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G.F. - 大逆転編 -

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僕は、ふとそれを思い出したように、見上げてダイニングの壁掛け時計を見た。

午前9時をちょっと過ぎてる。
正確には、午前9時2分くらい。

確か…僕らが堀内芸能事務所へ行く予定時刻は…午前10時だったはず。


『詩織…時間大丈夫?』

『えっ、時間…?』

『だって、堀内芸能事務所に着く予定時間…』


詩織も壁掛け時計を見た…そして、慌てるように一言。


『そうよね。10時だもんね…っていうか、もう池田さんが迎えに来てくれる時間じゃない!』


詩織がそう言ってバタバタと、バッグを手に取って急いで出掛ける準備をし始めた頃…。


《~♪》


…リビングの低いテーブルに置いたままの、詩織のiPhoneの着信音が鳴った。
詩織は向こうのリビングへと駆け出し…iPhoneを手に取って電話に応対したみたい。


「もしもし…あ、池田さん?はい…あとだいたい5分くらい?…着くんですよね?はい…今、準備してます…金魚も一緒です…あと…」


…あと5分くらいで、池田さんが運転する車が、このマンションに到着するらしい。


「…ちょっ、ちょっと待っててくださいね…」


詩織が、左手に持った自分のiPhoneを左耳に当てたまま、ダイニングへと戻ってきた。


『雫ちゃん!』

『はっ、はい!?』

『どうする?』


詩織のその突然の質問に、戸惑う表情を見せた雫ちゃん。


『…って、どういう…』

『《ここでお留守番してる?》か、《私たちに付いてくる?》か…ってこと』


雫ちゃんは、一瞬考えたすぐに…。


『いっ、一緒に行きます!行きたいです!』

『うん。待ってて』


そう言うと、詩織は廊下にまた出た。


「池田さん…もう一人女の子、増えるんですけど…はい…あのぉ…いいですか…?」






…約20分後。
僕らは池田さんの運転する車内にいた。


池田さんは『こんな可愛い子なら増えても大歓迎!』って…。

…詩織はその発言に、ちょっと引いてた。

そんなこんなで、安全運転で急いで向かうは、都内目黒区某所の堀内芸能事務所。
詩織の住む葛飾区のマンションからだと、車で首都高速を利用して約30分で到着だとか。

つまり…あと10分くらい。



車内は…助手席に僕。後部座席に詩織と雫ちゃん。

その後部座席では、詩織が雫ちゃんに今日の《バレンタインフェスの裏の、金魚とどっちが可愛いか勝負》の詳細を説明している。

なぜ勝負をすることになったのか?
その経緯も含めて。


『…ってことなの』

『お姉さま。私、ようやく理解できました!』


池田さんも運転しながら、後部座席での二人の会話を気にしているみたい。
ルームミラーを時折覗き込んでいる。


『そういうことなら、私にも考えがあります!』


ん?なに?

…考え…?


『えぇと…雫ちゃん、だっけ?』

『あ、はい』

『君は…この春から東京に来るのかい?』


池田さんは、ある程度安全運転を意識しながら、タイミングを見計らって雫ちゃんに話し掛けた。


『はい。水沢美容技術専も…』

『今年、高校卒業で、18歳だよね』

『…ん学こ…えっ?あ…そうです…けど…』

『芸能界には興味ない?』

『…えっ?興味…』

『少しはあるんじゃない?芸能界に興味』

『けど私、春から…』


…さすが。
芸能事務所の人事部社員の池田さん。
いつもすぐ可愛い子を見ると、まず何よりも先に《芸能界に興味ない?》って、お誘いしてる。

ある意味、職務熱心だとも言えるけど…?


