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24話 楽しい舞踏会 その1

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「ヴィクター・マリストル伯爵令息。お久しぶりでございます、このような場所でお会い出来たことは誠に光栄でございまして……」

「あの……ジクト。気持ちは嬉しいのだが、むず痒くなるから止めて貰いたいな。私は君よりも位は低いのだからな」

「なんと……ご謙遜を。ゼノン国王陛下のご子息である事実は、今でも変わってはいないでしょう? それを知らなかった不届き者も居たようですが……」

 ジクトの言う不届き者っていうのは、サンセット様とシリス様のことを言っているのでしょうね。意図して言ったのかどうかは分からないけれど。

「その話は忘れてくれ。本当に私としても困るんだ……」

「そうか? なら、普通の話し方に戻すとしよう。俺としてもこちらの話し方の方が、肩の力が抜けるしな」

「是非、そうして欲しい」

「わかった」


 ヴィクター兄さまとジクトの二人は打ち解けたように笑い合っている。それは私としても微笑ましいのだけれど……ユリアナ・アムター伯爵令嬢は緊張している様子だった。

「あ、あの……ええと、私は……」

「ええと、ユリアナ嬢。気を遣う必要はないと思いますよ? 二人は幼馴染のような関係ですし、地位は多少違いますけれど、伯爵家と侯爵家の令嬢、令息だったなら、本来は敬語なんて必要ないでしょうし」

「そ、そうなのですか……? しかし、ヴィクター様とウィンベル様は本来は王子、王女殿下というお立場なのですし……」

 あれ? ユリアナ嬢の認識ではそうなってしまうのかしら……? 王子殿下、王女殿下とか言われると照れてしまうのだけれど……ヴィクター様の様子を見る限り、同じような態度だ。


「いやいや、ユリアナ嬢。私とウィンベルは既にマリストル家の養子になってかなりの年月が経つ。今更、王子や王女に戻ったら、王家は殺伐としてしまうよ……」

 それは確かにあるわね。王家に戻るつもりがあるわけではないけど、今から新しい王子や王女が出てきたら、色々とマズいと思う。主に次期国王という部分で……。

「な、なるほど……ですが、私は敬語を省くなんてできませんわ」

「なら、敬語のままで構わないさ。しかし、緊張は出来るだけせずに、楽しく会話をしていければと思うのだが……どうだろうか?」

「ヴィクター様……はい! 私もそのような関係を願っております!」


 ユリアナ嬢のヴィクター兄さまに対する反応は想像以上に高いようだった。兄さまは私の方向を見ながら、ドヤ顔をしているような……むむ、なんだか悔しいわね。ユリアナ嬢の緊張を解したのは大したものだけれど。

 ここは、ジクトに抱き着いて、私の方がリードしていることをアピールした方が良いのかな? ああでも、ヴィクター兄さまはさっき、激しい踊りでユリアナ嬢を困惑させていたわね。そこを突く方が良いのかもしれない。
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