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3話 突然の訪問 その2
しおりを挟むマークス・トルドイ第三王子殿下がシャスカ伯爵家を訪れた……これは相当に凄いことだ。
「あ、あの……ええと……」
「そんなに緊張することはないと思うが……突然の訪問は申し訳なかった」
「い、いえ……とんでもないことでございます……」
王子様に謝罪させる伯爵令嬢がどれだけ居るだろうか……私はそれだけで恥ずかしくなってしまっていた。いくら幼馴染とはいえ、最低限の礼儀というものが存在するはずだし、相手は王子殿下だしね。
「お久しぶりでございます、マークス様」
「ああ、久しぶりだな、カミーユ。こうして会えて嬉しいよ」
「はい、ありがとうございます。私も嬉しいです」
この言葉は本音だった。マークス様とは2年くらい会っていなかったから、余計に再会は嬉しい。たったの2年間だけれど、彼は背が伸びたように思える。
「マークス様、このお方が幼馴染のカミーユ伯爵令嬢なのですね?」
「そういうことだ、ゼラン」
ゼランと呼ばれた付き人は私に視線を合わせていた。そして、深々と頭を下げる。
「お初にお目に掛かります、カミーユ様。私は子爵令息のゼラン・コルカストと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、はい! カミーユ・シャスカと申します。よろしくお願い致します……」
付き人の丁寧な挨拶に私は恐縮してしまっていた。なるほど、子爵令息か……立場的には伯爵家よりも下だけれど、その態度はとても教育されているように見えた。
子爵令息のゼラン様……只者ではなさそうね。流石は第三王子であるマークス様の付き人なだけあるわ。私は付き人のゼラン様の第一印象をとても気に入っていた。
「さて、挨拶は終了ということで良いかな?」
「あ、はい。失礼致しました。マークス様、本日のご用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」
私の部屋に入って来ているということは、お父様達に歓迎されたことを意味するはず。まずは用件の確認が重要だと思えた。
「用件については、カミーユの様子を見に来たというのが正しいな」
「私の様子でございますか……?」
「ああ、その通りだ。カミーユはクロッセ・エンブリオ侯爵と婚約破棄をしているだろう? それからまだ間もないが、大丈夫かと思って寄らせてもらったんだ」
「さ、左様でございましたか……ありがとうございます」
「なに、幼馴染として訪問させてもらっただけさ。お礼を言われることではないよ」
「い、いえ……そんなことは……」
マークス様は優しく微笑んでくれていた。私の晴れない心に光を与えてくれているようだ。彼の付き人のゼラン様も発言をすることはないけれど、微笑んでいた。
私は二人から元気を貰えた気がする。お父様はこれを見越して、私の部屋に案内したのかしら? そうだとするなら……感謝しかないわね。
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