G.F. -ゴールドフイッシュ-

木乃伊(元 ISAM-t)

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G.F. - 夢追娘編 -

page.588

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控え室に置かれた1つの長机。そこに対角線を描くように、金魚ぼくと公貴くんは座っていた。

しばらく金魚をじっと見ていた公貴くん。
静かにゆっくりと立ち上がり、僕の目の前の席へと来てまた座った。


『さて…と。金魚…』

『は…はい』


公貴くんはまた、僕をじーっと見始めた…。


『詩織から聞いたことないか?…《演技上手になるために頑張らなきゃ!》みたいな言葉』

『あ…うん。いっぱい…』


僕も公貴くんの顔を少し遠慮がちに見ながら…小さく頷いた。
聞いたことあるどころか、詩織は2日に1度以上は必ず言ってた気がする。

まるで自分自身に言い聞かせているように。


『だよなぁ。だから詩織あいつは駄目なんだよ』


…ん。

えっ?


『演技の練習ばっかりやりやがる…』


ちょっ…ど、どういうこと?
だって毎日、上手くなりたいって頑張ってるんだよ?詩織。
それが…駄目??


『あの…ダメなの?』


色々と自分成りに《駄目な理由》を考えてみたんだけど…結局解らなかったから、公貴くんに直接訊いてしまった…。


『あー。お前には難しかったか?つうか…そうだよな。解らんよな…』

『…ごめんなさい』


公貴くんは座ったまま、両脚を組み…腕も組み…そしてウンウンと頷きながら、軽く目を瞑った。


『じゃあ…次だ。金魚は《女優への階段》なんて言葉を聞いたこと…ぐらいは、あるだろ?』

『うん。聞いたことある…』

『だよな』


公貴くんは少しややこしい説明を、少し細かくそして時間を掛けて、解り易く話してくれた。

それを簡潔に纏めると…。




《女優への階段》と言われるもの…それこそが《演技力》であって、《演技力》と《演技する》ことは、また少し違うもの…別のものらしい。

演技力を高めること…練習し身に付けることは、確かに大切なこと。
だけどその《階段》には、登り詰める限界というものがあるらしい。

《優れた演技力》では、プロとして望ましい演技はできないらしい…って?


『《演技力》を高めることは、プロの女優になるための過程の一つだと考えてくれ』


過程の一つ…?

じゃあ他にも何か…?



《女優》や《演技力》について、ずっと熱心に僕に語ってくれている公貴くん。
姉のYOSHIKAさんが言ってたとおり、公貴くんの精神年齢は実年齢よりも、ずっとずっと大人だって感じる。

本当に、僕や詩織よりも1つ歳下?
僕らなんかより、まるで歳上みたい…あっ!


『プロの女優になったらなぁ、今度は演技力よりも…って、おい』


僕は公貴くんから視線を外し、外方そっぽを向いてた…というか、今は控え室の入り口に視線が逸れていた。

だって…ほら。


『おい金魚、俺の話聞いてんのか!ってかお前!どこ余所見よそみし…』


彼も僕の視線の向く方が気になったのか、公貴くんも入り口のほうを体ごと、慌てたふうに勢いよく振り向いた。

そして、ようやく…そこに立っている2人に気付いた。


『お久しぶりだね、公貴くん。それに金魚ちゃんも』

『あ…おう。なんだよ、鈴ちゃんか』


鈴ちゃんが僕らに向かって、あの可愛らしい笑顔に添えて右手を小さく振ってくれた。

鈴ちゃんの隣には夕紀さん。
夕紀さんは詩織のマネージャーインターンシップを経験したあと時折、大学にも通いながら木橋みかなちゃん、栗山雅季さん、中原優羽ちゃんのマネージャーインターンシップを経て…今は鈴ちゃんのマネージャーインターンシップをしていた。


『大事なお話の途中、お邪魔してごめんね』

『いや…いいんだ。全然気にしなくても』


公貴くんのその一言に、鈴ちゃんは『うん、ありがとう』って、優しく微笑んでくれてた…可愛い。


『えっと…詩織ちゃんは…』

『詩織?トレーニングルームだけど』

『あー、4階ね。ありがとう』


鈴ちゃんは、また可愛らしい笑顔で手を振って、エレベーターへと向かった。
夕紀そんも鈴ちゃんに続いて、深々とお辞儀して…見えなくなった。


『なぁ…鈴ちゃんの横にいたオンナって…誰だ?』


僕は公貴くんに『あ…彼女は南野のうの夕紀さんって言って…それはあとで説明するね』と言って返した。


『あとで…か。ふぅん。まぁいいや。話の続きをするぞ』

『うん。お願いします』







《演技力》はプロの女優になるための過程の一つ…の続き。


プロの女優になったら…今度は《演技力》に加えて《役作り》の技術能力も求められる。

…らしいんだけど、じゃあ《演技力》と《役作り》の違いって…?


『お前…本当は《演技》と《役作り》の違い、解ってねぇだろ?』


本当も嘘も何も…解りません。
教えてください。公貴先生…。

公貴くんは小さく溜め息をくと…仕方なさそうにニヤリと笑った。


『《演技力》というのは、もっと解り易く言うと…喜怒哀楽とかの《感情表現力》だ』


うん…なるほど。解り易い。


『詩織の場合、《感情表現力》に関しては…』


…に、関しては…?


『あいつは十分、むしろ本物の女優らと大して違わなぐらい演技力はある。笑うのも怒るのも泣くのも、演技に不自然さは全く感じられないし、そのメリハリもしっかり出てる』


へぇ…じゃあやっぱり凄かったんだ。詩織の《演技力》って。


『ただ…あいつは何の役をやらせても、感情表現が上手いなんだよ』


はい出ました。
今言ったそれ…そこ、難しいです。
つまりどういうこと?
優しく教えてくださーい。公貴くん先生。


『つまりは、そこからが《役作り》ってやつなんだよ』


何でこんなに《演技力》について色んな知識があって、こんなに上手に説明できるの?

解らない…けど、公貴くんがやっぱり《平成最後の天才子役》と言われるだけのことはある…ってことは、素人の僕でも解る。
だって凄いもん。本当に説明を聞いてても。

まるで、何十年も役者をやってきた凄い人から教わってるみたい…。







『…だから役の感情表現のために、時には冷静さを失ったような、感情MAXな《大胆な表現力》や《恥ずかしがらない度胸》とかを求められる場面もある』

『そうなんだ…』

『うん。それが今の詩織にはまだ足りない。自分でやりたくない役柄には、全然興味がないっつうか挑戦しようとしないんだって。あいつ…』


そこで《詩織の頑固力?》が発揮されてるらしい…。
公貴くんがそこを何度も注意しても、詩織は聞きもしないんだとか…。

詩織本人に代わって…頑固でごめんなさい。公貴くん…。


『へぇ。いつまで何をしてるのかって思って来てみたら…』

『?』
『!』


公貴くんと僕は、声のした控え室の入り口を、また慌てて振り返って見たら…。


『あんまり公貴くんが遅いから来ちゃった』

『陽凪さんか…何だよ』

『何だよって何よ』


陽凪さんはニヤニヤと笑いながら…今度は金魚ぼくを見た。


『こんなところで、2人だけで演技のお講義かしら?』

『デー…。ち、違うんですけど…』


















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