『あっ、ごめん。その話はまたあとにしよう』

『…。』
『…。』
『…?』

『もう、堀内芸能事務所のビルの近くだから…』




…更に。

午前9時51分。
僕らは堀内芸能事務所ビル4階の、トレーニングルームに居た。

もう既に、アイドルグループ《Peace prayer》のメンバーも全員揃っていた。






では…まず、メンバーや関係者全員と今日の《バレンタインフェス》のタイムスケジュールを再確認しておこう…。

開催時間は、今日の午後2時から午後5時までの3時間。
フェスに参加してるアイドルグループは16組。

まず、フェスの先陣を切ってパフォーマンスするのは《HoneyMaids》。
そして詩織たち《ピプレ》の出番は5番目。
続いて6番目は《Cue&Real》。

そして、フェスのラストを飾るのは《T.S.S.D/Top Secret Sparkle Dolls》。

各グループのパフォーマンス時間は、だいたい8分から10分と決まっている。
歌でいう《2曲ご披露》というところ。

《Kira♠︎m所属のアイドルで一番可愛い子たちと、金魚とのどちらが可愛いか勝負》は、6番目の《Cue&Real》の出番が終わってから《ピプレ》の控え室で、すぐ始めることになっている。


『…ってことだけど…みんな、大丈夫だよ!うちらが絶対に勝つ!』


と、リーダーの海音さんがみんなに言うと…。


『ですよね!勝ちましょう!金魚さん!』
『勝てますね。女装した信吾さん、今日も凄く可愛いですから』


そう、優羽ちゃんと千景ちゃんも言ってくれた反面…。


『…本当に、そう易々と勝たせてくれるでしょうか…だって』
『競う相手のつぐみちゃんと美優貴ちゃんの2人も、凄く可愛いですから…』


とても冷静に、落ち着いてそう不安を漏らした明日佳ちゃんと心夏ちゃん。


…うん。確かに…。

今日は、トップクラスのアイドルグループが集結する《バレンタインフェス》。
彼女たちも…ステージパフォーマンスも、《可愛い勝負》も…かなり気合を入れて挑んできてるはず。

そのうえ、相手の《伊方つぐみ》ちゃんも《西尾美優貴》ちゃんも《Kira♠︎m所属のアイドルの中でも断トツに一番可愛い!》って、自信を持って宣言できるくらい、本当に可愛いんだから…。

対策企図きとのため、この前観た彼女らのライブ動画よりももっと、今日は可愛く仕上げて来てる…可能性も!


『…大丈夫よね?金魚…』


今になって少し不安そうに、僕にそう訊いてきた詩織。
僕も『大丈夫』と、言ってあげたい…ところだけど…。

今日の勝負こそ…どちらが勝つのか全く分からない…。
相手が相手だけに…。


『…待ってください…!』


…えっ?


『勝てるか分からない《可愛い勝負》なんだったら…私にもを与えてもらえませんか…!』


…ちょっ…ええっ!?

しっ、雫ちゃん?




当然ながら…ここにいる全員が、雫ちゃんを見た。


『だってそうじゃないですか!相手が2人なら、だったら金魚さまだけじゃなくて、こちらも2人で…!』

『待ってよ!だけど《無関係》なんだし《部外者》なんだから、あなたの出番は…』

『お願いします!!』


雫ちゃんは大きな目を更に大きく開いて、雫ちゃんを《無関係》《部外者》と言った海音さんを睨むように見た…!


『私は《瀬ヶ池女子》です!可愛い勝負だったら毎週末、当たり前のように何年も何年も、たくさんの可愛い瀬ヶ池女子たちと競ってきました!』

『何?その…てか、確かにあなたはとても可愛いとは思うよ。だけど…』

『普段から、可愛いで競い合ってる女の子たち。それが誇りある《瀬ヶ池女子》…』

『さっきから、セガイケジョシ?って…何なの…?』


更に海音さんを圧倒するように、雫ちゃんは強く言い放った。


『夢だった《G.F.》デビューもできたし、去年末の《G.F.アワード》にもエントリーされて、更にアワード受賞した金魚さまの次に可愛い!と認めらた…それが私、五十峯雫です!!』

『えっ?何?ジー?…アワード??』






『ねぇ、みんな…お願い。私の話を聞いて』


落ち着いた声で、詩織は海音さんに…そしてメンバーのみんなにそう言った。


『私は、賭けてもいいかも?って思うの。雫ちゃんのその提案に…』






















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