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G.F. - 夢追娘編 -
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…1月16日のあの日の回想から、僕の意識はふと現在…1月22日の月曜日、午前9時56分に戻ってきた。
そういえば今日…自動車学校が終わったら、詩織と冴嶋プロダクションの事務所に行くんだった。
…人事部の池田さんを尋ねて。
池田さんに相談しないと。
僕の女装姿の《池川金魚》が、今とても大変なことになってるんです!…ってことを。
なぜ池田さんへの相談が、あの日から1週間近く経った《今さら》にまで遅れたのか。
それは…。
僕らも何度か池田さんに、LINEで《お話聞いて欲しいです》って、相談機会を取ろうと試みてたんだ。
けど、池田さんからの返信は?というと…何度も【済まない。今マジでほんと大事なことから手が離せなくて!御免っ!】って。
あんな、いつもちょっと暇そうに見える池田さんが、手が離せないって断るぐらい《マジで大事なこと》って?…何?
…で、今日ようやく池田さんから【マジでずっと待たせてて御免!実は僕も今夜、君たちと話がしたくなった…】って、LINEの返信が。
急に今日?
なんか変だけど《今夜、君たちと話がしたくなった…》って…ぇ?
本当は意外と寂しがりやだったり?
なんてわけ…ない、ですよね?池田さん?
まぁ…とにかく、そんな感じ。
僕の自動車学校の仮免許試験も、今日は午後4時か5時頃には終わってるはずだから、池田さんと約束した《君たち!冴嶋プロダクション事務所横の控え室に午後6時集合!宜しく御免!》には、余裕で間に合いそう。
あと…そうそう。
詩織もそうだけど…夕紀さんの飲酒も少し、気をつけることにしよう。
夕紀さん『お酒の場は楽しくて好きです』『ウチで晩酌もたまにします』って言ってたけど…。
飲み過ぎ…というより、"酔い過ぎ"には注意です。
酔うと性格が可愛らしく、雰囲気は少し色っぽくなるようです…解ってますか?夕紀さん。
お願いします。
僕は窓の外をもう一度覗き見た…。
まだ今も小雪がちらちらと舞ってる。
外、寒そう…うぅ。
寒さに少し震えながら、僕は壁掛け時計を見た…まだ出掛けるには、時間がある。
だったら仮免許試験の直前対策を、もう一度おさらいしておこうか。
詩織…『仮免許試験に合格できたら、2人で車屋さんに見に行こうね!』って…『免許証を貰ったらすぐに車を買って乗りたいって、車屋さんに相談しておいたらいいよ!…って、陽凪さんからアドバイス貰ってきたー♪』って…。
すごく楽しみにしてそうに、尊いぐらいに無垢で明るい笑顔を僕に見せて言ってきてたからなぁ…詩織。
『あの…詩織…仮免許試験…本当にごめん!』なんて、残念なことを言うことがないように。
試験の準備を完ぺきにして、成果を出して、詩織の期待に応えてあげないと…。
時刻は午後4時。今は船橋市某所の自動車学校の門の前。
空は降っていた雪は止んでいて、薄暗い夕方から夜へと変わっていくところ。
僕はホッとして、小さく息を払った。
今日、僕と同じくして仮免許試験を受けた高校生の子たちや大学生、社会人のお姉さんもそれぞれの場所へと帰っていく。
試験の合否は、すぐに伝えられた…全員、仮免許合格。おめでとう。
みんな、良かった…そしてもちろん僕も合格。
さぁて…まずはアパートに帰って、少しの時間だけ落ち着こう。
そして出掛ける時間になったら、東京メトロで江東区某所の《冴嶋プロダクションビル》へ向かうんだ。
冴嶋プロダクションビルの到着予定時間は、午後5時45…いや、30分。
