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G.F. - 夢追娘編 -

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【岡本詩織】


鈴ちゃんと夕紀ちゃんから《公貴くんは、金魚と控え室に居る》ことを聞いて、私は立ち上がりました。


『私、ちょっと控え室、見てきます!』


…って言ったのに、陽凪さんも立ち上がりました。


『詩織ちゃんは…鈴ちゃん達とここでお話ししてて。私がちょっと様子を見に行ってくるから』

『えっ…陽凪さん!』


陽凪さんは、私や鈴ちゃん達にニコッと笑顔を見せると、そのままトレーニングルームを出て行こうとしていました。


『待って陽凪さん!、もう少し詳しく教えてもらえないですか!』

『うん…公貴くんのことよね。それはまた今度ね…』


陽凪さんはもう一度私たちを見て、そのままトレーニングルームを出て行っちゃいました…。


『何か心配なことがあるの?詩織ちゃん』


いつもの優しくて綺麗な声で、鈴ちゃんは私にそう訊いてくれました。

私は、何か一言言って返事したかったんですけど…言えないまま、ただウンと小さく頷きました。


『大丈夫だと思うよ。だって陽凪ちゃんが行ってくれたんだから。安心して』


だから…ちょっと心配なの。鈴ちゃん…。

私が行ってあげたかった…。
陽凪さんが上手にやってくれるかどうか…凄く心配。






鈴ちゃんと夕紀ちゃんと私は…『バレンタインデー、もうすぐだね』『チョコ誰にあげるの?予定ある?』『どこで買う?』『今年の流行りのチョコレートってどんなかなぁ?』なんてお喋りから…。

『春華ちゃん本人から聞いたの。赤ちゃんができたんだぁって』『凄いね。私と春華ちゃんって同い歳なんだけど…』『…でも私なんか、まだそんな素敵な相手さえ…』って、そんなお喋りもして…。

そして『バレンタインフェスのことも聞いたよ』『金魚ちゃん、《Kira♠︎m》の、つぐみちゃんや美優貴ちゃんと《どっちが可愛い勝負》するんだよね』『大丈夫。私は金魚ちゃんが勝つって信じてる。絶対勝てるよ』なんて話もしました。



そして鈴ちゃんが『詩織ちゃん、春華ちゃんに会いに藤浦に戻るんだよね?何日?私も一緒に行きたいな』って話をしてた頃…私はもう心配に限界が来て『もう行く!控え室を見に!行く!!』って心に決めていました。


『…でも藤浦に帰るなら土曜日や日曜日じゃなくて、金曜日のほうがいいと思う。だって病院がお休み…』

『鈴ちゃん…ごめんない!』

『えっ?…なに…?』


私はまた立ち上がって、鈴ちゃんに謝ってました。


『私…やっぱり心配なの。やっぱり様子を見に行きたいの!控え室』


鈴ちゃんは、大きく頷いてくれました。


『うん。わかった。行ってきて詩織ちゃん』

『ごめんね、鈴ちゃん!』

『私と夕紀ちゃんは、ここで待ってるから』

『うん!ありがとう…ごめんなさい!』


そして私がトレーニングルームを出ようとしたとき…。


『みんな、ここに居たんだーぁ!…えっ?』


木橋みかなちゃんも、このトレーニングルームに何故か突然来てくれたんです…。

けど…。


『みかなちゃん、ちょっと…ごめんね!ここで待っててー!』


私は、そのままトレーニングルームを飛び出しました。

とにかく、早く急がなきゃ…控え室に!!






私は、エレベーターのボタンを押し、待ちました。

エレベーターは1階に停まっていました…もぅ早く来てー!!



待ってた…やっと来たぁ。
エレベーターが4階に停まりました。

1人で飛び乗り、2階のボタンをぽちっ。



《2階です。ドアが開きます》

降りたらすぐ、斜め向こうの奥に控え室の入り口の扉が見えます…えっ?
なに…してるの?廊下で…公貴くん?

