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G.F. - 夢追娘編 -

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『えぇっ!?』と驚いてる僕と、『ふぅん…てことは、こう言う場合は…どうなるの?』と、ちょっと真面目に考えてみてる詩織…。
そんな僕らと一緒に、少しは興味がありそうに『うむうむ…』と黙って頷きながら、夕紀さんの話を聞いていた池田さん…だったんだけど突然、このことに異議を唱えた。



『いや…ちょっと待ってくれ夕紀ちゃん。それはマズいな…』

『あー。やっぱり…ですか?池田さん』

『うむ。マズい…』


池田さんと詩織は、互いを見合ってゆっくりとウンと頷きあった。
夕紀さんも、そんな池田さんたちを心配そうに見ている。


『夕紀ちゃん、それは…にピプレのメンバーと一緒に、ステージに上がってくれないか?ってことだろう…?』

『えっと…そう、ですね…最も単純な発想で言えば…』


夕紀さんは『まだ他にも、方法は考えたらあると思うのですが…』と、発言に保険を充てたように付け加えた。


『けど、ピプレのプロデューサーの西村さんから許可を得た話じゃないだろう?それに西村さんだったらそんな話は却下…即お断り!だろうな』


夕紀さんに、そう答えて返した池田さん。
うん…考えれば、確かに…。

金魚をステージに立たせて、来場客にご披露する…ということは、公式で新メンバーだと認めたうえで世間にご披露するということ。
公式?そんなのは非実現…できるわけがない。


冴嶋プロダクション側としても、そんな形での《金魚の芸能界デビュー》なんてお断り!…って言うと思う。


しかも西村プロデューサーの知らないところで行われた《つまらない意地の張り合い》《小競り合い》…というか、まるで子どものケンカのようなもの。
そんなことに一々いちいちメンバー公式記録が巻き込まれ、振り回され、付き合わされるなんてのは…確かにご迷惑な話だ。

それに…もし万が一本当に、金魚がそんなことでメンバー入りさせられることになっても、僕だって嫌だし。
金魚はただの女装…男なんだから。



それでも、今も不安そうに『えぇ…どうしよう…』『海音ちゃん…』『でも、勝ちたい…』そう何度も呟きながら、必死に悩んでいる夕紀さん…。

それがいくら《子どものケンカみたいなもの》であっても…。
僕は思う…夕紀さんや海音さんの想いを…何とかしてあげたい。
できる方法は?ない?ある?何か…何か……!


『じゃあ…来場客たちに見えないところでなら…公認とか公式とかに触れさせず…だったら、実現できませんか?』

『…というと?』

『例えば…"控え室だけ"とかで』

『控え室だけ?あー…なるほど。そうか…』


一つ助かっていたのは、海音さんが金魚のことを《まだデビューさせていない、幻のメンバー》と言ってくれていたこと。

デビューの発表もしていないんだから当然非公式…ステージには上がれない。
じゃあいつデビューするのよ!?…そう訊かれたら《だから!幻のメンバーって言ったでしょ!》と回避できる。

メンバーとやらの、その真偽に関わらず…金魚はある意味では、本当に《幻》なんだから。

控え室に限って金魚をご披露する…ただし撮影は厳禁。他言も無用で、SNSで発信するのも禁止。
《Kira♠︎m》のメンバーたちが、その約束を守らないなら《幻のメンバーご披露》は中止…。

その場だけのご披露…つまり他言無用を厳守してくれたなら、西村プロデューサーの耳にも当然入らないはずだ。


『…ということなら、どうでしょうか?』


僕のその説明を聞いて、池田さんはニコリと笑った。


『いいんじゃないか…?その場だけなんだから非公認は守られるし、金魚ちゃんを見た《きらむ》所属のアイドルたちに一発、精神的大ショックの一発をかますこともできるぞ…!』


池田さんはそう言って、わはははと笑いながら僕の背中をバンッ!と強く叩いた…痛っ。


『そうよ。それに金魚だったら大丈夫。本当に金魚って可愛いんだから!』


自信あり気に、そう言ってくれた詩織…だけど、僕は…。


『うん。でも僕…その、《きらむ》の伊方つぐみ?さんとか…西尾美優貴?さんとか…見たことな』

『はい…じゃあ見て。これがつぐみちゃんと美優貴ちゃん』


詩織が自分のiPhoneを、僕に見せてくれた…えっ!?

か…可愛い!
確かに…本当に可愛いが過ぎてる!

そして率直に…これ、ヤバい…。


『…ねッ。2人とも可愛いけど、でも金魚なんかと比べたら…』


いや…そんな余裕ないよ…。
勝てる?本当に?…金魚が?

…こんなめちゃくちゃ可愛い女の子たちに…?


『…返事は?信吾』

『う…うん。頑張ってみる…』

『きゃはははー♪余裕余裕♪』


詩織は揺るぎのないくらい、金魚が勝てることを信じて…ニコニコ。

僕は今から、もうピンチとプレッシャーが最大限…。


『…ってことらしいよ、夕紀ちゃん。安心だね!勝てるし』

『あ…ありがとうございます!』


夕紀さんは深々と、僕と詩織にお辞儀してくれた…けど。






結局…1時間くらい、控え室で話していた僕ら。
そろそろ、控え室を出ることにした。


『…ということで、詩織ちゃんの女優デビュープロジェクトと、信吾くんの女装タレントデビュープロジェクト。2人とも頼んだよ!』

『はーい。私たち頑張りまぁす♪』
『は、はい…』

『僕の職位の進退が掛かってるんだからね!わはははー』


池田さんは、何か憑き物が取れたかのように、スッキリしたニコニコ笑顔で事務室へと戻っていった…。


『信吾さん、詩織ちゃん…本当にごめんなさい。宜しくお願いします』

『うん。信吾に任せとけば大丈夫よ。安心して』


夕紀さんも、詩織に言われたように安心感の溢れる笑顔で『今夜はお先に…失礼します』ともう一度会釈して…エレベーターの昇降室に乗り込んだ。


『外は寒いし、交通安全にも気をつけて帰ってね!』

『ですね。お互いに…お気遣いありがとうございます』


エレベーターの扉がゆっくりと閉じ、昇降機は1階へと降りていった…。


『あの…詩織。僕らも今のに乗れば良かったんじゃない?』

『えっ?今の…!』

『エレベーター』


僕と詩織は視線を交え、そして心地良く笑い合った。
そして、詩織は何かを思い出したかのように…。


『あとね…また言っちゃうけど…今日は仮免許試験の合格、本当におめでとう!』

『ありがとう。詩織』


そして僕らはもう一度、ニコニコ笑顔。

すると詩織は、両手を合わせてパチンと叩いた。


『あー!そうだぁ。陽凪さんにも仮免許合格のこと、話しとこうよ!』


…なるほど。
今度、陽凪さんが車屋さんを紹介してくれるんだし…確かに。


『まだ居るよね…?事務室に』

『うん。まだ居ると思う』

『ほらぁ…ね。やっぱりエレベーターに乗らなくて良かったんじゃない?…うふふっ♪じゃあ行こっ♪』

『う、うん』


…詩織は"エレベーターに乗らなかったこと"を上手く正当化させることに成功…。

僕は今の詩織の瞬時の閃きと、この流れへの導き方が…本当に上手かったなぁと思った。



















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