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29話 婚約者を見せる その1
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「き、緊張してしまうな……ウィンベル」
「確かに緊張しますね……て、左手と左足が同時に前に出ていますよ、ヴィクター兄さま」
「ああ、しまった! つい……!」
私とヴィクター兄さまの二人はゼノン様から呼び出しを受けていた。内容はもちろん、婚約者を紹介する例の約束だった。私はジクト、ヴィクター兄さまはユリアナ嬢をそれぞれ紹介する手筈になっている。特にヴィクター兄さまは嘘を以前に吐いているので、婚約者と認められなければ不敬罪で投獄されるだろう。
とまあ、それは冗談だけど、ヴィクター兄さまの緊張を見る限り本気で怖がっているようだ。
「ヴィクター、そんなに恐れる必要はないんじゃないのか? 本当のお父上じゃないか」
「そうですよ、ヴィクター様。あのゼノン国王陛下が、不必要に不敬罪にするとは思えませんが……」
ジクトもユリアナ嬢も私と同じ考えを持っているようね。ゼノン様がそんなことをするわけはない。でも、ヴィクター兄さまの反応が面白いので、ついついイタズラをしたくなってしまうのだ。
「養子になった身とはいえ、実の息子が不敬罪……ダグラス王家の歴史にとって、大きな痛手になるかもしれませんね」
「おい、ウィンベル。実のお兄ちゃんを怖がらすようなことを言うんじゃありません!」
「なんで急に変なしゃべり方になるんですか……子供をあやしているような……」
ヴィクター兄さまは本当に怖がっている印象ね。いつもの雰囲気とは全然違うから、本当にめずらしい光景を見ている感じだ。兄さまってそんなにゼノン様にコンプレックスあったのかな?
「ヴィクター兄さま」
「なんだ? ウィンベル」
「ヴィクター兄さまは、そんなにゼノン様が苦手なんですか?」
「いや……そういうわけではないが……」
あれ? なんだか表情が曇っているような……聞いたらマズイことだったかしら?
「私達は養子に出され、王位継承争いからは遠ざかった存在だからな。しかし、王家の血を引いているのも事実だ。婚約者を紹介する場合、やはり緊張はしてしまうさ。ユリアナであれば絶対に認められるという確信があるにしてもな」
「まあ! ヴィクター様……! それは……!」
「兄さま、本人の前で……」
「うっ、こうして本人の前で言うと照れてしまうが……まあ、事実だしな」
「ヴィクター様……!」
「か、必ずユリアナなら認めてもらえると信じている!」
まさかのヴィクター様の発言に、ユリアナ嬢は顔が真っ赤になっていた。私とジクトはお互いに顔を見合わせ笑い合う。どうでも良いけれど、これからゼノン様に会いに行く。二人のバカップル振りを見れば、必ず笑って認めてくれるでしょうね。そのくらい仲が良さそうに見えたから……。
「確かに緊張しますね……て、左手と左足が同時に前に出ていますよ、ヴィクター兄さま」
「ああ、しまった! つい……!」
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とまあ、それは冗談だけど、ヴィクター兄さまの緊張を見る限り本気で怖がっているようだ。
「ヴィクター、そんなに恐れる必要はないんじゃないのか? 本当のお父上じゃないか」
「そうですよ、ヴィクター様。あのゼノン国王陛下が、不必要に不敬罪にするとは思えませんが……」
ジクトもユリアナ嬢も私と同じ考えを持っているようね。ゼノン様がそんなことをするわけはない。でも、ヴィクター兄さまの反応が面白いので、ついついイタズラをしたくなってしまうのだ。
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「おい、ウィンベル。実のお兄ちゃんを怖がらすようなことを言うんじゃありません!」
「なんで急に変なしゃべり方になるんですか……子供をあやしているような……」
ヴィクター兄さまは本当に怖がっている印象ね。いつもの雰囲気とは全然違うから、本当にめずらしい光景を見ている感じだ。兄さまってそんなにゼノン様にコンプレックスあったのかな?
「ヴィクター兄さま」
「なんだ? ウィンベル」
「ヴィクター兄さまは、そんなにゼノン様が苦手なんですか?」
「いや……そういうわけではないが……」
あれ? なんだか表情が曇っているような……聞いたらマズイことだったかしら?
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「兄さま、本人の前で……」
「うっ、こうして本人の前で言うと照れてしまうが……まあ、事実だしな」
「ヴィクター様……!」
「か、必ずユリアナなら認めてもらえると信じている!」
まさかのヴィクター様の発言に、ユリアナ嬢は顔が真っ赤になっていた。私とジクトはお互いに顔を見合わせ笑い合う。どうでも良いけれど、これからゼノン様に会いに行く。二人のバカップル振りを見れば、必ず笑って認めてくれるでしょうね。そのくらい仲が良さそうに見えたから……。
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