはそう言って、帰ってきた二人を迎えた。

それともちろん、グループマネージャーの牧野さんや池田さん、夕紀さんも同じように迎えてた。


二人に続いて明日佳ちゃんと心夏ちゃん…次に詩織…最後に海音さん…と言う順番で、メンバー全員が控え室へと戻ってきて揃った。

そして僕ら全員が壁に備え付けられたモニターに目をやると…次の出番だった《Cue&Real》が、ステージパフォーマンスを始めたばかりだった。

《Cue&Real》のメンバーたちの衣装は、紺色と白のマーチングガールズバンドの衣装で揃っていた。

ステージの袖で《Cue&Real》のメンバーらと入れ替わるとき、お互いに見合い牽制し合ってたと話してくれた海音さん。


『さぁ…遂にだね!』


海音さんがモニターをじっと見たまま、振り返らずそう言った。
そして他のメンバーも全員、黙って小さく頷いた。

彼女ら…《Cue&Real》のステージパフォーマンスが終わったら、すぐにこの控え室で《どちらが可愛いか勝負》が始まる。


『最後に、《可愛いか勝負》の手順を確認しとこう!』


海音さんの提案に従い、勝負の手順を全員で再確認。




…勝負の一番手は、雫ちゃん。
まず雫ちゃん一人で、相手の出方を見させてもらう。


『わ…私、一番手頑張ります!』

『うん。お願いね。頑張って』

『はい!お姉さま!』



『頼んだよ雫ちゃん!やっちゃって!』

『海音さん、私精一杯やってみます!』


…相手の出方を見させてもらってるとき、必ず相手側は『あなたが…幻のメンバー?』と訊いてくるだろうから、でも『そうです』でも『違います』でもなく、何とか言って上手にかわす。

僕は雫ちゃんと相手側の言い争いの戦況を見てて、そろそろ金魚の出番?…と感じたら、マスクを取り眼鏡も外し、正体を表し参戦する。

相手も初めから2人出すと言ってきてるんだ。
こちらも途中参戦で、1人から2人になっても文句は言えないはず。

金魚が参戦するそのタイミングは、僕と詩織とのアイコンタクトで確認し合おうと、話し合って決めた。


『…ってところで見て。《Cue&Real》の子たちのパフォーマンスが終わったみたいだよ…!』


遂に…彼女らが本当に来る!

でも彼女らはいつ現れるのか。
僕ら全員、それぞれの緊張感が高まる…。

開けっ放しにしていた控え室の扉。
廊下の方が少し騒がしくなってきたのが、響く多くの声などで確認できる。

部外者のアイドルや、その関係者らが物見に集まり始めたみたい。



もう誰もが解ってる。

ステージ上に登場したアイドルたちが、それぞれのパフォーマンスで競い合う《バレンタインフェス》のその裏で、またもう一つの競い合いが始まることを。


『あなた達…負ける準備はできたんでしょうね…?』


…!!

廊下の見物人…部外のアイドルらを掻き分けて、片山さんと藤川さん、それに荒井さんの3人が控え室に現れた。


『勝手に控え室に入るけど、勝負するんだからいいよね?』

『…それで、そちらの伊方つぐみちゃんと西尾美優貴ちゃんは、連れてきてるんでしょうね?』


海音さんがそう言うと、二人は互いを力強い視線で睨み合った。


『はぁ?なに言ってんの。当然でしょ?でも、あなた達の《幻の7人目のメンバー》とやらを、先に見せなさいよ』


そう言った片山さんだったけど…片山さんの視線はそれより先に雫ちゃんを見付けて、じっと見ていた。


『本当に可愛いの…?うふふ』
『うちらの方と、勝負にもならなかったりして。あっははは』


…僕らを嘲笑して見せる、藤川さんと荒井さん。

そして片山さんは、雫ちゃんを指差した。


『ねぇ、あなたでしょ?幻の7番目の子って』

『私じゃありません。だけど、これから現れる2人が私より可愛いと認められなかったら、本当の《幻の7番目の子》とは勝負させられません…!』


雫ちゃんはそう言って、詩織たちより1歩前に出た。


『はぁ??』


腕を組み、雫ちゃんを睨み付ける藤川さん。

…驚いた。たぶん僕らが一番。

ほんのつい先ほど、僕ら《『そうです』でも『違います』でもなく、何とか言って上手に躱す》と、話し合って決めてたばかりだったから…。

でも、今は全て雫ちゃんに任せたんだ。
彼女の出方を僕らは信じる。

それでも、何か不利な場面におちいったら…その時はもう隠れず、僕は躊躇なく雫ちゃんの救援に出ていくから!

頑張って!雫ちゃん!


『あなた…うちらのこと、ナメてんじゃない?』


雫ちゃんは藤川さんにそう言われ一瞬、藤川さんと視線を交わすことを避けながら、首を小さく左右に振った。

『…いいえ。《幻の子》は私なんかよりも、ずっとずっと可愛いです。だから本当にその《幻の子》と勝負できるだけの資格があるのか、私が見させてもらっているだけです…』

『はぁ?勝負できる資格ぅ?…うちの一番可愛い二人を、あなたが品定めするってこと…?』


…それに対しては、雫ちゃんは何も答えなかった。


『あなた…確かに見た目はまぁまぁ可愛いみたいだけど…ナメ過ぎだよね?それ。うちの《つぐみ》と《美優貴》のこと』

『ナメてなんかいません。私は…』


藤川さんは、更に強く雫ちゃんを睨む…。


『ってか知らないの?見たことないの?一度くらいあるでしょ?あの《伊方つぐみ》と《西尾美優貴》だっての!』

『ごめんなさい。私、あまりアイドルに興味とか無くて…』

『はーぁ!?本当ナメてんの!?そういうのを《ナメてる!》っていうっての!!どんだけ、うちらをナメて掛かってくんのって!!いい加減にし…』

『舞莉ちゃん。ねぇ待って』


片山さんが藤川さんの頭を優しくポンポンと叩いて、藤川さんの《言葉の暴走》を止めた。


『ねぇ。ちょっと私にお任せして、話しさせてくれない?』

『ぁ…うん』


この片山さんは…?
藤川さんや荒井さんより落ち着いてる。

冷静さが全然、二人と違う…!!


















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