上 下
29 / 31

29話 婚約者を見せる その1

しおりを挟む
「き、緊張してしまうな……ウィンベル」

「確かに緊張しますね……て、左手と左足が同時に前に出ていますよ、ヴィクター兄さま」

「ああ、しまった! つい……!」


 私とヴィクター兄さまの二人はゼノン様から呼び出しを受けていた。内容はもちろん、婚約者を紹介する例の約束だった。私はジクト、ヴィクター兄さまはユリアナ嬢をそれぞれ紹介する手筈になっている。特にヴィクター兄さまは嘘を以前に吐いているので、婚約者と認められなければ不敬罪で投獄されるだろう。

 とまあ、それは冗談だけど、ヴィクター兄さまの緊張を見る限り本気で怖がっているようだ。


「ヴィクター、そんなに恐れる必要はないんじゃないのか? 本当のお父上じゃないか」

「そうですよ、ヴィクター様。あのゼノン国王陛下が、不必要に不敬罪にするとは思えませんが……」


 ジクトもユリアナ嬢も私と同じ考えを持っているようね。ゼノン様がそんなことをするわけはない。でも、ヴィクター兄さまの反応が面白いので、ついついイタズラをしたくなってしまうのだ。


「養子になった身とはいえ、実の息子が不敬罪……ダグラス王家の歴史にとって、大きな痛手になるかもしれませんね」

「おい、ウィンベル。実のお兄ちゃんを怖がらすようなことを言うんじゃありません!」

「なんで急に変なしゃべり方になるんですか……子供をあやしているような……」


 ヴィクター兄さまは本当に怖がっている印象ね。いつもの雰囲気とは全然違うから、本当にめずらしい光景を見ている感じだ。兄さまってそんなにゼノン様にコンプレックスあったのかな?


「ヴィクター兄さま」

「なんだ? ウィンベル」

「ヴィクター兄さまは、そんなにゼノン様が苦手なんですか?」

「いや……そういうわけではないが……」


 あれ? なんだか表情が曇っているような……聞いたらマズイことだったかしら?


「私達は養子に出され、王位継承争いからは遠ざかった存在だからな。しかし、王家の血を引いているのも事実だ。婚約者を紹介する場合、やはり緊張はしてしまうさ。ユリアナであれば絶対に認められるという確信があるにしてもな」

「まあ! ヴィクター様……! それは……!」

「兄さま、本人の前で……」

「うっ、こうして本人の前で言うと照れてしまうが……まあ、事実だしな」

「ヴィクター様……!」

「か、必ずユリアナなら認めてもらえると信じている!」

 まさかのヴィクター様の発言に、ユリアナ嬢は顔が真っ赤になっていた。私とジクトはお互いに顔を見合わせ笑い合う。どうでも良いけれど、これからゼノン様に会いに行く。二人のバカップル振りを見れば、必ず笑って認めてくれるでしょうね。そのくらい仲が良さそうに見えたから……。
しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

やめてください、お姉様

桜井正宗
恋愛
 伯爵令嬢アリサ・ヴァン・エルフリートは不幸に見舞われていた。  何度お付き合いをしても婚約破棄されてしまう。  何度も何度も捨てられ、離れていく。  ふとアリサは自分の不幸な運命に疑問を抱く。  なぜ自分はこんなにも相手にされないのだろう、と。  メイドの協力を得て調査をはじめる。  すると、姉のミーシュの酷い嫌がらせが判明した。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑 side story

岡暁舟
恋愛
本編に登場する主人公マリアの婚約相手、王子スミスの物語。スミス視点で生い立ちから描いていきます。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

【完結】悪役令嬢とは何をすればいいのでしょうか?

白キツネ
恋愛
公爵令嬢であるソフィア・ローズは不服ながら第一王子との婚約が決められており、王妃となるために努力していた。けれども、ある少女があらわれたことで日常は崩れてしまう。 悪役令嬢?そうおっしゃるのであれば、悪役令嬢らしくしてあげましょう! けれど、悪役令嬢って何をすればいいんでしょうか? 「お、お父様、私、そこまで言ってませんから!」 「お母様!笑っておられないで、お父様を止めてください!」  カクヨムにも掲載しております。

婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

四季
恋愛
婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

公爵令嬢は婚約破棄に感謝した。

見丘ユタ
恋愛
卒業パーティーのさなか、公爵令嬢マリアは公爵令息フィリップに婚約破棄を言い渡された。

君から逃げる事を赦して下さい

鳴宮鶉子
恋愛
君から逃げる事を赦して下さい。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

処理中です...