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1話 理不尽な婚約破棄
しおりを挟む婚約破棄……それは貴族内に於いて、不名誉なものになる。相手が何らかの理由で婚約関係を続けられない、若しくは、お互いの性格の不一致などが原因となるのが一般的だろうか。
「ウィンベル、申し訳ないがお前との婚約をこれ以上続けることは出来ない」
「それは……別のお方と婚約するからでしょうか?」
私はなるべく冷静に質問している。感情的になったところで意味がないからだ。
「そういうことになるな。以前に話したことがあると思うが、シリス・トークン公爵令嬢と婚約が出来そうなのだ。伯爵令嬢であるお前と婚約を続ける意味合いは薄い。婚約を破棄してもらおうか」
「一方的ですね……サンセット様……」
サンセット・メジラマ侯爵はダグラス王国なでも上位貴族に該当する家だ。その当主である彼が、婚約破棄の重みを知らないはずないのだけれど……。
「一方的か……ふははは、確かにそうかもしれんな。だが、お前は受け入れるしか選択肢はないのだ。そうだろう?」
「サンセット様……」
私の話などまったく聞いてくれる様子はない。彼はこのまま、婚約破棄を押し通すつもりなのだろう。別の相手が公爵令嬢のシリス様だからといって、既に締結されている婚約を破棄するなんて、身勝手過ぎるのだけれど。
彼はそんなことはお構いなしなようだ。婚約をして数カ月が経過しているけれど、彼の性格の悪さはその時から出ていたように思う。この、一方的な婚約破棄の流れはもしかしたら既定路線だったのかもしれない。
「サンセット様」
「なんだ、ウィンベル?」
「サンセット様からの一方的な婚約破棄になりますので、慰謝料は貰えますよね? まさか、その部分を拒否されることはないと信じておりますが……」
いくら侯爵家といえども、伯爵家である私の家に対して、慰謝料の支払いを拒むことは出来ないはずだ。それをしてしまえば、両家の仲がとても悪くなり、彼にとってもデメリットでしかないはずだから。
「ん? 慰謝料か……ふむ」
「はい、慰謝料です。支払っていただけますよね?」
「いや……済まないが支払うつもりはない。どうして私が、たかが伯爵家の為に金を出さないといけないんだ?」
「そ、そんな……! そんな横暴がまかり通るわけが……!」
いくらなんでも身勝手過ぎる……私もついつい感情的になってしまっていた。しかし、サンセット様は平常心のままだ。
「私は議会とも仲が良いのでな……お前の家に慰謝料を支払わないことくらい、容易なのだよ」
「……!」
議会と仲が良い? それはご立派なことだけれど、まさか、婚約破棄の慰謝料を支払いたくないという理由で、こんな脅しとも取れる言葉を用いてくるなんて……とても、信じられなかった。
「お前が変に騒いだ場合、マリストル伯爵家がどのような目に遭うか……まあ、想像してみれば良い。お前はおとなしく婚約破棄を受け入れ、静かにこの場を去れば良いのだ。そうすれば、誰も何も困ることはない」
「サンセット様……」
性格の悪い方だとは思っていたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。信じられない……マリストル伯爵家のお父様やお母様にも脅しを掛けているのと変わらないわね。
こんな人と私は婚約していたのか……こんな婚約、私の方から破りたいくらいだわ!
それから、サンセット様はどうやら知らないようね。私の出生についてのことを……まあ、この場で彼に言うつもりはないけれどね。この日、私とサンセット様の婚約破棄が決まったのだった。
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