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G.F. - 大逆転編 -

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東京駅の東方面…八重洲南口から外へと出た。


『はーぁ。電車での1時間48分の長旅、疲れたーぁ…』


雫ちゃんが空へ向かって、両腕をぐいーっと…反りかえるように伸びをした。


『きゃははは。雫ちゃんお疲れさまーだね』


…ん?でっ電車…?

えっ??
本当は新幹線で来たんじゃ…なかったってこと!?

"気で走る列"の略称という意味では…新幹線も電車?であることには間違いないのかもだけど…?


『でも…あれ?えぇと、確か…』

『?』
『?』

『東京駅の目の前には、天皇さまご家族の住んでるお家があるって…ネットで調べたときに…』


詩織はまた『ふふっ♪』って小さく笑った。


『それはね、こっちの出口じゃなくて、駅のあっちの出口から…』

『ふんふん…そうなんですね』


詩織の丁寧でかつ解り易い説明に、雫ちゃんは目をキラキラさせながら…納得できたみたい。


『じゃあ…とりあえず今から、美味しい和食のお店ですよね!』

『うん。このすぐ近くにあるのよ。向こう…かな』


詩織が、そのお店ごあるだろう方向を指差した。


『そしてお食事が終わったら…遂に!大好きなお二人と私、東京を観光…』

『待って。雫ちゃん』

『…してまわ…??』


詩織は《東京観光は明日よ》ってことを、雫ちゃんに説明した。


『じゃあ…どこに行くんですか?お食事のあと…?』

『それは、あとのお楽しみねッ♪』


詩織は雫ちゃんに、優しくウィンクして見せた。


『えーっ…けど、なんだか…楽しみ♪』

『…ってことで、雫ちゃんと金魚。まずは美味しい和食屋さんへ行きますよー』






…詩織に案内された、個室のある綺麗な某和食屋さんの門前に到着。
わざわざ詩織が電話で、お店の個室の空席状況の確認をして、予約まで取ってくれた…ありがとう。

くぐった門から玄関口までの、お店のこの構え…真新しい雰囲気があるなか、内装は何だか懐かしいような、伝統あるやや古めかしい高級感みたいなものも少し感じられる…んだけど…。

…高そうな和食のお店だよ?詩織…大丈夫…?


