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G.F. - 大逆転編 -

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そのグループ名のとおり、可愛らしいメイド服の衣装で、1番目のステージパフォーマンスを終えた《HoneyMaids》。

彼女らがステージの袖へと消えていくと、今度は《アイアンドアール・レコード株式会社》に所属する、8人で構成されたアイドルグループ【恋娘♪涼香小町こいむすめ♪すずかこまち】が入れ替わるようにステージ上に登場。

そうやって次々とアイドルグループがステージに現れ、またパフォーマンスを終えて入れ替わっていき…遂に出演5組目の《Peace prayer》の登場順が近づいてきた。

壁面に備え付けられたモニターを全員で観ながら、登場するアイドルグループたちについて、あれやこれやと論評し合っていた僕ら。


『失礼しまーす。Peace prayerの皆さん、ステージ出演の準備をお願いしまーす』


全員の視線はモニターから離れて振り返り、呼び出しに来た女性スタッフさんへと注がれた。


『よし!行こう!みんな!』

『はい!元気と明るさ、笑顔は忘れずに』
『あの子たちに必ず勝つために…』
『…皆さん、集中して行きましょう』
『あー…でも私ちょっと緊張もするぅ…』
『私も。だけど今は落ち着けてる!頑張れそう!』

『みんな、金魚ぼくはここで応援してるから。頑張ってきて』

『私もモニターをしっかり観て応援してまーす!』


女性スタッフさんに先導され、《ピプレ》のメンバーは最後に僕らに手を振って、残った僕らも手を振り返して…詩織たちは控え室を出ていった。

壁の大きなモニターは、まだ4番目のアイドルグループがステージパフォーマンスをし続けている様子を映していた。

頑張れ。
《Peace prayer》のみんな。


『…はぁ…。金魚さま…』

『うん。どうしたの?』


雫ちゃんが急に…緊張のせいか、さっきまでのリラックスした表情とは打って変わって…やや重苦しい表情を僕に見せた。


『詩織お姉さまたちのステージ出演が終わって、その次のグループの出演も終わったら…いよいよ私たちの闘い《どちらが可愛いか勝負》が始まるんですよね…』

『そうだね…』


未だ緊張しているのか、ニコリと笑えない表情のままの雫ちゃん…。


『あの…金魚さま』


…うん。

逆に僕のほうがにこりと笑って、何も言わず雫ちゃんを見て小さく頷いた。

すると、そのおかげか…雫ちゃんもほんの少し、微笑んで見せてくれた。


『金魚さまが詩織お姉さまと、瀬ヶ池や藤浦市内で大活躍されてた去年ですが…』

『…うん』


大活躍…だったのかな。

そのことは…まぁ、今はとりあえず置いておこう…。


『…やっぱり、金魚さまや詩織お姉さまに、意地悪を言ってくる女の子たちは居たんじゃないかと、私は思うんです…』

『ぁ…うん』


ちょっと…去年のことを思い出してみる…。

詩織の《G.F.》の写真撮影のときの、ビルの廊下で並んで座ってた、あの女の子らと樋口絵里佳とか…もちろん、忘れられない、あの…鈴ちゃんの実妹の丹波彩乃とか…。

詩織が《G.F.デビューもしていない専属モデル!そんなの卑怯者!》と言われてたときとか…。

あと、女の子じゃないけど…金魚ぼくや詩織をナンパしてきたイケメンたちとか…あとは…?


『…それで』

『えっ、あ…はい』


僕は去年の長い回想から、急に我に返り…驚き慌てるように雫ちゃんを見た…一瞬ごめん。


『去年のそんなとき…金魚さまや詩織お姉さまは、どうやってそんな場面を切り抜けてきたのかなぁ…って』


…どうやって…って?

