上 下
108 / 163
G.F. - 夢追娘編 -

page.587

しおりを挟む
僕は…スマホを静かにそっと机の上に置き…うつむいた…。


『あいつ…何であんなに頑固なんだよ…!』

『…。』

『女優も子役も経験無ぇくせに…どっから来んだよ!あの自分の演技への自信とか…あぁァ!?』

『…。』


ヤバいヤバいヤバい…。

公貴くんは、座ったままズボンの左ポケットに左手を突っ込み、右腕は机の上に置いて…怒鳴り散らかしている。


『歳はアレかもしれねぇけどなぁ!…先輩だぞ!俺のほうが!役者ではなぁ!!』

『…。』

『歳の1つ差が何だってんだよ!!あぁ?なんも変わんねぇっつーんだよ!!』

『…。』


どっ、どうしよう…えぇと…あ、そうだ。
何か考えふけってやり過ごそう…でも…。

そうだ…明日の免許の本試験のことでも考えよう…そうそう…あの…試験の過去問とか…その…。


《ヴーン…ヴーン…》


…!
またLINEの受信だ…送信相手は解ってる。
詩織からだよ?…絶対…。

僕は恐る恐る、少し顔を上げ…机の上のスマホを手に取り、ゆっくりと画面を見た…。


【{どうしたの金魚?返事来ないよ?)】


どうしよう…返さないと…。
詩織へのLINEの返信…。

けど…操作するのも…指をピクリと動かすことも…怖っ!

やっぱ無理無理無理!!
ごめん詩織!…返事返せない…この状況では…。

僕は、スマホを握った左手を小さく震わせながら…やっぱりそのまま机の上に置いた…。

そしてそのまま…またゆっくり下を向く…。


『クソっ!信吾はどこ行ったんだよ!こんなときによ!!』


…ひぃぃぃ…怖。


『信吾が居て見てれば詩織、まだいつも大人しく《演トレ》してたのによ…クソが…』


…た、助けて…この状況を…誰か…。


《ヴーン…ヴーン…》


また…詩織からのLINEだ…。
勇気を出して…またスマホを見る…。

【{行ったほうがいい?私そっち?)】


いやいやいやいや!!
だっ駄目駄目駄目駄目駄目!!

詩織!今来るとダメ!!絶対!!


「クソっ…クソが…」


…あ、あれ?
急に公貴くんが大人しく…なった…?

恐る恐る…僕はチラリと公貴くんを見た…。



公貴くんもポケットからiPhoneを出し、触り始めていた…。

とりあえず…良かった…。
このまま助かるかも…。

それにしても…うん。






もう一度スマホを見る。
詩織…本当に心配してくれてそう…ごめん。

何か書いて返さないと…じゃあ、なんて書こう。
書き方によって、詩織がここに来ることがないよう気をつけないとな…えぇと。

本当になんて書いて返そうかな…うーん。

少し安心し始めて、何気にまた公貴くんのほうをチラリと見ると…!!!

ひぃぃぃぃ!!!
こっち見てるー!!


『なぁ…おい。お前』


えぇーっ!?
しかも金魚ぼくに話しかけてきたぁぁー!!


『おい…なぁ』


ど…ど、どうしよう…!!


