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5話 楽しい会話 その1
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「あの、グレス王子殿下……どういうことなのでしょうか?」
「そ、それはだね……まあ、色々あるんだよ、色々とね」
「はあ……色々でございますか」
「そうそう、色々だよ」
グレス様は焦っているように感じられる。これ以上、話す気はないようだけれど、とても気になってしまうわ。
「グレス兄さま、臣下の一人であるミレーヌが気にしていますのよ? 上位者としては、ここでその不安を取り除く必要があるのではなくて?」
「ま、待つんだ、ジーン……話が逸れてしまっているぞ?」
「あら、そんなに逸れた内容でもないでしょう?」
「うっ……それは、そうかもしれないが……」
本当に何のことを言っているのだろうか? 話の内容としては、グレス王子殿下が関わっていることは間違いないけれど、ジーン王女殿下は直接は関係ないのかしら。
「それに、ミレーヌ嬢は今、婚約破棄をされたばかりで混乱してしまうかもしれん」
「あら、お兄様。ここに来るまでは、話そうかどうかを悩まれていたのでしょう? 肝心なところで度胸がない殿方は嫌われますわよ」
「うっ、それはそれで困るな」
「???」
兄妹の会話が続けられているけれど、私は蚊帳の外といったところだった。グレス王子殿下が話したくないのなら、無理に聞くつもりはないけれど……本音を言えば気になるわね。
「わかったよ、ジーン。遅かれ早かれ、伝えることにはなるわけだからな……」
「ええ、その意気ですわ。お兄様……ちょうど、ミレーヌも婚約破棄をされたのですし、特に問題はありませんわよ」
「よ、よし……では」
どうやら、グレス王子殿下は私に話をしてくれるようだ。自然と身体が強張るのを感じた。グレス第三王子殿下……ミレーヌ王女殿下程のお付き合いがあるわけではないので、余計に緊張してしまう。そもそも、王族の方からこんなに勿体ぶった発言をされること自体が異例だし。
「良かったら、ミレーヌ嬢。私と何処かへ出掛けないか? 気分を落ち着ける意味合いもあるし……どうだろう?」
「ぐ、グレス王子殿下とですか?」
私はびっくりして勢いよく立ち上がってしまった。バクラ様から言い渡された婚約破棄の言葉とは、別の意味でインパクトが大きい。
「ああ、私とその……二人で……」
「ふ、二人で……それって……」
「ふ、ふふふふふ……」
私とグレス王子殿下はお互いの顔を見ていなかった。自然と別の方向に視線を移動させている。それは……ええと、つまり、グレス王子殿下はその……私を元気付けてくれているのは確定なわけで。いえ、それはとてもありがたいのだけれど、もしかしてそれ以上の期待をしても良いってこと?
確かに内容的にはバクラ・クレメンス侯爵令息との関係が絶たれた直後だし、適当だとは言えないかもしれない。ただ、非公式……と言って良いのかは分からないけれど、プライベートでそういった話が出て来るくらいなら、良いんじゃないかしら? なんて、どうしても自分に甘く考えてしまう。私はそれだけ、救いを求めているのかもしれない。
「あら、小市民的な顔が睨んでいるけれど、どうかしたのかしら? ミレーヌ?」
「ジーン王女殿下、楽しんでませんか?」
「あら、それは心外だわ。私はお兄様のことが大好きだから、私の元を離れて行くのが耐えられないのよ……」
「楽しんでるね、確実に」
ジーン王女殿下はとても楽しんでいるようだった。王族の方々に弄られるというのも、貴重な体験かもしれない。私の心の中は先ほどよりも楽になっていた──。
それは良いとして……グレス様の申し出は、デートの誘いということよね? そう考えると顔から火花が出そうだわ……とても恥ずかしい。
------------------------
バクラ・クレメンス侯爵令息視点……。
「よし……ジーン王女殿下への告白の言葉もしっかりと考えた。彼女のハートを鷲掴みにするシチュエーションも完璧だ」
「ほほう、バクラよ。いよいよ、彼女……ジーン・ファルガ王女殿下にお会いするのだな? しっかりと彼女のハートを射止めて来るのだぞ」
「畏まりました、父上。この、バクラ・クレメンス……精一杯の想いを伝えてきたいと思っております」
「うむ、その意気だ。ライドウ伯爵家への対応は私に任せておきなさい」
私は父上である、アギト・クレメンスから励ましの言葉を受けていた。ジーン王女殿下にお会いし、彼女との婚約を決定づけるのだ。ジーン王女殿下はまだ未婚の17歳だ。この前の舞踏会での会話を経て、私は彼女の心が私に向いていることを確信した。
非常に手応えを感じたのだ。あの気難しいと評判のジーン王女殿下が私だけに甘えて来る……ふふふ、そう考えるだけでも興奮を抑えることが出来ない。必ず、ジーン王女殿下をモノにしてやろう。私の心の中はその想いで満たされていた。