午後4時50分頃にアパートをでれば、余裕をもって到着できるはず…。
…午後5時34分。冴嶋プロダクションビルに到着。
あれ?詩織が…まだ来てない。珍しいな。
僕のほうが先に着くなんて。
詩織とは『事務所前じゃなくて、ビルの前で待ち合わせよう』って決めてたんだ。
冷たい風に頬を撫でられながら…北の空を眺める。
冬の暗い夜空の下で、夜風に凍える東京のビル群はキラキラと…美しく輝いていた…あ。
『信吾ー。ごめーん』
声のほうを振り返り見ると、明るい灰色のロングコートの上から真っ白なマフラーを巻き、モコモコの白毛玉のような帽子を被った詩織が、こっちへ駆けて来ていた。
『遅れちゃったー』
…全然。
予定時間より25分も前なんだから、余裕なんだけど。
『寒かったでしょ。頬が赤いよ?』
『ぁ…えっ?』
『ねぇ、何分くらい待ってくれてたの?』
僕はうぅん、と首を横に振った。
『僕も来たばっかり』
『またまたー。私に気を遣ってくれちゃってー』
詩織は可愛らしく笑いながら、右手の人差し指で僕の額をツンと優しく突いた。
『違うよ。本当だって』
『きゃはははは。ありがとう』
詩織はもう一度僕を見て、ニコリと笑った。
そんな僕らの様子を、プロダクションビルから出てきた従業員の男性らに、羨ましそうにジロジロと見られて…少し恥ずかしい。
『じゃあ、信吾…入ろう』
『うん』
急に一変して、真剣な眼差しに変わった詩織の大きな瞳が…ビルの入り口を睨んでキラリと輝いた。
『今夜…金魚の運命が変わってしまうかもしれないよ』
『…。』
僕も…もう解ってる。
《自分の覚悟》から逃るのはもう終わり…って。
僕らは歩き出し…ビルのガラス張りの自動ドアが開き、眩しいくらい明るいロビーへと入った…あ、暖かい…。
『それで?…報告は?』
『えっ?報告…って?』
ロビーの真ん中に立ち止まって、僕と詩織は互いを見詰めた。
『なぁに?まさか…ダメだったの!?』
詩織の疑いの目が、僕を柔らかく責める。
『あー、うん。もちろん…』
『えぇっ!?』
『合格』
詩織がまた『いひひっ♪』と可愛らしく笑った。
『きゃはははー。だと思ってたよー。信吾』
『…嘘?今の』
詩織は先にエレベーター前へと、さっさと歩き出した。
そして振り返って…。
『本当ぉだってばぁ。ちゃんと信じてたんだからぁ』
…本当かなぁ。
『早くここまで来なさーい。遅れてますよー。"池川金魚"』
『ちょっ!!ダメだって!まだその名前はー!』
『きゃははははー♪』
僕は詩織の隣へと、小走りで急いだ。
そういえば今日…自動車学校が終わったら、詩織と冴嶋プロダクションの事務所に行くんだった。
…人事部の池田さんを尋ねて。
池田さんに相談しないと。
僕の女装姿の《池川金魚》が、今とても大変なことになってるんです!…ってことを。
なぜ池田さんへの相談が、あの日から1週間近く経った《今さら》にまで遅れたのか。
それは…。
僕らも何度か池田さんに、LINEで《お話聞いて欲しいです》って、相談機会を取ろうと試みてたんだ。
けど、池田さんからの返信は?というと…何度も【済まない。今マジでほんと大事なことから手が離せなくて!御免っ!】って。
あんな、いつもちょっと暇そうに見える池田さんが、手が離せないって断るぐらい《マジで大事なこと》って?…何?
…で、今日ようやく池田さんから【マジでずっと待たせてて御免!実は僕も今夜、君たちと話がしたくなった…】って、LINEの返信が。
急に今日?
なんか変だけど《今夜、君たちと話がしたくなった…》って…ぇ?
本当は意外と寂しがりやだったり?
なんてわけ…ない、ですよね?池田さん?