僕をじっと見てた雫ちゃんは僕の表情から…何かを感じ取ってくれたのかもしれない。

雫ちゃんは『じゃあ別の言い方をしますね』と、質問を言い直してくれた。


『つまり…相手に対してに、何か作戦や勝つための法則があったりとか…目配りや動き、言葉やその発言に、何か気を付けていたことがあったとか…』


『…そういうのがあれば、聞いてみたいんです』そう雫ちゃんは言って…僕は何と言って返せばいいのか、黙って少し考えていた…。


『何だい何だい?…何か僕の興味をそそられるような、面白い話をしているね?悪いけど、僕もちょっと聞いててもいいかい?』


池田さんにも僕らの会話が聞こえていたらしく、僕らの方へと来て、腕を組んで僕や雫ちゃんの顔をチラチラと見た。


『…うん。作戦や法則…とはまた違うかもなんだけど…』

『はい!ぜひ聞かせてください!』


目を輝かせて、僕を見る雫ちゃん。


『…でも、対決までに10分ちょっとしか時間ないけど…それでもいい?』

『だったら簡単にでもいいです!教えてください!お願いします!』


そっか…うん。
じゃあ教えてあげるね…雫ちゃん。




僕が、瀬ヶ池の女の子たちや丹波彩乃と、言い合いになった時…そう。

一つ二つ、気を付けていたことがあったんだ…。


…それは何かというと…。




一つめは《相手の言ったことを否定しない。肯定する》ということ。

例えば…もし、相手の女の子が『私は、あなたとは違って馬鹿じゃないから!』と言われたら、雫ちゃんはどう言い返す…?

今まで何度も、女の子たちの言い争いを見てきたから解る。
『私だって馬鹿じゃないわ!』とか『あなたの方が私なんかより、ずっと馬鹿でしょ!』とか…相手の言葉を否定し、言い返し合う女の子が多かった。

それじゃ駄目なんだ…って思ってる。



否定すればするほど、女の子らの煽り感情に火が着いて、相手を更に追い込もうと『いいえ!あなたが馬鹿です』『だから!あなたは馬鹿なの!』『だから言ってるでしょ!気付きなさいよ!このお馬鹿!!』『だーから!私は違うっての!』って…収支がつかないののしり合い…終わらない水の掛け合い論になってしまう。

もちろん、元々の論点も隠れて見えなくなってしまう…。



だから、否定するんじゃなくて、一旦《肯定》する。

肯定すれば、それは元々は相手が言ったことなんだから、相手は自分が言ったことを否定できない。

つまり…僕なら『あなたが私を馬鹿だというのなら、私は本当に馬鹿なのでしょう』『でも本当の馬鹿というのは自分に自信がないから、誰にでも優しくなれるもの』『だから私を《馬鹿》だと言う、とても賢いあなたには無い…優しさが私にはあります…』って言うかなぁ。



直ぐには絶対に相手を言い責めず、じっくりと場の雰囲気や戦況を読んで…逆に相手の言葉の全てを理解しそれを肯定し、全て受け止め…それを上手く相手へと受け流して返せば、そのうち相手はもう何も言えなくなる。

全て肯定してしまっていれば、もう相手は言い責めるポイントを見失っている状態だから。

もう相手が言い責めるポイントを、何一つ見失ってしまっているなら、もう僕らが勝ったようなもの。

あとは今度は僕らの番。逆転のチャンスを与えず早々と一気に確実に畳み掛ける…。






『…ますは一つめ。こんな感じなんだけど…解ったかな…?』

『へぇー。凄いねぇ!なるほど…』


あの…。
今のは腕を組んで聞いていた池田さんに、訊いたわけじゃありません。



そして雫ちゃんは、ニコッと僕に笑いながら…。


『てゆうかぁ…私、一つ解ったことがあります…』

『うん。何かなぁ!』


僕は、期待して雫ちゃんの次の一言を待った。


『えぇと、その…あの子たちと言い合いになったら、金魚さまにお任せしま…』

『それは駄目でしょ。雫ちゃんがまず先に、あの子たちと相手する作戦になってるんだから』


僕がそう言うと、急に涙目…の演技?を僕に見せた雫ちゃん。


『だって!私苦手なんだもん!口喧嘩対決とかってー!オシャレや可愛さには自信があるんですけど!』


うん。でも作戦どおりに…ね。
そのために今、その説明を…。


『それに!金魚さまの方が口喧嘩強そう!私なら金魚さまに、絶ぇっっ対に負ける!自信あるもん!』


…二つめを教える前に…もう初戦否定から入られちゃった…。

絶対に負ける自信…って…?
















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