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G.F. - 再始動編 -

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母さんが『じゃ、お着替えのためにお座敷の部屋へ行きましょ』と先に向かおうとした。それでちょっと慌てるように、僕と歩美さんはリビングのソファーから立ち上がり…。


『私、車から金魚ちゃんの振り袖持ってきます』


歩美さんは静かにガラガラと玄関扉を開け閉めし、一旦家を出て、乗ってきた車へと向かった。

そして僕は…。


『母さん、僕は着替えのために下着換えてくるよ』


階段を上がって、また自分の部屋へと戻った。







…午前5時42分。歩美さんと母さんの二人掛かりで、女装メイクした僕の着付けをしてくれて…ようやくそれが終わった。


『はーぁ。疲れたけど…出来たわね』

『できましたね、お母さん。お手伝いいただきありがとうございました』


歩美さんが母さんに、小さく頭を下げてお礼を言った。


『いえいえ。歩美ちゃんもお着付けの御作法を習ってたのね。こんなに若いのに手際が良くて私、本っ当びっくりしちゃったわ』




振り袖は去年の初詣に着た赤色のとは違ったけど、今年はやや淡い緑色の振り袖。
帯は全体的には綺麗な赤色。それと金色と桃花色が混ざってる。

振り袖の全体に牡丹や春の花々がぶわあっと広がっていて、その輪郭は金の糸の刺繍でできてるし、とても豪華で…とてもお値段がお高そう…。

ど、何処かに袖とか引っ掛けたりして、振り袖を傷つけないよう気をつけないと…。




母さんはちらりと歩美さんを見て、ふふっと笑った。


『何だか…歩美ちゃんに《お母さん》って言われると、本当に本物の私の娘ができたみたい』


母さん…前に僕にも同じこと言ってたなぁ。
そして、僕と歩美さんもまたチラリと見合って笑った。

そのあとはダイニングへ移動。
リビングでは振り袖姿の僕が、ソファーには座れないから。







『…初詣は岸鉾神社で?』

『あ、はい。そうです』

『じゃあ待ち合わせの場所は、神社の駐車場?』

『えぇ。ですね』


テーブルに向かい合って座った、母さんと歩美さんがお喋りを始めた。


『それで何時なの?集合時間は?』

『一応…8時です』


そして僕が座ったのは、母さんの隣…じゃなくて歩美さんの隣。
母さんに《そこに座って!》と誘導されるように…。


『あら…今ようやく、もうすぐ6時よ。だったら来るの早かったんじゃない?』

『いえ。着付けにもう少し時間が掛かると思いましたし、ちょっと早く信吾くんとご実家を出て、どこかのお店で朝食を食べてもいいかなって…』


母さんは歩美さんとの会話を続けながら、僕と歩美さんの顔を交互に見て…ニヤニヤと嬉しそうに笑ってる…。
『まるで本物の姉妹…本当に私の娘たちみたい…』とか言いたげだ。


『だったら、ウチで食べていったら?朝食』

『えっ、いいんですか!?』

『なに言ってるの。私の若い頃にそっくりな顔して。ウチのみたいなもんなんだから。ご飯ぐらいで遠慮なんかしないで』

『…。』
『…。』


詩織がこの実家に来たときもそう…。
母さんはすぐに《身内みたいなものよ》だとか《私の子みたいなもの》にしたがる。

そんなに娘が欲しかったの?って、少し思う。


『お母さん、あ…ありがとうございます』


母さんはまたにっこりと笑って立ち上がり、キッチンへと向かって朝食の準備を始めた…。







紅白のかまぼこ、それとおせち料理の少しを一つの皿にまとめて、一杯のご飯も朱塗りのお盆に乗せて、母さんは運んできてくれた。


『お父さんまだ寝てるから。お父さんより先におせち出すのも失礼でしょ。だから、これだけね』

『ありがとうございます!いただきまーす』


歩美さんと並んで食べる、今年の初めての朝ごはん。
…なんか本当に元旦の朝だぁ!って感じで、なんだか気分が良かった。ご飯も普段より美味しく感じたかも。


「皆さーん!新年明けましておめでとうございまーす!」

「いやーぁ…遂に今年も明けちゃいましたけどねぇ!」


母さんがけてくれたテレビ。
マイクを握って袴姿のお笑い芸人さんの2人が、東京の?…どこだろう。大きな神宮の初詣会場に来ているみたいだった。

僕らも、あと数時間後には…。







朝食が済んで…3人でテレビを観ながら温かいお茶を飲んで、ゆっくりと雑談してた。

母さんが不意に振り向く…?


『お?お前たち早いなぁ。明けましておめ…!?』

『あら、お父さん。明けましておめでとう』


僕と歩美さんも、にこにこと笑いながらゆっくりと振り向いて、寝室から起きてきた父さんを見た。


『父さん。明けましておめでとう』
『明けましておめでとうございまーす』


可愛らしく丁寧に頭を下げて、父さんに挨拶した歩美さん。


『…おっ、おい!なんだ!?…ふっ2人いるぞォ!?』


ん?…えっ、あっ!!

…ヤバっ!!!

目が覚めて、起きてきたばかりの父さんが、を理解できる…わけなかったんだった…!
























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