まぁ…とにかく、そんな感じ。
僕の自動車学校の仮免許試験も、今日は午後4時か5時頃には終わってるはずだから、池田さんと約束した《君たち!冴嶋プロダクション事務所横の控え室に午後6時集合!宜しく御免!》には、余裕で間に合いそう。
あと…そうそう。
詩織もそうだけど…夕紀さんの飲酒も少し、気をつけることにしよう。
夕紀さん『お酒の場は楽しくて好きです』『ウチで晩酌もたまにします』って言ってたけど…。
飲み過ぎ…というより、"酔い過ぎ"には注意です。
酔うと性格が可愛らしく、雰囲気は少し色っぽくなるようです…解ってますか?夕紀さん。
お願いします。
僕は窓の外をもう一度覗き見た…。
まだ今も小雪がちらちらと舞ってる。
外、寒そう…うぅ。
寒さに少し震えながら、僕は壁掛け時計を見た…まだ出掛けるには、時間がある。
だったら仮免許試験の直前対策を、もう一度おさらいしておこうか。
詩織…『仮免許試験に合格できたら、2人で車屋さんに見に行こうね!』って…『免許証を貰ったらすぐに車を買って乗りたいって、車屋さんに相談しておいたらいいよ!…って、陽凪さんからアドバイス貰ってきたー♪』って…。
すごく楽しみにしてそうに、尊いぐらいに無垢で明るい笑顔を僕に見せて言ってきてたからなぁ…詩織。
『あの…詩織…仮免許試験…本当にごめん!』なんて、残念なことを言うことがないように。
試験の準備を完ぺきにして、成果を出して、詩織の期待に応えてあげないと…。
時刻は午後4時。今は船橋市某所の自動車学校の門の前。
空は降っていた雪は止んでいて、薄暗い夕方から夜へと変わっていくところ。
僕はホッとして、小さく息を払った。
今日、僕と同じくして仮免許試験を受けた高校生の子たちや大学生、社会人のお姉さんもそれぞれの場所へと帰っていく。
試験の合否は、すぐに伝えられた…全員、仮免許合格。おめでとう。
みんな、良かった…そしてもちろん僕も合格。
さぁて…まずはアパートに帰って、少しの時間だけ落ち着こう。
そして出掛ける時間になったら、東京メトロで江東区某所の《冴嶋プロダクションビル》へ向かうんだ。
冴嶋プロダクションビルの到着予定時間は、午後5時45…いや、30分。
午後4時50分頃にアパートをでれば、余裕をもって到着できるはず…。
…午後5時34分。冴嶋プロダクションビルに到着。
あれ?詩織が…まだ来てない。珍しいな。
僕のほうが先に着くなんて。
詩織とは『事務所前じゃなくて、ビルの前で待ち合わせよう』って決めてたんだ。
冷たい風に頬を撫でられながら…北の空を眺める。
冬の暗い夜空の下で、夜風に凍える東京のビル群はキラキラと…美しく輝いていた…あ。
『信吾ー。ごめーん』
声のほうを振り返り見ると、明るい灰色のロングコートの上から真っ白なマフラーを巻き、モコモコの白毛玉のような帽子を被った詩織が、こっちへ駆けて来ていた。
『遅れちゃったー』
…全然。
予定時間より25分も前なんだから、余裕なんだけど。
『寒かったでしょ。頬が赤いよ?』
『ぁ…えっ?』
『ねぇ、何分くらい待ってくれてたの?』
僕はうぅん、と首を横に振った。
『僕も来たばっかり』
『またまたー。私に気を遣ってくれちゃってー』
詩織は可愛らしく笑いながら、右手の人差し指で僕の額をツンと優しく突いた。
『違うよ。本当だって』
『きゃはははは。ありがとう』
詩織はもう一度僕を見て、ニコリと笑った。
そんな僕らの様子を、プロダクションビルから出てきた従業員の男性らに、羨ましそうにジロジロと見られて…少し恥ずかしい。
『じゃあ、信吾…入ろう』
『うん』
急に一変して、真剣な眼差しに変わった詩織の大きな瞳が…ビルの入り口を睨んでキラリと輝いた。
『今夜…金魚の運命が変わってしまうかもしれないよ』
『…。』
僕も…もう解ってる。
《自分の覚悟》から逃るのはもう終わり…って。
僕らは歩き出し…ビルのガラス張りの自動ドアが開き、眩しいくらい明るいロビーへと入った…あ、暖かい…。
『それで?…報告は?』
『えっ?報告…って?』
ロビーの真ん中に立ち止まって、僕と詩織は互いを見詰めた。
『なぁに?まさか…ダメだったの!?』
詩織の疑いの目が、僕を柔らかく責める。
『あー、うん。もちろん…』
『えぇっ!?』
『合格』
詩織がまた『いひひっ♪』と可愛らしく笑った。
『きゃはははー。だと思ってたよー。信吾』
『…嘘?今の』
詩織は先にエレベーター前へと、さっさと歩き出した。
そして振り返って…。
『本当ぉだってばぁ。ちゃんと信じてたんだからぁ』
…本当かなぁ。
『早くここまで来なさーい。遅れてますよー。"池川金魚"』
『ちょっ!!ダメだって!まだその名前はー!』
『きゃははははー♪』
僕は詩織の隣へと、小走りで急いだ。
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