「そ、それはだね……まあ、色々あるんだよ、色々とね」
「はあ……色々でございますか」
「そうそう、色々だよ」
グレス様は焦っているように感じられる。これ以上、話す気はないようだけれど、とても気になってしまうわ。
「グレス兄さま、臣下の一人であるミレーヌが気にしていますのよ? 上位者としては、ここでその不安を取り除く必要があるのではなくて?」
「ま、待つんだ、ジーン……話が逸れてしまっているぞ?」
「あら、そんなに逸れた内容でもないでしょう?」
「うっ……それは、そうかもしれないが……」
本当に何のことを言っているのだろうか? 話の内容としては、グレス王子殿下が関わっていることは間違いないけれど、ジーン王女殿下は直接は関係ないのかしら。
「それに、ミレーヌ嬢は今、婚約破棄をされたばかりで混乱してしまうかもしれん」
「あら、お兄様。ここに来るまでは、話そうかどうかを悩まれていたのでしょう? 肝心なところで度胸がない殿方は嫌われますわよ」
「うっ、それはそれで困るな」
「???」
兄妹の会話が続けられているけれど、私は蚊帳の外といったところだった。グレス王子殿下が話したくないのなら、無理に聞くつもりはないけれど……本音を言えば気になるわね。
「わかったよ、ジーン。遅かれ早かれ、伝えることにはなるわけだからな……」
「ええ、その意気ですわ。お兄様……ちょうど、ミレーヌも婚約破棄をされたのですし、特に問題はありませんわよ」
「よ、よし……では」
どうやら、グレス王子殿下は私に話をしてくれるようだ。自然と身体が強張るのを感じた。グレス第三王子殿下……ミレーヌ王女殿下程のお付き合いがあるわけではないので、余計に緊張してしまう。そもそも、王族の方からこんなに勿体ぶった発言をされること自体が異例だし。
「良かったら、ミレーヌ嬢。私と何処かへ出掛けないか? 気分を落ち着ける意味合いもあるし……どうだろう?」
「ぐ、グレス王子殿下とですか?」
私はびっくりして勢いよく立ち上がってしまった。バクラ様から言い渡された婚約破棄の言葉とは、別の意味でインパクトが大きい。
「ああ、私とその……二人で……」
「ふ、二人で……それって……」
「ふ、ふふふふふ……」
私とグレス王子殿下はお互いの顔を見ていなかった。自然と別の方向に視線を移動させている。それは……ええと、つまり、グレス王子殿下はその……私を元気付けてくれているのは確定なわけで。いえ、それはとてもありがたいのだけれど、もしかしてそれ以上の期待をしても良いってこと?
確かに内容的にはバクラ・クレメンス侯爵令息との関係が絶たれた直後だし、適当だとは言えないかもしれない。ただ、非公式……と言って良いのかは分からないけれど、プライベートでそういった話が出て来るくらいなら、良いんじゃないかしら? なんて、どうしても自分に甘く考えてしまう。私はそれだけ、救いを求めているのかもしれない。
「あら、小市民的な顔が睨んでいるけれど、どうかしたのかしら? ミレーヌ?」
「ジーン王女殿下、楽しんでませんか?」
「あら、それは心外だわ。私はお兄様のことが大好きだから、私の元を離れて行くのが耐えられないのよ……」
「楽しんでるね、確実に」
ジーン王女殿下はとても楽しんでいるようだった。王族の方々に弄られるというのも、貴重な体験かもしれない。私の心の中は先ほどよりも楽になっていた──。
それは良いとして……グレス様の申し出は、デートの誘いということよね? そう考えると顔から火花が出そうだわ……とても恥ずかしい。
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バクラ・クレメンス侯爵令息視点……。
「よし……ジーン王女殿下への告白の言葉もしっかりと考えた。彼女のハートを鷲掴みにするシチュエーションも完璧だ」
「ほほう、バクラよ。いよいよ、彼女……ジーン・ファルガ王女殿下にお会いするのだな? しっかりと彼女のハートを射止めて来るのだぞ」
「畏まりました、父上。この、バクラ・クレメンス……精一杯の想いを伝えてきたいと思っております」
「うむ、その意気だ。ライドウ伯爵家への対応は私に任せておきなさい」
私は父上である、アギト・クレメンスから励ましの言葉を受けていた。ジーン王女殿下にお会いし、彼女との婚約を決定づけるのだ。ジーン王女殿下はまだ未婚の17歳だ。この前の舞踏会での会話を経て、私は彼女の心が私に向いていることを確信した。
非常に手応えを感じたのだ。あの気難しいと評判のジーン王女殿下が私だけに甘えて来る……ふふふ、そう考えるだけでも興奮を抑えることが出来ない。必ず、ジーン王女殿下をモノにしてやろう。私の心の中はその想いで満たされていた。
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