『いらっしゃいませ』


詩織がカウンターに立つ、アルバイト従業員だろう受付の女の子に声を掛けた。


『先ほどお電話で予約した、岡本詩織です』

『えっと…あ、はい!ではご案内いたしまーす!』

『はーい。お願いします』






…案内された、とても綺麗な個室。
目の前には、旬の冬野菜各種のお料理や魚のお刺身…それに蟹の足の天ぷら…それに絶対お高そうな霜降り牛肉の数々…。

そんな料理から恐る恐る目を逸らし、ガラスのない窓に視線をやると…シシオドシのある小さな池と小さな竹林のある中庭が…なんてお上品なお雰囲気のあるお店で。


『だっ…大丈夫なんですか?詩織さん…』

『大丈夫…って?』

『だって、凄くたか…』


心配そうに雫ちゃんが詩織を見ると…詩織は《安心して》と言わんばかりに微笑んだ。


『だぁい丈夫よ。だってアンナさんから、雫ちゃんのお接待費…たーくさん預かってるんだから♪』


目の前のたくさんの高級料理を見詰める詩織のは、いつも以上にキラキラと輝いてる…ように見える。


あ…あー。なるほどー…。
アンナさんの出費だったか…。


『それじゃあ…遠慮なく頂きましょ♪』

『いただきまーす』
『…いただきます…アンナさん…』


それなら詩織だって、この機会に便乗してお財布の心配なく、こんな高級そうな料理を安心して頬張れるわけだ…。






僕ら3人、料理の一品一品を口へと運ぶ箸が進むなか…出身が同じ僕らだからこそできる雑談をしていた…。


『…で、雫ちゃんは…』

『あ、はい』

『…金魚の、本当のこと…その、秘密…って、知ってる…?』


歯切れが悪そうに、雫ちゃんにそう訊く詩織。


『金魚さんの秘密…?って、アレのことじゃないんですか?実は本物の女の子じゃ…って』

『うん…やっぱり雫ちゃんも知ってるのね』

『はい』


そして、急に…10秒ほどの沈黙…。


『…でね?』

『はい』

『どうなってるのかな…?』


詩織が、今度はもっと心配そうに…雫ちゃんにまた訊いた。


『…って、言いますと…?』

『えっと…今、藤浦市内や瀬ヶ池の女の子のあいだで…金魚の、扱いというか…』

『あー』


雫ちゃんは箸を一旦箸置きに置くと、丁寧にニコリと笑った。


『詩織さん。心配ないですよ』

『…どんなふうに?』

『もう街の女の子たちのほぼ全員が、その秘密のことは知ってます。けど《金魚ちゃんは本物じゃない!》なんて言ったら、それはそれは大変なことになるんです』

『大変なこと…?』


雫ちゃんは、金魚の姿の僕も見て、もう一度笑ってくれた。


『《池川金魚さん》はもう、あの街では市民権を得ているんです』

『市民権?そうなの?』

『はい。藤浦市では《金魚ちゃんは本物の女の子》《私たち、瀬ヶ池女子の憧れの存在》って認識されていて、誰もが全て知ってるうえで《女装だぁ!》とか《男の子よ!》なんて言っちゃった子がいたら、そんな子はあの街から追い出されちゃうんです』


追い出される…それは、去年僕らが言ってた《この街から排除!》と同じ意味なんだろう…たぶん。そう思う。

僕らがあの街にいたあの頃は《お洒落じゃない子は排除!》だったけど、今は《金魚を悪く言ったら排除!》かぁ…凄いな。

変わったなぁ…瀬ヶ池も。
それはつまり、少しは平和になったってことかな。

それに凄く助かる。
もう僕は何の気掛かりも後ろめたさもなく、金魚の姿で堂々と歩けるんだ…って思うと。


『金魚さんも詩織さんも、あの街では最高の嬢傑ヒロインなんです。私たち…瀬ヶ池女子のみんなの』


ヒロイン…。

詩織も僕も無意識に、お互いを見合ってた。
詩織は少し泣きそうな表情をしてる…ように見えた。

あのときの僕らの小さな努力は、決して間違ってなんかなかったんだ…って、ずっと続けてて良かった!…って、今更になってようやく実感できた…。

今度…というか来週、藤浦に戻ったら…秋良さんや啓介さん、歩美さんたちに言わなきゃ。

改めて《あの日の僕たちをずっと支えてくれてて…ありがとう》って…。


『あっ!私、大好きなの!…忘れてました!』


もう1人と…もう1つ??
なんか変な言い回し…?


『うん。それは…なぁに?』


何度も見る…見せてくれる、雫ちゃんの満面の笑顔。

雫ちゃんは少し下を向いて目を閉じ…胸元で両手を握り合わせて…小さく一呼吸した…。


『はい。それは…《伊藤鈴ちゃん》と…私が今凄く憧れてる…《アンナファミリー》です…本当に大好き…』


鈴ちゃんと…アンナファミリー…。

詩織が、また僕を見た。


『無理よぉ…もぉ無理ぃ…泣いていい?ねぇ…涙が出ちゃいそう…』


うん。けど詩織…今は泣くのは我慢しよう。
その気持ち、僕だって凄く解るけど。






『あの…私!凄いことに気づいちゃいました!』


食事を終えて、詩織が食事代を全部払ってくれて…僕らはお店を出たところ。


『うんうん。何かなぁ。雫ちゃん、言ってみて』


僕らは地下鉄に乗るために、また東京駅へと戻るように歩き向かっている。


おりさん、んごさん、ずくー!』

『きゃははは。みんな《し》が頭に付いてるってことね?』

『そうです。偶然?凄くないですか!?』

『うん。凄い偶然ね!』


ぁ…頭に《し》…。
聞き方によっては…不吉としか…。


『3人の《し》が合わさって…《しあわせー》』

『あら本当ね!なんだかこの先…私たちに幸せなことがありそうじゃない?』

『ですよねー♪』


うっ…!
僕…不吉なんて言って…ごめんなさい!!

頭の中で思った…だけ、だけど…。


『じゃあ詩織さん、このあとはどこへ行くんですか…?』

『ふふっ♪じゃあ《お楽しみ》の一ヶ所目…行っちゃう?』

『はいっ!行きまーす!』




















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