31 / 163
G.F. - 再始動編 -
page.510
しおりを挟む
1階の階段下から母さんの声…目が覚めた。12月30日の朝。
『さ…寒っ』て思いながらベッドから出て、上着を羽織りながら階段を下りる。
『おはよう。信ちゃん。ご飯にしましょう』
『今…何時…?』
『朝ごはんの用意はもうでき…あ、今?7時22分よ』
…温かいご飯にお味噌汁。それに焼き鮭と目玉焼き…朝ご飯いただきます。
僕が焼き鮭をほぐして、箸でひと摘みして口へと運ぼうとしたすぐ、母さんが話し掛けてきた。
『…ってことでね、お母さんは今日は愛美と藤浦へ行ってくるから』
『えっ?』
愛美…小林愛美先生は、僕の高校時代の恩師。
そして母さんと、学生時代の親友。
『もう何年…いや何十年ぶりかしら。藤浦市に行くのは』
2日後にくる新しい年を迎えるために、藤浦市のとある美容院に、小林先生と二人で行って髪を綺麗にしてくる…ってらしい。
『《さつき美容室》はいいの?』
『うん。今日だけね』
さつき美容室というのは、ご近所の…って言っても、家から3km以上離れてるけど…母さんが今までずっと行っていた美容室。
『愛美が《凄くいい美容院が藤浦市にあるらしいの》って、《一緒に行ってみない?》って』
藤浦市…美容院…。
まるで《アンナさんの美容院》のことみたい。
『…そういえば、藤浦市には信ちゃんがお世話になった美容院がある…って言ってたじゃない?』
…えぇ?母さんに言ってたっけかなぁ…その話…。
『愛美が言うにはねぇ…その美容院の名前がね…えぇと、何だったかなぁ…確か…』
完全に箸が止まり、食べるのを忘れて考えて思い出そうとしている母さん。
『…何とか…どれって言ってたような』
『それって、まさか《クローシュ・ドレ》じゃないよね…?』
『あっ、それ!その…くろ何とかどれ!』
だからクローシュ・ドレだって…ってか…。
うわぁ…やっぱりアンナさんの美容院のことだ…。
『もしかしたら、信ちゃんがお世話になった美容院って、それかな?…なんて思って…?』
母さんが僕をじっと見る…。
僕は急に思い出したかのように、焼き鮭の一片を口に入れ、ご飯も口に頬張る。
『あははは。やっぱりその美容院なのね!』
『…。』
僕は慌てて口の中のご飯を飲み込み、更にお味噌汁も飲んだ。
『や…やめてよ《私、信吾の母です》とか言うの…』
『え、なんで?ダメなの?…そっかぁ。じゃあ黙っておくわね』
…うん。お願いだよ。母さん。
母さんと小林先生は、アンナさんの美容院へ行ったあと…早瀬ヶ池に久々に行ってみるか、それともやめるかは…今も迷っているらしい。
『…私たち、もうこんなオバサンだから…ね』
《ピンポーン♪》
『…うわぁ。なんて話してたら、まさかもう愛美が来た!?』
『ところで母さん!…父さんは?』
バタバタと急に慌てだす母さん。
出掛ける服には着替えていたけど、メイクはまだ準備できてない。
『父さんは朝早く出掛けたわよ。町内の寄り合いだって』
『こんな朝早くから??』
『愛美でしょー?ちょっと待ってー』
母さんが廊下にぴょこんと顔を出し、玄関に向かって叫ぶ。
「おはよう美穂。何か今忙しいの?」
『メイクまだだから。ちょっと待っ』
「いや入れてよ!そんなの気にしないから。外すっごく寒いんだってば!」
…小林先生が来るのは朝8時頃だったはずなんだけど、色々あってちょっと早く来たらしい。
家に入れてもらった小林先生は、ダイニングの石油ファンヒーターへまるで猫のように全力ダッシュで…暖まっていた。
『うー。あったかーい…♪』
朝ご飯を済ませた僕は、部屋着のまま玄関で、母さん達が出掛けるのを見送る。
『…お昼は冷蔵庫のあれをレンチンして、あとカップラーメンもあるから』
『分かったから。早くしたほうがいいよ。小林先生、外で待ってる』
車に乗り、こっちを見ている小林先生が見える。
『うん。じゃあ行ってくるね』
灰色のロングコートを羽織りながら、母さんが僕に小さく手を振る。
『あ!あと火の扱いには気をつけてね!火事とか』
『もう分かったから!早くいってらっしゃい!』
『あ…じゃあ…』
玄関扉がカラカラと音を立て、ゆっくりと閉まる。
ちょっと強引に、母さんを送り出した。
さて…と。僕はリビングで…今日も日課のメイクの練習をしないと。
東京からは最低限必要な分を入れた《化粧ポーチ》を持ってきてたんだ。
『さ…寒っ』て思いながらベッドから出て、上着を羽織りながら階段を下りる。
『おはよう。信ちゃん。ご飯にしましょう』
『今…何時…?』
『朝ごはんの用意はもうでき…あ、今?7時22分よ』
…温かいご飯にお味噌汁。それに焼き鮭と目玉焼き…朝ご飯いただきます。