『おい…聞こえてんのか?って。つぅかお前!返事くらいしろ!!』

『はっ、はいっ!』


こんなに緊張してるのに、急でも女の子声に変えられる僕って…凄くない?
凄くないよ?こんなの普通だよ。普通普通。

…なんて、こんなふざけたことを考えてる余裕、無かったんだった…反省。


『ご…めんなさい…』


僕は慌ててスマホをまたまた机の上に置いて…震える手を下ろして…閉じた両ももの上に置いた両拳をぎゅっと握って…恐々と、公貴くんを見た…。


『お前…確か、俺と会ったこと…あるよな…?』

『あの…えっ…その…あの…』


そう…確かに。
少しだけ公貴くんと話したことがある…実は。

いつだったかな…?
11月の終わり頃?それとも、もう12月だったっけ?
日曜日が引っ越しで、その次の日…月曜日だったことだけは覚えてる。


『11月27日の月曜日、時間は朝9時頃。そこの事務室の前で…だろ?』


あ…ふーん。なるほどね。
公貴くん、日時と状況まで覚えてました…凄いね。めっちゃ怖いぃ…。


『俺、お前に《噂の新人ってのはお前か?》って、訊いたよな?違うか?』


そこまで正確に言い当てられると…もう素直になるしかなかった…。


『あの…はい。私…でしたね…』


僕は、あまりのヤバい状況に少し混乱したのか…公貴くんに可愛い笑顔で返事してしまい…。

その現実にショックして…僕はまた落ち込むように俯いて、視線を机上に落とした…あぁ。


『そうか。やっぱな…ってか、信吾どこ行ったんだ?あいつマジで!』


…。

残念ながら《僕の女装姿(金魚)と公貴くんは、実は会ったことがある!》ことはバレてしまった!…けど。
守らなければならない秘密はもう1つ。

《今目の前にいる娘こそ、実は君が探している信吾だ!》ってことだけは…絶対バレないように…。
これだけは守り切らないと…!

いや…絶対にこの秘密…守り通す…!!

そう決心し、心に誓って公貴くんを…そーっと見ると…。
公貴くんは…大人しく静かになって、また自分のiPhoneを触っていた。

ふぅ…助かった…か。


《ヴーン…ヴーン…》

《ヴーン…ヴーン…》


今度は2回きた。
ごめんごめん…。

LINEの返事、何かしてあげなきゃ。
えぇと?…今度は詩織、2連続って…何って書いて送ってき…?

……は?



【{お前…信吾だろ!だよなぁ?お得意の女装した)】

【{もうバレてんだよ。大人しく観念して自白しろ!)】


えっ、はぁっ!?
嘘っ!?バレ…た…!?

…えぇぇ!?
ヤバい…本気でヤバい!!!



心臓の音が…両方の鼓膜に届くぐらい…バクバクドキドキしてきた…。

目が…視線が…スマホに釘付けに…。
金縛りのように…動けない…。

かっ体が…重い…。

汗?…画面に一粒…ぽたり。



僕は…全身を小刻みに震わせながら…ゆっくり…ゆっくり…と…。

…公貴くん…のほうを…見…た…。


『あーぁ。信吾、ほんと何処行ったんだろうなーぁ…なぁ…』


…!!

冷めたようなジト目で…僕をじーっと見てる…公貴くん…!


『もうバレてんのに、まーだ黙ってやり過ごそうってしてんのかなーぁ。あいつは…』


うわぁ…も、もう無理…。
観念するしかなかった…。

僕はまた何度目か下を向き…震える小声で…。


「あの…なんで…わかっちゃっ」

『お前の左耳を見れば判んだよ!』

『!!』

『わーっはっはっはっはー!』


公貴くんは、自分のiPhoneをポケットへ戻しながら、高らかと大笑いしだした…。


『お前、忘れてないよな?』


…えっ?
忘れてない…よな??


『YOSHIKAが俺の姉貴だってことをな!』


…あっ。


『わーっはっはっはっはー!』

『…。』


僕の《秘密が絶対バレないよう守り通す!》の決心は…ものの5分で打ち破られた…あぁ。






そのあと…公貴くんは話してくれたんだ。

YOSHIKAさんから聞いたんだって。
『信吾くんが女の子になるとき必ず、左耳に金魚のぶら下がったピアスをしてんの』ってことと…『信吾くんの女の子姿の名前は《池川金魚》ちゃんって言うの。絶対に《信吾くん》なんて呼んじゃダメ!』ってことを…。

それと、どちらから話が出たのか…僕のLINEのIDも。


『…ってことで。なぁ

「…は…はぃ…」


公貴くんはウンウンと頷きながら、ニヤリと笑った。


『お前にひとつ《聞いてほしい話》と、あと《頼みたいこと》があるんだ』

『…聞いてほしい話と、頼みたいこと?』

『あぁ。聞いてくれないか?』


…って、どんなこと…?


















しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き

星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】 煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。 宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。 令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。 見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー

ジャン・幸田
キャラ文芸
 いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?  徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...