私は廊下に置いてある自販機の陰に隠れて、その様子をじーっと見ていました。

目を閉じ、控え室の入り口横に背中でもたれ掛かるように…黙って立っている公貴くん。


『缶コーヒー…?』


公貴くんの組んだ腕の右手に、何故か缶コーヒーが握られているのが見えました。

控え室の中に居るんじゃなかったの?公貴くん。
陽凪さんは?…あと金魚は?
一緒に控え室の中?

えっ、今どういう状況?
控え室から廊下へと僅かに漏れている、金魚と陽凪さん2人の会話を…公貴くん、じっと聞いてるの…?

廊下で…?


《ヴィィーン…》


あれ…?これ、モーターの音。
正常に動いてる?壊れてたはずだけど…この自販機。

そんな些細なことはいいんです。
そんなことより…。

目を開いた公貴くんが…うわぁ、ヤバーい!

こっちに歩いて来ましたー!
足音を鳴らさないよう…静かに…。

自販機のところまで来た、公貴くん。
そして、静かに一呼吸…。

私はバレちゃわないかドキドキしながら、公貴くんの横顔を隠れてそーっと見ていました…。

タンタンタンタン…わざとらしく?足音を鳴らしながら、公貴くんが控え室に向かって行きます!
そして…そのまま、控え室の扉を開けて中へ入って行きました…。

うん…じゃあ隠れてる私、どうしよう…。

じゃあ…。
私もそろーり、そろーりと静かに控え室に近づいて、控え室の壁にそっと左の耳をピタッと付けました…。

何か、中での会話とか聞こえるかな…。

うん。聞こえる…!



「陽凪さん、あの話…してねぇよな…?」

「…えっ?」


…あの話…って?

公貴くんと陽凪さんとの会話が聞こえます。

金魚の様子は…解りません。
本当に中に居るの?金魚…?


「あーぁ。あの話は秘密にしといてくれよって、あんなにお願いしたのになーぁ…」

「だって公貴くん!誰にも知られないのに、詩織ちゃんのために、あんなに頑張ってるんだよ!そんな頑張りが報われないなんて嫌じゃない!…でしょ?」


えっ!?
どういうこと…?

私のために…?
公貴くんが?

何をあんなに頑張ってるの…?

頑張りが報われないって…どういうこと??


「報われないとか、いいんだよ。誰にも知られなくても」

「私は嫌っ!そんなの寂し過ぎるじゃない!」


大きな声でそう言った陽凪さん。

何の話をしているのか…全然よく解りません。

それが、毎日公貴くんが眠そうだった理由なの…?
で、それは何なの??私ほんとに解らないってば!


「陽凪さんって。なぁ…ちょっと待ってくれ。冷静になれって…」


それと…金魚!
ほんとに中に居るの!?

今どんな状況なの?金魚…。


「あの、教えて…どういうことか…僕にも」


あっ…!
やっと金魚の…ってか、信吾の声が聞こえたぁ!…って。

待って!
今、金魚の姿のはずだよね!?

『僕』って…ダメじゃない!
それ言っちゃ《金魚が実は信吾》だってバレちゃうってば!

『私』って言わなきゃ!
今は《金魚》なんだからぁ!!


「教えてやってもいいけど…話すなよ。詩織には…」


公貴くんのこの一言から…ちょっと沈黙。


「絶対だぞ」


私も、壁から一旦から離れて…ハァとゆっくり一呼吸して…胸を撫で下ろして、また左耳を壁にくっ付けました。

私に話しちゃいけないこと?…って…。


「さっき、《演技力》も大事だが、それ以上に《役作り》が大事だって、俺は言ったよな…?」

「うん…」


役作り?…が、大事…。

ふむふむ。それで…?


「そして、《演技力》や《役作り》と変わらないぐらい…てか、それ以上にもっと大事なのが…」


もっと大事!?
…なのが?なになに!?


「《活動実績》よね?公貴くん」


陽凪さんの声…で、活動実績…?


「まぁ。そうだけど、もう少し解り易く言えば《子役の経験と出演履歴》とか、中学高校のときの《演劇部所属活動履歴》とか…な」



















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