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10話

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「シンディ様。アルフ様との婚約……それを言いに来たのですか……」

「ええ、そうよ。テレーズだって、あの人がその後どうなったのか気になるでしょう? だからこうして教えて上げに来たのよ。他の貴族はまだ知らないはずだしね」

「別に……そんなことは……」


 シンディはまだ誰も知らない婚約のことを、私達に教えに来たというのだ。なんという迷惑だろうか……。

 私はパニック状態になっていた。シンディ様には強がってみせるけど、これは嘘である。アルフのその後は気になって仕方がない……。それが事実だからだ。

「テレーズ、少し落ち着くんだ」

「兄さん……はい、わかりました」

「お前は心配する必要はないからな?」

「は、はい……」


 デュラン兄さんはこんな時でも頼りになる。私を元気付けてくれるし……ありがとう、兄さん。


「シンディ様。アルフ様との婚約の件ですが……その前に彼は、ここにいるテレーズと婚約していたことはご存知ですよね?」

「ええ、もちろん。知っているわよ」

「では、二人が婚約破棄したことも知っているはずだ。その時の状況は……酷いものだったと聞いています」


 デュラン兄さんは私に代わって、婚約破棄の詳細をシンディに語ってくれた。彼女は無言で兄さんの話を聞いている。途中で遮ったりすることもなく、最後まで聞いてくれた。


「ふ~ん、そんなことがあったのね。身分が違うからという理由で婚約破棄……それに慰謝料は支払わない、と。そういうことなのね」

「ええ、そういうことですよ。公爵令嬢として、その辺りはどのように考えているのですか? 決して許されることではないと思いますが?」

「そうねぇ……」


 シンディは何か考えている様子だった。しばらく無言で辺りを見渡しながら、なにかブツブツと言っている。考えでもまとめているのかしら? 意味のわからない行動だった。


「別に私はどうでもいいわ。貴方達にとっては気の毒かもしれないけれど……まあ、そういうこともあると、いい社会勉強になったんじゃない?」

 と、なんとも言えない適当な答えが返って来た。信じられないんだけど……。

「なっ! それでもあなたは公爵令嬢なのですか……! 私の妹を一体なんだと思っているんですか!」

「五月蠅いわね……あんたの妹なんて、伯爵令嬢に過ぎないんでしょ? でも、そこそこの立場なんだし、適当に相手見つけて結婚させれば? ああ、こういうのはリジェント伯爵が決めるんだっけ?」

「な、何だと……!?」

「なんだか疲れちゃった。私、もう帰るわね……それじゃあ」


 そう言うと、本当にシンディは帰って行った。何も悪びれる様子がない……予想以上に酷い相手だったような気がする……。私達は何もできないの……?
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