上 下
51 / 166
G.F. - 再始動編 -

page.530

しおりを挟む
メンバーのみんなのことが大好き…そう言ったあと何も話さず、詩織は5秒ほど固まったように動かなかった。


何?どうしたの?あの子固まってるけど…。
観衆も、池田さんも僕も海音さんたちピプレのメンバーも、そう思って心配し掛けたころ…まるで詩織がハッと意識を取り戻したかのように、恥ずかしそうに笑いながらまた話し始めた。


『あの、ごめんなさい…えっと。このアイドルグループ《Peace prayerピース・プレア》のメンバーは、何度か入れ替わりながらもこうやって、結成当時からずっと、皆さんの幸せや笑顔や夢ある未来を願いながら、歌やダンスや言葉で繋ぎながら、今日まで続いてきました…』




『はーぁ。何だよ。ちょっと心配になってビビりかけたよ…なぁ!』

『ですね。でも僕は詩織なら大丈夫だと信じてました』

『ははは。本当かよぉ』


そう言って笑いながら、僕と池田さんは互いを見合った。
たぶん一瞬、何かの理由で頭の中が真っ白になって、自己紹介の言葉が飛んでしまったんだけど…その言葉をふと思い出せたんだと思う。


『私たち《Peace prayer》はファンの皆さんを、そして日本や世界中の人たちの未来の夢や幸せを、これからも願い祈りながら活動を続けていきます。だから…皆さんも私…岡本詩織とメンバーたち《Peace prayer》のことを、ぜひ応援してください!宜しくお願いします!』


ぜひ応援してください。宜しくお願いします…今までで一番大きな声で詩織はそう言って、深々と頭を下げた。
観衆のあちこちから拍手が湧き起こった。


『ありがとうございます!』


そう言った詩織の左隣と右隣へと、明日佳ちゃんと心夏ちゃんが2歩前に出て並んだ。


『どうか、ぜひ私たちを応援してください。次の曲が私たちの最後の曲になります。今年のクリスマスを想って作った新曲です』
『この曲を思い浮かべながら、夢の中で詩織ちゃんとクリスマスデートしてみてはいかがですか?聴いてください。《Merry sweet love story》』


心夏ちゃんが《詩織ちゃん》って…初めて聞いた。
言うんだ。心夏ちゃんも詩織ちゃんって。







詩織は自己紹介のほうは、ちょっと不安もあったけど…歌や振り付けのほうは完璧だった。
表情も明るく笑顔で、可愛らしく楽しそうだったし、与えられたソロパートもとても良かった。

色々あったけど、今日の1回目の《Peace》ステージパフォーマンスが終わった。
『ありがとうございましたー!』と大きく元気に言って、観衆に向かって両手を振って頭を下げて…詩織たちピプレのメンバーは、特設ステージを下りて控え室へと戻ってゆく。


『よし。ありがとう。ちゃんと見届けられた。じゃあ僕はこのまま事務所に帰るよ』


池田さんが満足気な表情で、僕にそう言った。


『えっ?最後に寄らないんですか?控え室に』

『あぁ。僕の代わりを全部君に任せる。ってことで…頼んだよ』


池田さんは小さく手を振って、そのまま振り返らず離れていった…。
僕も振り返らず、控え室へと急いで向かう。







『皆さん。お疲れさま』

『あー。お疲れさまでーす』
『岩塚さんも観てくれてたんですよね!』
『応援さんきゅでーす♪』

『どうでしたか?』
『私たちのステージは…?』


控え室では6脚のパイプ椅子で円を描いて、ピプレのメンバーたちは座っていた。


『詩織…』

『…うん』


パイプ椅子に座ったまま詩織がうつむき加減に、少し恥ずかしそうに後ろに立つ僕を振り返って見上げた。


『…ごめんね。お客さんの中に、私を指差して何か話してた様子の女の子たちがいて…』


…あ。
僕らの近くにいた、あの女の子たちのことだろう。


『それを見ちゃったら一瞬、頭ん中の何もかもが飛んじゃって…』


僕は詩織のその言葉に、ニコッと笑って返した。


『ねぇねぇ詩織ちゃん。《メンバーのみんなが大好きですー》ってあの言葉は、その場で考えたの?』


海音さんが、突っ込むように詩織に訊いた。


『うぅん。即興の言葉ってより…本当に飛んじゃって何も言葉が思い浮かばなかったから…ちょっと焦っちゃって…自分の今の本心を話して、なんとかこの場を繋ごうって思っ…』

『好きー!私も詩織さんのこと!』


詩織の隣に座っていた優羽ちゃんが、いきなり詩織の手をぎゅっと掴んでそう言った。


『えっ、え…あ、ありがとう…』

『わっ私も大好きです!優しい詩織さんが』


千景ちゃんも、目をキラキラさせてそう言った。


『私たちも、心から詩織さんのことを尊敬しています』
『本当に素敵です…あ、あと…ステージでは生意気にも《ちゃん付け》で呼んでしまって。すみませんでした…』

『きゃははは。なに?急に』


詩織は心夏ちゃんに『そんなことで謝らないで』って、笑ってた。

























しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...