上 下
83 / 166
G.F. - 夢追娘編 -

page.562

しおりを挟む
『…おい、栗原先輩!解ってんのか!?そいつの正体…悪魔だぞ!!』


公貴くんが陽凪さんに向かって叫んだ。
陽凪さんは雅季さんに寄り添っていた。


『うん、解ってる。だけど私…やっぱり…彼のことを、もう…』

『お前の負けだよ。山岸裕也。僕の魔法に掛かった彼女は、もう僕の虜さ…ハハハハ』


雅季さんが陽凪さんの肩を抱き、公貴を指差して嘲笑いだした。


『なぁ…頼むよ!覚ましてくれよ!栗原先輩!俺、俺…先輩のことが!前から好きだったんだよ!!』

『…えっ?ちょっ…急に何を…山岸くん!?』


公貴くんが陽凪さんに向かって腕を伸ばす。


『だから!そいつから離れて、戻って来てくれ!!先輩!早く!』

『えっ、そんな…私、ど…どうすれば…』

『まさか…?魔法が解けだしただと…!?』






…次の《演技勝負》の最中。
ジャンルは【バラエティ寄りのファンタジー系学園恋愛ドラマ】らしい…って言われても、僕はよく解らないけど。

でも、詩織とみかなちゃんは、その演技風景に釘付けだった。


『ぐあぁぁーっ!!お…お前…その聖なる弓矢を…どこで手に…』


…んー。
やっぱり僕はよく解らない。
けど、3人の演技の迫力と臨場感は、何となく凄く感じられた。

僕にはあんな迫真の演技とか、『じゃあお前がやってみろ』と言われても…できないけど。






『…やっぱり俺ももう31だから、学生役とかもうキツいな…』

『うん。私も。私たちはどちらかというと、生徒役よりも教員役寄りだもんね。年齢的に』

『ってか、バラエティ系とかパロディ系のドラマとか俺らには、たぶん合わないんだよ』

『まぁ…だな。公貴。確かに』


雅季さんと陽凪さんは、お互いを見合って苦笑いしてた。
公貴くんは、少し疲れた表情を見せていた。


『でも凄かったです!やっぱりプロの演技!って感じで感動しました!パチパチパチー♪』


スッと立ち上がった詩織は拍手とともに、称賛する言葉を3人に送っていた。


『よーし。じゃあここで…』


浅見さんが立ち上がって、僕らを順に見て…最後に詩織を見た。


『…詩織ちゃん。君もどれくらい演技ができるのか、僕らに見せてくれないかい?』

『えっ!?わっ…私…ですか?』


浅見さんは優しく微笑みながら、詩織に頷いて見せた。
そして詩織は突然のことに、少し落ち着きを失って戸惑いの様子であたふたしてた。


『君は去年の12月、皐月理事長が校長を務める《タレント養成スクール》に5日間行ってきたそうじゃないか』

『はい…でもあの時は私、アイドルのレッスン体験として…』

『けど役者のレッスンも受けてきたんだろう…?』


浅見さんのその一言に、詩織は何か諦めがついたように…ふと落ち着きを取り戻した。


『浅見さん…演技のレッスン体験を受けたって言っても…2日だけですよ』


浅見さんは、戸惑う詩織にまたニコリと笑顔を見せながら、ウンと一度大きく頷いた。


『僕はね…高須賀人事部長から、ちらっと聞いたんだよ。皐月理事長が冴嶋社長に《詩織ちゃんは絶対に、アイドルじゃなく女優の道を進ませるべき》って、言ったんだって話をね』

『あっ、あ…でも!』

『うん。解ってるよ。大槻専務取締役だろう?』


詩織は『…はい』と答える代わりに、悩み苦しむような表情で、小さく頷いた。




…大槻専務取締役は、子役経験も演劇部の所属もなかった詩織に『君が女優になるのは難しい』って、ハッキリと言った。
『まずはアイドルから…』なんて言い方をしてたけど…たぶんそれを許してはくれないんだろう。
大槻専務取締役に詩織が『女優への道を進ませてください!』って願い出ても…。

冴嶋社長も、大槻専務取締役のその考えというか判断に、渋々ながらも賛同したふうだったし。




『…僕はね、今まで会社の方針に何一つ逆らわず、所属するタレントたちを指導し育ててきた。そりゃあ何十人もね』


けど、確か前に…浅見さんは『役者を指導するのは僕はできるけど、アイドルはちょっと…なぁ』って言ってた。


『けどね、会社には申し訳ないが…今回ばかりは一言物申したい気分なんだ』


詩織の肩を、浅見さんがポンと叩いた。


『子役経験が無いからって何だい?演劇部じゃなかったからって…だからどうした?』


浅見さんが派手にワハハと笑った。


『あの皐月理事長が見抜いたんだ。詩織ちゃんの演技力とその可能性を。絶対女優にさせるべき!ってね』

『…で、でも…』

『自信を持って。君の成りたい本心は何処にあるんだい?アイドルかい?違うだろう?』


なかなか『はい!』と言わない詩織。
それを見兼ねてか…公貴くんが詩織を睨むように見た。


『おい詩織。いいから難しいことなんか何も考えずやってみろよ…演技』

『…えっ』

『見せてみろよ。皐月理事長とやらが見抜いたとかいう、お前の演技力ってのを。俺らに』


詩織が怯えるような目で、公貴くんをじっと見返す…。


『やってみたら?詩織ちゃん。間違えたって失敗したって、私たちは詩織ちゃんを絶対に笑ったりしないから』


陽凪さんも優しく、詩織に笑顔でそう言った。


『軽い気持ちでいいよ。遊びと思えばいい。ゆっくり落ち着いてやってみよう』


雅季さんも詩織を応援の言葉を詩織に送ったあと…詩織は。


『…信吾ぉ、どぉしよぉ…』


僕は、詩織に『頑張ろう』の代わりの笑顔を送ることしかできなかった。





けど、僕も信じてる。詩織ならできる。
きっと詩織の演技を見て、浅見さんも陽凪さんも…公貴くんも絶対に驚くはずだよ!

詩織の凄い演技力で、ビックリさせてやろうよ!
このプロの俳優のみんなを!

だから詩織!頑張ろう!


『やろうよ!詩織ちゃん!私だって応援してるよ!』


最後に…木橋みかなちゃんも瞳をキラキラと輝かせながら、大きな声で詩織にそう言ってくれた。

みかなちゃんの満面の笑顔に釣られたのか、緊張した詩織の表情も少し緩んで…ほんの一瞬だけ笑って見せた。


『えっと…じゃあ…私…』






















しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...