僕が焼き鮭をほぐして、箸でひと摘みして口へと運ぼうとしたすぐ、母さんが話し掛けてきた。
『…ってことでね、お母さんは今日は愛美と藤浦へ行ってくるから』
『えっ?』
愛美…小林愛美先生は、僕の高校時代の恩師。
そして母さんと、学生時代の親友。
『もう何年…いや何十年ぶりかしら。藤浦市に行くのは』
2日後にくる新しい年を迎えるために、藤浦市のとある美容院に、小林先生と二人で行って髪を綺麗にしてくる…ってらしい。
『《さつき美容室》はいいの?』
『うん。今日だけね』
さつき美容室というのは、ご近所の…って言っても、家から3km以上離れてるけど…母さんが今までずっと行っていた美容室。
『愛美が《凄くいい美容院が藤浦市にあるらしいの》って、《一緒に行ってみない?》って』
藤浦市…美容院…。
まるで《アンナさんの美容院》のことみたい。
『…そういえば、藤浦市には信ちゃんがお世話になった美容院がある…って言ってたじゃない?』
…えぇ?母さんに言ってたっけかなぁ…その話…。
『愛美が言うにはねぇ…その美容院の名前がね…えぇと、何だったかなぁ…確か…』
完全に箸が止まり、食べるのを忘れて考えて思い出そうとしている母さん。
『…何とか…どれって言ってたような』
『それって、まさか《クローシュ・ドレ》じゃないよね…?』
『あっ、それ!その…くろ何とかどれ!』
だからクローシュ・ドレだって…ってか…。
うわぁ…やっぱりアンナさんの美容院のことだ…。
『もしかしたら、信ちゃんがお世話になった美容院って、それかな?…なんて思って…?』
母さんが僕をじっと見る…。
僕は急に思い出したかのように、焼き鮭の一片を口に入れ、ご飯も口に頬張る。
『あははは。やっぱりその美容院なのね!』
『…。』
僕は慌てて口の中のご飯を飲み込み、更にお味噌汁も飲んだ。
『や…やめてよ《私、信吾の母です》とか言うの…』
『え、なんで?ダメなの?…そっかぁ。じゃあ黙っておくわね』
…うん。お願いだよ。母さん。
母さんと小林先生は、アンナさんの美容院へ行ったあと…早瀬ヶ池に久々に行ってみるか、それともやめるかは…今も迷っているらしい。
『…私たち、もうこんなオバサンだから…ね』
《ピンポーン♪》
『…うわぁ。なんて話してたら、まさかもう愛美が来た!?』
『ところで母さん!…父さんは?』
バタバタと急に慌てだす母さん。
出掛ける服には着替えていたけど、メイクはまだ準備できてない。
『父さんは朝早く出掛けたわよ。町内の寄り合いだって』
『こんな朝早くから??』
『愛美でしょー?ちょっと待ってー』
母さんが廊下にぴょこんと顔を出し、玄関に向かって叫ぶ。
「おはよう美穂。何か今忙しいの?」
『メイクまだだから。ちょっと待っ』
「いや入れてよ!そんなの気にしないから。外すっごく寒いんだってば!」
…小林先生が来るのは朝8時頃だったはずなんだけど、色々あってちょっと早く来たらしい。
家に入れてもらった小林先生は、ダイニングの石油ファンヒーターへまるで猫のように全力ダッシュで…暖まっていた。
『うー。あったかーい…♪』
朝ご飯を済ませた僕は、部屋着のまま玄関で、母さん達が出掛けるのを見送る。
『…お昼は冷蔵庫のあれをレンチンして、あとカップラーメンもあるから』
『分かったから。早くしたほうがいいよ。小林先生、外で待ってる』
車に乗り、こっちを見ている小林先生が見える。
『うん。じゃあ行ってくるね』
灰色のロングコートを羽織りながら、母さんが僕に小さく手を振る。
『あ!あと火の扱いには気をつけてね!火事とか』
『もう分かったから!早くいってらっしゃい!』
『あ…じゃあ…』
玄関扉がカラカラと音を立て、ゆっくりと閉まる。
ちょっと強引に、母さんを送り出した。
さて…と。僕はリビングで…今日も日課のメイクの練習をしないと。
東京からは最低限必要な分を入れた《化粧ポーチ》を持ってきてたんだ。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー
ジャン・幸田
キャラ文芸
いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?
徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!
フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜
摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。
どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる