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G.F. - 夢追娘編 -

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【岡本詩織】


一瞬…意識が遠く飛んでいきそうな感覚になりました…。

そっかぁ…私、色々分かっちゃった…。
控え室の中での会話を、こそっと聞くのをもう止めようかなぁ…なんて思いかけて、でもやっぱり最後まで聞いてみなきゃって思って…。

そんなふうに、考えがごちゃごちゃに混ざって…私は動けずにいました…。



…!?



『お?あははは。ほら、見てみろよ』

『ん?…女の子が壁に耳付けて盗み聞きしてる?…てか誰?』


…誰?は私の台詞せりふです!

突然聞こえてきた異なった二つの声から、2人の男性のようですが…?

事務員さん?の男性の…誰か…?


『あれ詩織ちゃんじゃん。今朝ロビーで見掛けただろ?』

『あー、そうだったか。詩織ちゃんか』


私は壁に左肩を突いて顔は右を向いて、壁にもたれかかるようにそっと左耳を壁にくっ付けていました。

彼らは私の左側にいるようなので…右を向いている私は、その2人を直接見ることができませんでした…。


『控え室に誰が入ってたっけ?』

『さぁ…?』


…ってか、私の邪魔しないで!
私の意識がそっちの会話に向いちゃうじゃない!

黙ってそっと、何処かへ行って!お願い!
私今、一言だって聞き漏らさないように、中の3人の会話を集中して聞いてるんだから!!


『つうか…詩織ちゃんのスリムな体、ヤバくないか?スタイル超エグっ…!』

『確かに。綺麗なのな。腰のくびれも綺麗だし、脚の太腿ふともももスッとしてて細いし…』


ちょっ…どこ見てるんですか!そんなところ見ないで!!
こんな事になるんだったら、慌てずにコート着て来るんだった!!


『詩織ちゃん、やっぱり体重は50kg切ってんのかな?』

『いやいや、まさか。確かに細身だけど、さすがに50kgはあるだろう』


んまっ!なんて失礼な!
50kgなんてありません!私の体重は46.1kgです!

しかも!昨夜、お風呂から上がったあとに測った体重です!


『てか、あんまりちゃんと見たことなかったけど…詩織ちゃんって、まぁまぁ胸あるんだな』

『確かに。あるなぁ』


…なッ!?

いやらしいッ!!
エッチー!!
ほんと失礼にも程がありますよ!!!
一つ間違えるとセクハラですよ!!

さすがにこれは、ちょっとイラっときて…思い切って振り向いて思いっきり睨んじゃおか!…とも思ったんですけど、余計に恥ずかしくなっちゃって…この場は我慢して、やり過ごそうと思っちゃいました…。


『というか詩織ちゃん、全然こっち振り向かないなぁ』

『にしても…こんな超可愛い子と一度でいいから、デートしてみたいよなぁ…』


そして、この2人のおかげなのか…あふれ出る私の涙はいつの間にか、もう止まっていました。


『だな…夢のまた夢ってやつだな』

『現役のアイドルだもんな…』


…?
はぁ…。

やっと不埒ふらちなお2人は、何処かへと離れて行ってくれたみたいです…じゃないってば!!

中の様子はどうなってるの!?
改めてちゃんと集中して聞いてみないと…!

もう一度意識…集中集中…。






…?

一瞬、控え室の中の会話は終わった?聞こえないんだけど…と思ったんですが…!


「公貴くん、僕…2つ疑問が頭に浮かんだんだけど…」

「疑問?って何だ?言ってみろよ」


…ふむふむ。
2つの疑問…?


「まず1つ目は…いつも演技の練習してるとき、たまに詩織が《じゃあそんなに文句言うのなら、どう演技すれば良いのか教えてよ!》って…それで公貴くんが《はぁ?教えてあげねぇよ》って、詩織と口喧嘩になっちゃってるけど…なぜ?何で詩織に何も教えてあげないの?」


…そう!それよそれ!私もずっと疑問に思ってた!
金魚!私に代わって良いこと訊いてくれたわね!

サンキューよ!


「…そうだな。俺ん家…永野家には、代々伝わる家訓があるんだ…」


かくん…?


「《芝居は師友に頼り、問い、乞うべからず。自ら惑い、案じ、気付き、学び、演ずべし》」


今のが、公貴くんの家に代々伝わる家訓?…で、つまり…?


「今の家訓を、簡単に解り易く言うと…《"役作り"は人から教わんな。自分で迷って、自分で考えて、自分で気付け!》ってことだ」


役作りは…人から教わってはダメ…。
全部自分で考えて…自身で何とか解決しなさい…。

役作り…。


「俺は親父からこの言葉を聞いた。けどその前に、俺は幼い頃に祖父からも、この言葉を聞かされてたんだ…」


役作り…って、知りたい…。
演技よりも大事だっていう…役作りというものを…。

私…それに気付きたい…!


「じゃあ…もし、人から役作りを教わったら、どうなるの?」


金魚…!
さっきに続いてナイスよ!良い質問だわ!


「そうだな…。演技については他人ひとに…つうか、監督や役者仲間やその他の色んな人に、訊くことだってあるだろう…」


…うん。そうね。


「けど、役作りについては…これも稀に他人から教わることもあるかもしれないけど、それが癖になると…」


…に、なると…?


「《自分の特色》《自分らしい演技》《個性的な役作り》を失ってしまうんだ。まぁ…今は《その危険性》としておくけど」


はっ!待って…!

つまり…そういうことなの!?



私が、自分で役作りを悩んで…苦労して、考えて演じないと…《私らしい演技じゃなくなる》…!
つまり…《教えた人の演技》を、ただ真似てるだけ…。

私が公貴くんから全部教わっていたら…私はただの《公貴くんの特色を真似るだけの、個性も特色もないコピー女優》になっちゃってた…ってこと?



公貴くんは、私の演技の特色を…演技の個性を生かし残せるように…決して消さないように…。
私らしい、私だけが演じれる、私が私の特色を持った女優になれるために…わざと教えなかったんだ…!

そこまで考えて…公貴くんは《そこ直せよ》《違うだろ》《もっと違う演技でやってみろ》って…ヒントだけくれるだけで、全部は教えないでいてくれてたんだ…。

私の将来のために…私らしい個性ある女優に成長させてくれるために…。
ただ、心の奥底で…努力しろよ詩織、苦しいだろうけど頑張れ…って、思ってくれながら…?



やめてよぉ…公貴くん…。
せっかく涙が止まったのに…また出てきちゃいそう…。


「信吾くん、浅見さんを見て一番解り易い見本って思わない?浅見さんも若い頃は、役作りに凄く苦労された人だから」

「あ…はい。僕もドラマで演じる浅見さんのあの個性的な演技、凄く優しさとかが伝わってきて、とても好きです」

「だよな。浅見さんには、浅見さんにしかできない演技力ってのがあるからな」


…うん。ありがとう。
公貴くん…陽凪さん…あと金魚。

私、解っちゃった。
役作りって…自分の個性や特色を出せる演技って…そういうことなんだね…。


「それとさぁ…《代々伝わる家訓を破って、役作りを一から全て教えてしまったが為に、俳優育成に大失敗した例》ってのが実在するんだ…」


…?

大失敗した例…?


「公貴くん。それって…のことよね…?」


お兄ちゃん…!?


「あぁ。あんまり俺の口から紹介したくはないが、俺の実兄…笠原誠人こと《永野誠人》のことだ…」


















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